第164話、戦利品と隠し通路


「いやはや、やるもんだ」


 ペルドル・ホルバは、魔法水晶に映し出した光景にニヤリとした。


「まさか私の作ったキマイラをああも簡単に倒してしまうとはね」


 想定外だった。いや、この侵入者たちは、最初からペルドルの予想を裏切り続けている。


「このミノタウロス・ダンジョンで、やってきた冒険者を捕まえる手筈だったんだけど」


 強いのなんの。ミノタウロスを倒すのが作業になってしまうレベルで腕利き揃いだった。


 ならばと、本来は捕まえてから使うはずだったパラサイト・バグ――寄生生物を使ったが、これも完全支配前に駆除されてしまった。


「少人数になるように分断したんだけどなぁ。まさか仕掛け壁を壊してしまうなんて、非常識なことされちゃうと」


 ペルドルは独り言ちる。ここまで来ると、自分に落ち度はなく、相手が悪かったと開き直れた。


「結局、ほぼ無傷でくぐり抜けられた。いやはやイレギュラーだよ、これは」


 実験素材とするには、とても興味深いのだが。


「まあ、ご褒美は進呈しよう。……ん?」


 魔法水晶を見やり、ペルドルは皮肉げに口元を歪めた。


「……おやおや、秘密の抜け道が勘づかれそうだねぇ」



  ・  ・  ・



 キマイラを倒し、希少な魔獣ということで、ダイ様の収納庫に放り込んだ。後で冒険者ギルドに討伐証拠として出すためだ。


「ナイスだった、シィラ」


 俺はキマイラにトドメを刺した彼女を褒める。


「ヴィゴがアシストしてくれたからだ。……それと、ルカ。助かったよ、ありがとう」

「え……ええ」


 妹からお礼を言われてお姉さんが照れている。姉妹が仲良きことはいいことだ。


「ヴィゴー!」


 リーリエが呼んでいる。


「こっちに部屋があるよー。お宝、お宝ー!」


 お宝? 先にそちらに向かっていたアウラが振り返った。


「この迷宮の番人が守ってきたお宝かもね」

「今度はミミックじゃないよな?」

「あるいは、箱を開けたらあの変な寄生生物が出てきたり」


 やめろよ、そういうこと言うの。言ってみれば、宝箱が9つ。3×3で並んでいた。


「ダンジョンにいたミミックと同じような箱だな……」

「ゴムー、ちょっと確かめろ」


 ダイ様が口を開いた。ゴムがぴょんぴょんと跳ねながら宝箱にとりつくと、その鍵穴に体の一部をねじ込んだ。


『いじょうなしー』


 パカリと箱の蓋が開いた。中から例のサソリもどきが現れる……ことなく、普通に物が入っていた。


 ゴムがひとつひとつ解錠していく中、俺たちは、それらを覗き込む。


「武器だな」

「こっちも」

「ポーションとかもあるわよ」


 武器、防具、ポーションなどの薬液の瓶、さらには――


「指輪……魔道具かしらね」


 アウラがそれらを物色する。腕輪や指輪、ペンダントなどなど。リーリエも小さな体でそれらに触ったり持ったりする。


「ピカピカしてるわ。ねえ、ヴィゴー!」

「これはいったい何だ?」


 俺は首を捻る。


「お宝、迷宮の秘宝――というには、ちょっと疑問よね。どう? そっちは」


 アウラが、武器を見ているルカやシィラを見た。


「魔法金属でできている武器だな」


 シィラが、青い刀身の剣を手に取り、じっくり見つめる。


「そこらでは見かけないタイプのものばかりだな。どうだ、ルカ?」

「新品のように見えるけど……」


 ルカもナイフの一本を取る。


「魔法武器みたい。マルモに聞いたほうがわかるかも」

「じゃあとりあえず、これも回収しておくか」


 このダンジョンがそもそも何の迷宮なのかさっぱりわからないけど。これ以上道がないなら、ミノタウロスは全て討伐したと見ていいだろう。


 おまけとして戦利品を回収したら、討伐クエスト達成だ。


「――こちらは魔術書でしょうか?」

「案外、新しめ?」


 ファウナとアウラが、とある宝箱の中身に手を出している。


「魔術書に、錬金術書……へえ、錬金術ね」

「錬金術?」


 俺の中で、とある言葉がよぎった。錬金術って、ルースの兄であるペルドル先生が研究していたとか言っていなかったか?


 ひょっとしてこの迷宮、あの人と関係があるんじゃ……。いやまさか。


 その時、シィラが鞘に収まった剣を宝箱から出した。


「なんだ、新品ばかりと思ったら、誰かが使ったものもあるようだぞ」

「ミノタウロスたちにやられたのかしら?」


 ルカが言えば、シィラは肩をすくめた。


「さあ、あたしらのようにこの迷宮に挑んでやられた奴らの遺品かもしれないな」

「ちょっと待て、シィラ」


 俺は呼び止める。ビクリとした彼女は振り返った。


「いきなり何だ、ヴィゴ?」 

「その剣だけど――」


 見覚えがあった。鞘と剣の握りの形。


「カイジン師匠の剣だ、それ!」

「何だと!?」


 ペルドル・ホルバに奪われた師匠の剣じゃないのか? これがここにあるということは、間違いない。この迷宮、あのペルドル先生が関係している。


「ねえ、皆ー!」


 ネムが声を張り上げた。何やら奥の壁に耳を当てて、彼女は言った。


「ここ、空気が流れてる。抜け道があるかもー」


 俺たちは、ネムが気づいた壁に近づく。周囲の壁と特に変わりはなく、怪しい目印など目立つものは見当たらなかった。


 オラクルがぬっと現れる。


「どれ吹っ飛ばしてみるか、主様? 姉君、出番じゃぞ?」

「人を破城槌扱いするでないわ!」


 ダイ様がオラクルに抗議し、アウラへと視線をやった。


「お主、丸太を出せるじゃろ? それで吹っ飛ばせ!」

「はいはい」


 アウラが腕を突き出しと、城門を破壊するような破城槌クラスの丸太が出現し、壁に叩きつけられた。


 石にヒビが入ったと思った瞬間、ガラガラと壁が崩れて、通路が現れる。


「案外、もろかったわね」

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