第169話、ヴィゴ VS ルース


 ルースは、姿だけでなく、本物の化け物になっちまった。


 女を侍らせてもさ、女を盾にするようなヤツじゃなかったはずなのに。


 あの不気味な石の盾。あのレリーフも生きた人間かもしれない。魔剣で盾ごと潰そうかとも思ったけど、生きている人間が閉じ込められているなら、それはなしだろう。


 材質が石っぽいから、強い武器がぶつかったら傷がつきそうだ。レリーフになっている人間にも傷がついて……汚ぇ、ほんと最低だな! 


「ウォオォォ!」


 ルースが突っ込んできた。神聖剣で――いや、盾で防ぐ! 俺は超装甲盾で斬撃を阻止。ここで右手の神聖剣を振ると、あの石盾で防がれる。神聖剣で斬りつけたら、盾の中の人もどうなるかわからない。だから――!


 俺は奴の攻撃を盾で防いだ瞬間、盾から手を放した。四角い盾が床にめり込む間に、右ではなく、左へステップ。ルースの盾側ではなく、剣を持った側に回り込む。


「!?」

「遅ぇ!」


 神聖剣で斬! ルースの右手を切り飛ばす。


「ウガッ!?」


 利き腕を切り落とされたルースの脇腹に思い切り蹴りを打ち込む。床へと倒れ込むルース。間髪を入れずに追い打ち――をかけようとしたら、ルースが倒れながら蹴りを合わせてきて、俺の腹部に一撃入れてきた。


 くそ、追い打ち失敗! 鎧のおかげで痛くなかったけどな!


 ルースが起き上がる。右手を失い、左手で。しめた! 盾を手放した!


「ヴィゴォォ!」


 素早く起き上がったルースが、右手首のない右腕で殴りかかる。そんな腕で……と、その瞬間、ルースの右手首が内側から盛り上がり再生した。そして腕自体が丸太のようにぶっとくなり――


「っ!?」


 ぶん殴ってきた。とっさに神聖剣でガード。しかしパワーで吹っ飛ばされた。


「ヴィゴさん!?」

「ヴィゴ!」


 ルカとシィラの声が聞こえた。俺は壁際まで飛ばされたが、何とか体勢を崩さずに済んだ。オラクルセイバーで直撃を防がなければ、あるいは骨の1、2本くらいやられるほどの威力だったかもしれない。


 距離が離れたおかげで、全体の様子が視界に収まった。ルカや仲間たちは、鉄人形を撃破しつつある。カイジン師匠は……何か包帯を巻いた二刀流の剣士と戦っていた。


 おっと、よそ見している場合じゃなかった。


「ヴィィゴォォッ!」


 両腕を肥大化させ、ルースが飛び込んできた。ほんと、化け物だぜ、その姿はよ。


 神聖剣での魔法や技は、仲間たちを巻き込むかもしれない。だから、俺は鞘に収まっている魔剣を左手で抜いた。


「ルーズだぜ、お前はよ……!」


 ダーク・インフェルノの一振りは、ルースの巨腕を両方とも断頭台の一刀の如く両断した。6万4000トンの鋭い一撃に大抵のものは一瞬で切れる。


 カイジン流、十文字斬――!


 俺の右手の神聖剣オラクルセイバーがルースの胴を切り裂く。それは奴の腕を切り落として、刹那の出来事だった。


 ルースは両腕の喪失に気づいた時、自身の胸も縦に斬られていた。


「……ヴィ……ゴ――」


 ドサリ、とルースはその場に倒れて、動かなくなった。


「……」


 俺たち、親友だったよな……? 何でこうなっちまったんだよ! ……虚しいよ。本当に。



  ・  ・  ・



 室内の戦闘は、いまだ続いていた。


 鉄人形だけでなく、その強化版と覚しき鉄騎士、さらにスライムや殺人蜂キラービーがいたるところから湧いて出てきた。


 ルカが魔法大剣ラヴィーナで、アウラが丸太落としで鉄騎士を破壊すれば、飛び込んでくるキラービーを、ネムの早撃ち弓とゴムの飲み込みで阻止。ファウナたちはバックアップに周り、そんな後衛組をシィラが護衛した。


 そしてカイジン師匠は――二刀流のミイラ剣士と戦っていた。上半身は包帯に負かれ、腕には手甲、下半身はズボンに脚を守る防具。そして手に一本ずつ片刃の剣を持ち、連続攻撃を繰り出す。


 ベスティア2号ボディであるカイジン師匠だが、右腕固定式のブレードは若干不慣れのようで、ミイラ剣士の手数に押されている印象だ。


 俺はそちらへ駆ける。


「ダイ様、師匠の剣を!」


 地下迷宮の宝箱で見つけたカイジン師匠の剣。ダイ様の収納庫にしまったそれを取り出す。


「師匠!」


 鞘ごと剣を投げる。後方へ跳躍したカイジン師匠は、それを空中で掴んだ。


『かたじけない!』


 白騎士は鞘から剣を抜いた。剣、いやそれは刀だ。その長き刃は、ベスティアのボディサイズから見ても長く感じる。


『おお、我が手に戻ってきたか、陽炎かげろうよ』


 右腕のブレードを収納。カイジン師匠は愛刀を両手で握った。


『魔断刀「陽炎」――』


 炎のようなオーラが揺らめく。しかしミイラ剣士も両手を振り上げ、飛び込んできた。


 刹那、電撃が走った。


 否、瞬きの間にカイジン師匠が駆け抜けたのだ。


『カイジン流魔断剣術、イナビカリ――!』


 パチリ、と刀を鞘に収めた時、飛び込み、後ろに置き去りにしたミイラ剣士が真っ二つになって床に落ちた。


 凄ぇ……。さすが師匠だ。


『主様のお師匠もやるのぅ』


 オラクルが感心をすれば、ダイ様も言った。


『まあ、腕がいいのは間違いないな』

「当たり前だ。俺の師匠だぞ!」

『ヴィゴ、よく我が刀を取り戻してくれた! 感謝するぞ』


 カイジン師匠が礼を言った。その視線は、壁際に横たわる。ルースの死体で止まる。


『魔に堕ちたか……。しかし、まだペルドルめが残っておる。行けるか? ヴィゴよ』

「はい!」


 ちら、と俺はフロアを見回す。こっちの戦闘も、もうじきケリがつきそうだった。アウラが親指を立てた。


「こっちは任せなさい、ヴィゴ!」

「頼む!」


 俺と超装甲盾を拾い、カイジン師匠と共に、二階への階段を駆け上がる。ここはホルバ家の別宅である、ペルドルの屋敷。


 ミノタウロス騒動と関係があり、カイジン師匠を殺害し魂とした諸悪の根源が、まだここにいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る