第180話、ルート選び


「ここは、不思議なパーティーだね……」


 そう言ったのは、ヴィオ・マルテディだった。


 メンバー紹介もまだの段階で、エルフやら獣人やら妖精やらアラクネやらを見て、さらにメイド服など着ていたら、勘違いもするもので。


「……とりあえず、あのメイド服の人たちは、メイドではないと?」

「皆、うちのクランメンバーだよ」


 ヴィオって、マルテディ侯爵家の令嬢でもあるから、メイド服を着ていたらメイドだって信じてしまうみたいだ。紹介前だったから余計に。


 ということで、改めて全員を集めて、軽く紹介。これにはニニヤとマルモ、ゴム、ベスティア、人魂状態のカイジン師匠も加わる。ゴーストまでいて、ヴィオは目を剥いていた。


 ドワーフはともかく、スライムにゴーレムのように見える鎧騎士に、幽霊だもんな……。そう考えると、アラクネがいても、さほど驚きはないように思えてくる。


「……ところで、マルモ。お前、その格好――」

「やっ、あんまり見ないで欲しいかなぁ、と……」


 子供サイズとはいえ、イラがちゃんと用意していたメイド服。案外ノリノリで着るかと思いきや、そうではないようで。人がやるのはいいけど、自分では駄目なタイプなのかもしれない。


 一方、ニニヤはいつも通りの格好。メイド服は断固拒否したのかは定かではない。


 それはそれとして、あとはダイ様とオラクルも、ヴィオに紹介しておこう。


「我が名は、魔剣ダーク・インフェルノ!」

「略してダイ様」

「略すなー」

「オラクル」

「わらわはオラクルセイバー。神聖剣じゃ。よろしくな聖剣使いの娘よ」

「……ここまで喋るものなの? 剣って!?」


 ヴィオはさらにビックリしていた。


「そりゃ、僕のスカーレットハートも、声のようなものを感じることはあったけども! ここまではっきり喋らないのに!」


 まあ、聖剣でも色々かもなあ。最初に拾った聖剣のブレイブストームは喋らなかった。聖剣使いの試練の途中で出会ったアクアウングラは会話したしな。


 そんなこんなで自己紹介の後、今後の方針説明を行った。


「討伐軍が再編成されるまで、俺たちリベルタは、ラーメ領に飛んで、偵察と可能な範囲で魔物を減らしていく」


 俺はヴィオ・マルテディを見る。


「あと、聖剣スカーレットハートの回収」


 コクリと頷くヴィオ。俺は視線を戻した。


「主力の討伐軍がやってきてからが本番だ。それまではこちらも小刻みに攻めていく。危ないと思えば引く。1回で全部こなそうとしなくていい。何度も何度も挑んで最終的に勝てばいい」


 仲間たちは頷いた。いきなり決戦をしようとしているわけではないことを伝えておく。ニニヤとかマルモの表情から少し緊張が抜けるのが見えた。いくら俺たちリベルタでも、単独でラーメ領解放なんて大それたことは考えていないからね。


 ここから具体的なルート確認をする。テーブルを用意し、王城で写しをもらったラーメ領の簡略ながら地図を広げる。仲間たちが地図を囲むように集まる。……こうして見ると、人数増えたな、うちのクラン。


「ラーメ領は東西に街道が走っている」


 王都より東にあるラーメ領。街道に沿って行けば西部にセッテの町がある。


「王城に駆け込んだ伝令によれば、一度は確保したこの町も魔物が押し寄せてきていたという話だった。おそらく、今は魔物たちに占領されていると思う」

「討伐軍が最初にぶつかるのが、ここね」


 アウラの指がセッテの町を指して、そこから街道をなぞる。山と湖があって、その中間を街道が抜けているが、砦を示す印がついていた。


「街道の関所がある」

「砦だった」


 ヴィオ・マルテディが口を開いた。


「街道が山の一部を通っていて、道の通りに行けば、ここは回避できない。敵がいるなら、ここを突破しないと進めない」

「迂回は――」


 マルモが首を横に振った。


「無理そうですね」

「北は山を迂回しないといけないし、南は湖だからね」


 ヴィオが湖の南を指した。


「ここまで迂回しないと橋がない。かなり遠回りになるって聞いた」


 先の討伐軍は、街道を通ったので、迂回路は使っていないという。


「街道の砦の先は……」

『谷になっておる』


 カイジン師匠が言った。


『かなり高い崖に挟まれた場所を街道が走っておる。そこを抜けるとニエンテ山があるが、ここに山を抜ける地下トンネルがあるのだ。そこを通れば反対側に出て、そのまま真っ直ぐ街道に沿って進めば、領主町へ到着する』

「行きの時、トンネルに魔物が出た」


 ヴィオは皆を見回した。


「僕らは突破したけど、たぶんここも取り返されたと思う」

「地上を行くなら街道が一番早いんだけど、当然楽な道ではないわね」


 アウラが自身の緑色の髪を撫でた。ルカが口を開く。


「そうなると、空からですか?」

「空?」


 怪訝な顔をするヴィオに、ダイ様が胸を張った。


「我の使い魔であるダークバードがあれば、空を飛んで直接乗り込むことができるのだ!」


 そんなわけで――俺は、地図を指でなぞった。


「とりあえず、空ルートを使って、偵察を兼ねて領主町へ行こうと思う。行きのルートは街道を使わず――」


 南寄りを飛び、湖を横断。領主町の近くまで伸びている川を右に見つつ、平原地帯を飛ぶ。


「で、領主町を偵察したのち、帰りは街道に沿ったルートを上空から偵察する。敵は魔族だって話もあるからな。領主町の方向から飛んできたら、地上の魔族も味方と誤認してくれるかもしれない」


 王国側から飛んでくるものは警戒するが、味方がいる方向から飛んできたら、敵とは思われにくい説。魔物相手だとあんまり関係ないかもだけど、城や町を利用する魔族だったら、割とアリだと思う。


 アウラやルカ、シィラが頷いた。他の面々も反対はないようだった。


「ところで、ヴィオ」

「何?」

「聖剣を回収するって話なんだが」


 彼女は自分が持っていた聖剣スカーレットハートの奪回に、かなり拘っている。


「場所って、まんまカパルビヨ城だよな?」


 立ち塞がったルースと戦ったのが城だったって話だし。それって、本拠地に乗り込むってことだよな?


「たぶんね。ある程度近づけば、聖剣の存在を感じ取れるから、どこにあるかはわかると思う」


 聖剣使いには、愛用する聖剣の位置がわかるらしい。俺は腕を組んだ。


「1回目の偵察でどこまで近づけるかだけど、ある程度場所は絞り込んでおきたいよな……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る