第156話、憑依してみた


 カイジン師匠が仲間に加わりました。


 仲間たちに、俺とファウナで説明。ニニヤだけ少々顔が青かったけど、それ以外は割と普通そうな反応。まあ、さすがに明るい昼間に、人魂といっても怖さはかなり薄まるだろう。暗いところで、わけのわからないものが浮いているっていうから怖いのであって、ね。


 まあ、憑依の話をしたら、皆一瞬顔が強ばったけどね。


「ベスティアで、一度試すか」


 マシンドールであるベスティアは、いまいち理解していないようだったが。だがそこでマルモが挙手した。


「はい! ヴィゴさん、ベスティアで試すなら、組み上げた2号があります! これで試しましょう!」


 闇ドワーフのアジトだったアンジャ神殿の宝物庫にあったマシンドールの予備部品などなど。冒険者ギルドに研究用にパーツを提供したが、マルモは残しておいた2号を完成させていたらしい。


「ただ、この2号はコアである人工魂が未実装だったので、動かないんですよ。魂というなら、カイジン師匠なら、もしかしたら……」

「なるほど。……と、うちの技術職が言っていますが」

『よかろう。試してみよう』


 カイジン師匠の同意を得たので、ベスティア2号を妖精の籠から引っ張り出した。


「へえ、2号は白いんだな」


 1号は黒、2号が白で、さしずめ黒騎士と白騎士だな。さっそく、カイジン師匠の魂が白い騎士に憑依すると――


『おおっ! これがカラクリの体かっ!』


 凄い走り回っていらっしゃる。


「元気ねぇ、あなたのお師匠」


 アウラが言えば、言い出しっぺのマルモも「ですねぇ」と感心と呆れの混じった笑みをこぼしている。


 ベスティアもあの図体で滅茶苦茶動けるからなぁ。俺たちは、墓地を出て、ミノタウロスがいるという洞窟へと向かう。


「そういえばカイジンって名前、聞いたことがあったのよ」

「そうなの?」

「イナズマのカイジンって、剣士がいたわ。冒険者ではなかったけど、昔は、ロンキドと同格かそれ以上の実力者じゃないかって、よく言われていたものよ」


 俺の師匠って、そんな凄い人だったの? いや、確かに剣を教わっていた時は子供だったから、この先生が世界最強じゃなくても強い人なんだろうって勝手に思っていたけど。何だってそんな凄い人が、こんなクソ田舎にいたんだろうな……。


 耳にせせらぎの音が聞こえてきた。小川だ。ガキの頃は、よくルースやキャッキたちと遊んだっけ。


「おぅ……」


 思い出の場所を見て、絶句した。


 浅い川で、子供の膝にもならない深さしかないのだが、そこに無数の岩がひしめいていた。いや岩ではなく――


「ロッククラブね」


 岩ガニと言われる大型のカニ型モンスターだ。高さは70センチから1メートルくらいある。こいつらは雑食だが、人間など他の動物も襲うためモンスター扱いされている。甲羅が岩のように見え、これで川辺などで岩に擬態して待ち伏せる。


「でも多過ぎないですか、これ!」


 ルカが魔法剣を構えた。アウラも魔法の構えを取る。


「どうなの、ヴィゴ? ここってロッククラブの群生地なのかしら?」

「いや、ガキの頃はそんないなかったぞ!」

『これも、ここ最近の異常のひとつよ!』


 カイジン師匠が言った。


『どれ、この体。どこまでやれるか、こやつらで試してみようぞ!』


 ジャンピングからのキック! 岩のように硬いロッククラブが、その一撃で潰れた。敵のど真ん中に切り込んだ!


「ベスティア!」


 俺が呼びかけると黒騎士ベスティアも続いた。


「ルカ、シイラ、お前たちはロッククラブはやれるか?」

「ああ、硬いが何とかな!」

「叩き切ります!」


 いいお返事。


「アウラ、後衛組への指示任せる! 俺は岩ガニを潰してくる!」


 前衛組は、それぞれ手近なロッククラブを攻撃する。カイジン師匠とベスティアは、そのパワーで甲羅を砕き、俺は魔剣の6万4000トンで叩き潰す。金づちでクルミを割るように簡単に潰れる。


 ルカとシィラもそれぞれの得物でロッククラブを処理。岩ガニもハサミのある腕を使い攻撃を防ごうとするが、こちらの前衛の動きに追いつけない。


 防御全フリしてもな! それ以上の攻撃力で叩き潰す!


 アウラとニニヤがファイアランスなどの火属性魔法で、ロッククラブを下から燃え上がらせる。浅い川とはいえ、よくもまああんな狭いところから通そうとするもんだ。コントロール抜群だな、おい。


 俺は片手間で岩ガニを退治しつつ、仲間たちの動きを見やる。


 ディー、ファウナ、リーリエは距離をとって待機。マルモはガガンを構えていたが後衛組の護衛役というわけか、敵に睨みを利かせている。


 イラが長銃でロッククラブの腹や目などを狙撃すれば、ネムもそれを真似て、ある程度近づいての短弓で攻撃していた。……非力なりに弱点を突こうとか、実に積極的である。ロッククラブの移動範囲とか、ちゃんと測っているようで、つかず離れずを維持しているのが小憎らしい。


 一時は川を埋め尽くす勢いで大発生していたロッククラブだが、気づけば一掃していた。俺もかなりやっつけたけど、魔剣のパワーは防御ごと粉砕するから頼もしいな。


「それにしても、何だってこんなに……」


 ロッククラブの異常な数。まるでダンジョンスタンピードみたいだったな。……このあたりにダンジョンはないはずだけど。


「もしかして、ミノタウロスのせいでしょうか?」


 ルカが考えを口にした。突然現れたミノタウロス。奴がいるという洞窟。それがダンジョン化したとか? いや、ロッククラブは洞窟にはいないから、仮に洞窟がダンジョンだったとしても関係ないか。


『しかし、何かが起こっておる』


 カイジン師匠の白騎士は言った。


『ミノタウロスの裏で行動しておったペルドルのこともある。このロッククラブの異常増殖も、あやつが関係しておるやもしれん』

「なかなか面倒なことになってきたな……」

『なあに、心配するなヴィゴよ。我が魔剣の前にミノタウロスなど雑魚だ』


 ダイ様は自信たっぷりである。まあ、そうなんだろうけどさ。


「俺、ミノタウロスなんて初めてなんだよな」

「あ、それあたしもだ」


 シィラが魔法槍を肩にかついだ。


「Aランク相当の魔物だっけか? やっぱ強いんだろうな」

「油断せずに行こうぜ」


 散乱しているロッククラブの残骸を回収して、川を横断。少し進んで、例の洞窟に到着した。

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