第136話、神聖剣の守護者


 エルフの集落を襲う悪党の頭目らしい大男が、エルフを人質に武器を捨てろと言った。


 投げろ、と言ったのはお前だぜ。俺は軽く魔剣を投げた。


「そいつは重いぞ。両手でキャッチしないと落とすぞ」


 自分のほうへ軽くとはいえ飛んできたので、大男はとっさに火球を消して両手で当たりそうになった魔剣を受け止めた。


 その瞬間、ズゥウンと音と共に大男が倒れた。


「言い忘れていたけど、その剣、6万4000トントォンあるぜ」


 地響きと共に大男は地面にめり込み、潰れた。俺は神聖剣を拾い、魔剣を回収。


『また我を投げたな』

「人命優先さ」


 残りの悪党は……リベルタの仲間たちがやっつけたようだ。ジャイアント2体も、体格差を物ともせずベスティアが片付けた。うーん、頼もしいねぇ。


「ルカ、シィラ。檻に囚われているエルフたちを解放してあげてくれ。ニニヤ、麻痺しているエルフを回復――」

「ボクも麻痺解除できます!」

「じゃあ、ディーは、ルカたちと一緒に行け。イラとマルモはその位置から、周囲を警戒!」

「わかりました!」


 高所からの銃撃を担当していた二人は、そのまま見張り。もう敵はいないと思いたいが念の為だ。


「ゴム、リザードマンと悪党の死体を処理してくれ。……間違っても倒れているエルフは駄目だぞ」

『わかったー』


 ポンポンと弾みながら黒スライムが移動していく。俺は積み上げられているエルフたちを持てるスキルで軽く持ち上げて、近くに並べていく。その順番に従ってニニヤが魔法をかけていく。


 檻の方も、ルカとシィラが麻痺しているエルフたちを降ろしていく。ふたりとも力持ちだから、協力すると早い早い。


 回復したエルフたちは、ニニヤやディー、仲間たちに感謝しつつ、まだ動けないエルフに対して運ぶのを手伝ったり、治癒術が使える者が回復魔法をかけた。


 やがて、麻痺していたエルフを全員救出し、クーラの森のエルフ集落に平穏が訪れた。



  ・  ・  ・



「この度は、我らエルフの民を救ってくださり、まことにありがとうございます、守護者殿!」


 エルフ集落の長老ルベレスさんが頭を下げると、村の重役たちも同じく平伏した。


 ここは長老のツリーハウス。質素な内装の木の家。絨毯が敷かれた床にじか座りで、俺とアウラ、そしてオラクルとダイ様が、エルフたちと向き合った。


「これ以上の大事にならなくてよかったです」

「はい。守護者殿がいてくださらなければ、男は殺され、女子供は奴隷として売られていたでしょう」


 ……それを聞くと、改めてあの悪党どもには虫酸が走るな。


 アウラが口を開く。


「連中のリーダーを調べた結果、コルヴォ傭兵団だとわかりました。この連中については、マルテディ侯爵に通報の上、その拠点なども捜索されるでしょう」

「はい、ドリアード様」


 エルフたちは神にでも応対するように、再び頭を下げた。アウラは元は人間で、ドリアードに転生しただけなのだが、そのドリアードというのが木の精霊。エルフたちの信仰において、精霊は崇拝の対象であるらしい。


 人間に対しては特に冷たくあしらいがちなエルフと言えど、こっちにはドリアード様がいるので、態度もかなり柔らかいものになっていると思う。


 長老は口を開いた。


「それで、一族の若者が、守護者殿に申し開きしたいことがあるとのことで……。よろしいでしょうか?」

「どうぞ」


 何だろう? というか、守護者ってしっくりこないな……。


「守護者様!」


 出てきたのスソーラだった。彼は俺の前に来ると、膝をつき、頭を地面にこすりつけるほど下げた。


「集落をお救いいただき、ありがとうございました! そして、数々の非礼、まことに申し訳ございませんでしたぁ!」


 えぇ……。いや、そこまで頭を下げなくても……。


「申し開きなど、とてもとても! すべて、私の不徳の致すところ! 如何ような処罰もお受けいたします! 何なりとお申しつけください! このスソーラ、お命じいただければ、自らののど首を掻っ捌く所存!」

「いやいやいや……」


 なに、死をもって償うみたいなこと言ってるんだよ! そんなの俺は望んでいないぜ?


「まあ、気持ちはわからんでもないのぅ」


 オラクルが他人事のように言った。


「悪党を警戒したとはいえ、フェアリーを助けていた主様に矢を射かけたり、その非をその場で謝罪しなかったり――」


 聞いていたエルフたちの顔がさっと青ざめた。そして一様に俯き、罰を恐れるかのように小さくなっている。


 俺は神様か何かか?


「俺はもう気にしてないぞ」


 幸い、仲間に矢が当たったわけじゃないし。……もし当てられていたら、相当の制裁案件だったかもしれないけど。


「エルフにはエルフの事情があるわけで、フェアリーが狩られていた場面でもあったから、警戒するのは当然のことだ。大事にならなかったことで、俺は咎めようとは思わない」

「なんと寛大な……。守護者殿、いえ守護者様――!」


 長老の家にいたエルフたちが両手をついて深々と頭を下げた。……うん、もう謝ってくれたから、そこまで大げさにしないでくれ。


 落ち着かないな、こういうの……。



  ・  ・  ・



 俺たちに何かあれば、または手が必要なことがあれば、いつでも協力します、とエルフの長老は言った。


 里の恩人と言うのはともかく、神聖剣の守護者、神の使い……などは、やっぱり違和感半端ない。こういうのも慣れなのかな。


 そしてここでひとつ、事件が起きた。いや、事件というか思ってもみなかった申し出というか。


 ルベレス長老は、ひとりの女性を俺たちに紹介した。


「彼女は、ファウナ。エルフの姫巫女の血を引く者。神の啓示に従い、神聖剣の守護者様にお仕えする者にございます。どうぞ、彼女をお供に加えてくださいませ」

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