第165話、異形パレード


 秘密の抜け道を発見してしまった。それに気づいたネムの頭をシィラが撫でた。


「よく見つけたな」

「えへへ……」


 身長差のせいか大人と子供のやりとりに見える。それにしても狭い通路だ。


「この奥は果たして何があるのかな?」

「こっちも宝物庫……はないか、さすがに」


 アウラが顎に手を当てれば、ファウナが口を開いた。


「……どうでしょうか。こちらの宝物は、侵入者をここで止めるための囮。本物の宝物は、さらに奥に隠しているかもしれません」

「確かに。手前にお宝があれば、それより奥にあるなんて思わないわよね、普通」

「どうかな。お宝じゃなくて、ペルドル先生の秘密工房があるのかも」


 俺は盾を構えて――あんま余裕ないな。それだけ狭いってことだが、逆にこの盾で全身を覆えるから、攻撃されても防げるな。


「どうするの、ヴィゴ? ダンジョンが続くなら、一度引き返す手もあるけど」

「俺もそう思ったけど……進もう」

「いいの? お師匠さんたち、外で待機しているけど」

「それはそうなんだけどさ」


 カイジン師匠のことだから、ペルドル先生にお返しがしたいと思っているだろう。だけど――


「師匠のボディであるベスティアは、この通路通れないと思う」

「あ……」


 アウラの表情が固まった。ベスティアとその2号機は背も高く、肩装甲など幅がある。ある程度柔軟性はあるが、その可動は人間のそれには及ばない。


 頑張れば何とか通れるかもしれないが、通過するまでに恐ろしく時間がかかる上に、何かの弾みで引っ掛かったら、身動きとれなくなってしまうだろう。


「妖精の籠があればなあ」

「籠は、今イラさんでしたっけ?」


 ルカが苦笑した。無い物ねだり。俺はスペースの都合上、ゆっくり前進する。


「ファウナの言う通り、宝物庫かもしれないし、とりあえず確認しよう」


 あるいはただの行き止まりだったりしたら、一度戻ってからここに来るのも無駄足になってしまうしな。

 狭い通路が真っ直ぐの通路を進む。


「シィラ、大丈夫か?」

「狭い……」


 体が大きいと苦労するな。シィラでさえこうなのだから、ベスティアには無理だろう。


「おっと、部屋に出たぞ」


 広い部屋に出た。待ち伏せはなし。ここはどこだ?


「ジメジメしてるー。それにくさーい」


 リーリエが俺の肩に乗った。シィラも出てきた。


「地下室か?」

「迷宮の続きかも」


 ネム、アウラ、ディー、ファウナ、ルカ、ゴムと順にやってくる。さあて、今はどこでしょうかっと。


「……邪な気配を感じます」


 ファウナが言えば、アウラも構えた。


「団体さんのお付きね!」


 わらわらと魔物が出てくる。スライムに、案山子のような人形、それと――


「あれはっ!」


 シィラが視線を鋭くした。


 寄生生物に全身を覆われた人間が複数、武器を手に現れたのだ。真っ赤に染まった目、血の気が失せた肌。寄生生物の足が、その人間の体に刺さっていてそれが鎧のようにさえ見えた。


 俺はそれらを睨みながら、アウラに聞いた。


「あれ、サソリもどきを引き剥がしたら助けられると思う?」

「無理でしょうね。あんなに全身を貫かれていたら、全部取り除いても出血多量で死ぬわよ」


 ディー、とアウラが振ると、白狼族の少年治癒術士は言った。


「ボクの治癒魔法では、たぶん回復が追いつかないと思います。そもそも、あの人たちからは死臭がします。もう、体は死んでいるかも」


 アンデッドか……。死してなお、あの寄生生物に体を操られているってことだ。大人しく葬って、楽にしてやるのが礼儀か。


「解放してやろう……!」


 寄生戦士が、スライムが、案山子人形が襲いかかってきた。


「まずはスライムから! ファイアランス!」


 アウラが炎の槍魔法を複数同時発射して、スライムを炎上させる。突っ込んできた寄生戦士と案山子人形は、俺とシィラで防ぐ、切り裂く!


 オラクルセイバーの一撃で両断。シィラが魔法槍で寄生戦士を貫くが――


「こいつっ!? 硬い!」


 寄生戦士の剣に、シィラは下がって躱す。あの寄生生物の足、かなり頑丈なようで、鎧のようというのはあながち間違っていないかもしれない。


「シィラは案山子をやれ! 寄生生物は俺がやる!」


 神聖剣を防ぐだけの防御力はない。位置を入れ替え、相手を変えて攻撃!


「なるほどっ!」


 俺は、寄生戦士の手強さを実感する。こいつら、手や首が胴体から切り離されても動きやがる! そこらのゾンビよりたちが悪いな!


 取り付いている寄生生物が目となり、体を動かしているのだ。だからその胸の真ん中にいる奴を止めないとな、止まらないよな!


 対処方法がわかればこっちのもの――


『お主、油断するな!』


 鞘に収まっている魔剣が勝手に抜けて宙を舞った。直後、俺の後ろに飛び、ガキンと金属音。見れば倒した寄生戦士の剣が浮遊して突っ込んできたようだった。


『こやつら、魔法生物だ!』


 ダイ様が自分で動けるようになってなければ危なかった。迎撃された剣は、魔剣のパワーに対抗できない安物だったらしく、一撃でグズグズに潰れた。


「気をつけろ! 奴らの武器も攻撃してくるぞ」


 倒した案山子人形らの武器も、主を失うと勝手に浮遊し、剣先からファイアボールやアイスブラストを放ち始めた。


「魔法まで使うの!?」

「ずっこい!」

「ネム、リーリエ、私の後ろに!」


 ルカが魔法の盾から障壁を展開して、味方を守る。さすが王国の宝物庫にあった魔法防具。頼りになる!


 なかなかトリッキーな手を使ってくる敵だが、手がバレればどうってことはない。


「丸太落とし!」


 アウラが出現させた丸太の直撃を受けて、案山子人形が潰れたのが最後だった。俺たちは魔物どもを返り討ちにした。


 とっ、俺の兜の上にリーリエが飛び込んだ。


「ヴィゴ! また何か来るっ!」


 奥から、ずんぐりした何かが現れた……。何だ……? 何かやたら醜い、ブクフク巨体の大鬼――オーガが出てきた。

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