第167話、再会の時


 まだダンジョンなのか、と俺は思った。


 石ブロックが敷き詰められた内装。燭台の明かりが室内を照らしている様は、どこかの城の中を連想させた。


「しかも分岐が多い!」


 といっても、大抵は倉庫だったり、檻だったりするのだが。


 その都度、警護用の案山子人形が武器を手に襲いかかってくる。これがこいつらの仕事なんだろうけど。


「邪魔!」


 神聖剣で切断したり、超装甲盾で潰したり。何より厄介なのは――


「今度の化け物は何だ?」


 檻の中にいたモンスターが出てくることだ。ここにいたのは、頭が二つあるブラッディウルフ。


「ケルベロスってヤツか!?」

「……残念です、守護者様。あれはたぶん、オルトロスです」


 ファウナが訂正した。ケルベロスは三つ首で、地獄の番犬だっけか。二つ頭はオルトロスというのか。


 エルフ・シャーマンが弓を番えて矢を放つと、オルトロスの右の頭の額を撃ちぬいた。もう片方が吠えるが、そこへネムがショートボウを撃ち込んでオルトロスの左の顔を黙らせる。


「やった!」

「……どうやら、姿はオルトロスでも中身はただの狼だったようです」


 ファウナはそう評した。俺は軽く檻の中を確認して引き返す。


「こいつも改造生物ってやつかね」


 このダンジョンは、こんなモンスターばっかりだ。檻には、それぞれ違う種類がいて、いかにも作りましたよと言わんばかりである。


 これも、ペルドル先生が作っていたんだろうか……?


「ヴィゴさん!」


 ルカの呼ぶ声が聞こえた。


「地下ダンジョンの出口、あったみたいです! どこか建物の中に繋がっています」


 とりあえずこの地下フロアにも終わりがあったらしい。建物の中というが、果たしてどこに通じているやら。


 俺とファウナ、ネムが行くと、ルカとリーリエがいて、他の面々はどうやら階段を登って上に出たらしい。地下よ、さらば!


 でかい室内に出た。どこかのお屋敷を思わせる広さ。そしてシィラとアウラ、ディーが鉄の鎧をまとった人形兵士と戦っていた。


「ペルドル先生のところの人形だ……」


 昔、先生に見せてもらったことがある。鉄で覆われた人形なのに、動いたり喋ったりして『凄ぇー!』って驚いた記憶がある。


 すると、ここは村はずれにあるホルバ家のお屋敷の中か。カイジン師匠を殺害したことにペルドル先生が関係したなど、信じたくはなかったが、これはいよいよ疑いようの余地がなくなってきたか。こうなって欲しくはなかったが。


「ヴィゴ! 手を貸してちょうだい!」


 アウラが、鉄人形を魔法で吹き飛ばしながら振り向いた。


「ちょっと数が多くて――」

「前に出る!」


 シィラひとりで、多数の鉄人形を支えるのも厳しそうだ。俺とルカは前衛に出て――


 ドォンと、左手方向――屋敷の扉が派手に吹っ飛んだ。……ええっ!?


 白銀に輝く騎士甲冑が飛び込んできた。


『おお、ヴィゴ! ここにいたか!』

「カイジン師匠!?」


 何故、ここに!? 俺が驚いていると、ベスティア2号機に憑依しているカイジン師匠が腕のブレードで、鉄人形どもを切り裂き始めた。


 さらに――


「ヴィゴさーん!」

「マルモ! イラも」


 洞窟の見張りに残していたふたりも現れた。マルモがガガンを構えて、連続して魔弾を撃ちまくった。鉄人形が次々に撃たれてスクラップに変わる。


 イラが俺のもとにやってきた。


「ご無事でしたか、ヴィゴ様」

「ご覧の通りさ。それより、どうしてここに?」

「ヴィゴ様たちが、ミノタウロスの迷宮に入っている間に、村の人が来たんです」


 俺たちが留守の間に、黒い小型ドラゴンとそれに乗った魔物の騎士が襲ったらしい。その魔物騎士は、とある民家を襲い、そこの住人の死体を持ち帰ったそうな。


「そのドラゴンがこちらの屋敷の方へと飛んだと聞いて、カイジン様がこちらに……」

「そういうことか」


 そのドラゴンと騎士が、ペルドル先生絡みと予想し、師匠とイラ、マルモは追いかけてきたと。ベスティアとニニヤがいないが、洞窟でまだ見張っているってことでいいのかな。


「しかし、ドラゴンと魔物の騎士って……」


 俺たちは見ていないけど、ここに――


「ヴィゴ……!」


 声が降りかかった。若い男の声だ。違和感はあった。だが聞いたことがある声だった。忘れようもないその声に、俺は玄関フロアから二階へ繋がる階段の上へと視線をスライドさせた。


 黒き甲冑をまとった騎士が立っていた。漆黒の刀身を持つロングソードに、石でできたカイトシールド。


 灰色の肌の魔族――しかし、その顔の形は。


「ルース……?」

「アア、ヴィゴ。まさカ、こんなところデ、会エルとはナ!」


 かつての幼馴染み。冒険者パーティー『シャイン』のリーダーだった男。ルース・ホルバ――しかし。


「どうしたんだ、その姿は?」


 人間のそれと違う肌、そして目。右目周りが黒く爛れたような色をしている。


「生マレ変わっタンだよ……僕ハね」


 イントネーションがおかしいというか、若干片言っぽくなっているが、言語に何かダメージでもあるかのようなルース。


 彼は、つかつかと赤絨毯の階段を降りてくる。


「ウレシイよ、ヴィゴ。お前ハ、僕ノ手で始末シたかったカラね……」

「何を言っているんだ?」


 久々に会った幼馴染みが、殺意をたぎらせている。そりゃ最後に会った時は、お前のパーティーは崩壊し、その仲間だったイラを俺が奪ったように見えただろうけどさ……。そもそも崩壊の原因は、お前がパーティーの仲間を見捨てて逃げたのせいだろう?


「僕ハ、オマエが憎い!」


 はあ? 何を言っているんだよマジで。


「俺を追放したのは、ルース、お前だろうが!」


 俺がそれを逆恨みに思うことはあっても、追放した本人であるお前に恨まれるのは筋が違うぜ。


「そんなコトはドウデモいい……」


 いや、よくねえよお前。ふざけんなよ!


「この日が来ルノを待ちワビた……。ヴィゴ、お前ヲ、コロス!」


 ルースは駆け出した。鉄人形と俺の仲間たちが戦っているのをよそに、一直線に俺へと迫ってきた。

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