第161話、地下ダンジョンの罠
俺たちは、地下ダンジョンでミノタウロスに遭遇した。
だが、どいつもこいつも突進してくるので、俺かゴムが止めて、大威力を叩きつけて仕留めていった。
「パターンだな」
「こいつらは他に戦い方を知らないのか?」
俺とシィラは顔を見合わせる。馬鹿の一つ覚えである。ルカが言った。
「仕方ないですよ。この通路で、最大の攻撃って、あの巨体を活かした突進しかないんですから」
「そうよぉ。むしろ、その突進を止めちゃうほうがおかしいんだからね」
アウラも口を揃えた。ディー、ネム、リーリエがウンウンと頷いてみせる。
「あんなミノタウロスを止めるのはもちろん、倒しちゃうのは普通じゃないよね……」
ディーが遠い目をすれば、アウラは魔女帽子の鍔に指をかけた。
「いまさらね。ヴィゴなんて、もっと大きな邪甲獣を仕留めてたでしょ?」
「ヴィゴ兄さん、ぱねぇーす」
ネム、そんな言葉どこで覚えた? 眉をひそめる俺をよそに、リーリエがヒラヒラと飛ぶ。
「ヴィゴって、ヤバいくらい強い人間だったんだねー。……イタズラは控えよ」
「イタズラはやめなさい」
俺たちは進む。通路の曲がり角がきたので、それに沿って曲がれば。
「あ、宝箱」
通路のど真ん中に、あからさまな金属製の宝箱が置いてあった。
「罠……かな?」
「罠よね?」
俺とアウラはお互いに顔を見合わせた。シィラが魔法槍を構える。
「一発、吹っ飛ばしてみるか?」
「軽く。……軽く吹っ飛ばす程度で」
本当に何かお宝が入っていた時に備えて、壊さないように。シィラはやれやれと首を振り、タルナードで突き、風を巻き起こした。
宝箱が 一瞬ふわりと浮き、次の瞬間床に叩きつけられた。……罠? それとも本当に箱?
しん、と静まり返る。じっと様子を見守る。周りに変化なし、箱に変化は――あった。ガタガタと震えだし、起き上がると蓋が開き、びっしりと生えた歯を覗かせ吼えた。
「ミミック!」
宝箱のようなものに擬態している魔法生物ともいわれているモンスターだ。宝物だと喜び勇んで近づいた犠牲者を襲うトラップ型の敵である。
俺は問答無用で魔剣を振り下ろし、ミミックを真っ直ぐ両断した。ダンジョンの宝箱って、ワクワクした気持ちを玩ぶ卑劣モンスターは許さない。
ふん。ミミックは割と手強い敵ではあるが、魔剣のパワーの前では木箱にも等しいな。これが普通の剣だったら、金属質な表面に弾かれて、仕留めるのに苦労していただろう。
その時、ガーっ、と重いものがスライドするような音がした。
「危ない!」
ディーが叫んだ時、壁が動いて、俺たちパーティーの前衛と後衛を分断した!
「おいっ!?」
真ん中より後ろにいたルカ、ネム、リーリエ、ゴムが壁の向こうだ。ディーが危うく挟まれそうになったのを、こちらへ転がって回避したが……。
「くそっ!」
俺は魔剣を振り上げ、壁に一撃を叩き込む。6万4000トンの重量を乗せた攻撃なら石の壁を砕くことも可能なはずだ!
ガキンっと魔剣の斬撃が弾かれた。な、何だと……!?
「魔剣を跳ね返した!?」
「無駄よ、ヴィゴ」
アウラが強い口調で言った。
「特定のダンジョンの壁は特別製。いかなる攻撃にも耐えうる強度と再生力を持っているのよ」
「じゃあ、この壁は壊せないのかよ……」
向こうにルカたちがいるってのに! シィラが顔をしかめた。
「おい、ヴィゴ。壁で塞がったってことは、あたしたちは帰り道を絶たれたぞ!?」
「……!」
「そう、進むしかないってことね」
アウラが、前へ進むしかなくなった通路を睨む。
「……!? 守護者様!」
ファウナが頭上を見上げた。その瞬間、天井から黒いものが降ってきた。
虫!? それも結構でかい!
「うわ!?」
「きゃっ!?」
不意打ちだった。降ってきた蜘蛛のような虫が飛び掛かってきて!
「くそっ!」
鎧の隙間、首後ろが噛まれたか刺された! 痛みが走り、俺はとっさに左手で、それを掴む。
ぐっ、と抵抗がある。まるで刺さっている何かが体に食い込んで、それが外されることに逆らっているように。だが力を入れて、引き剥がす!
「うげ……」
わしゃわしゃと動いているのは全長15センチほどの気味の悪いサソリのような生き物だった。しかし足がウネウネと動いて触手のようにも見える。顔らしい部分には牙の生えた大きな口があって、さらに気味の悪さを加速させた。
「キモいんだよ!」
俺はサソリもどきを床に叩きつけて、魔剣で潰した。
「何よこれ!?」
アウラとシィラ、ディーがサソリもどきに襲われていた。ファウナは一番早く気づいて、回避したらしく、アウラの腕に飛びかかっているサソリもどきを切り落とした。
床を転がるディーが手甲を外して、呪いの手を露出させるとサソリもどきを直接掴んで溶かした。……あとはシィラか。
「こいつ……!」
シィラの首もとに食らいつかんとするサソリもどき。シィラはとっさに掴んだようだが、手の中で暴れるそれを上手く押さえられないようだった。
俺はシィラが押さえているサソリもどきを後ろから掴んで、彼女から離してやる。
「っ……! すまない、ヴィゴ」
「大丈夫か?」
「指を切った。大したことはない」
サソリもどきは全身凶器みたいに尖っている。俺は手から炎の魔法を出して、サソリもどきを燃やした。
「まったく、何だったんだ、今のは……?」
「何かヤバい感じだった」
アウラがひと息つき、ディーは自分の肩口に治癒魔法をかけた。がっつり噛まれたようで、穴が開いてる。血が流れたが治癒魔法で傷が治っていく。
「ヴィゴさん、手当てします」
「お、ああ」
俺も噛まれたんだった。意識したら痛くなってきた。げっ、結構血ぃ出てる……。
その時、俺の背中に、軽い衝撃が当たった。
「わっ、とっ、ヴィゴ、いた!」
「リーリエ!」
壁の向こうにいた妖精さんが突然現れた。そういや俺に定着魔法をかけて、瞬間移動で来れるんだっけか。リーリエは慌てて俺の顔面に移動した。
「ヴィゴ! 大変大変! 変なムシみたいなのが降ってきて、ルカが!」
何!? ルカに何かあったのか!?
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