第132話、フェアリー狩り


 あれは……何なんだろうな?


 ディーが気配を察知し、通報したそれを見に行けば、タンスのようにデカい背負い鞄が置かれていた。


 無数の籠がぶら下がっていて、中には小人――フェアリーが捕まっていた。


「……フェアリー狩りか」


 そのクソデカ鞄の周りには、大男がひとりと、見るからに盗賊じみた男がひとりいた。


「――へへ、いい稼ぎになりそうだ。……イテッ」


 籠の中のフェアリーを突っついた盗賊じみた男が指を押さえた。どうやらささやかな反撃を食らったらしい。大男が「ガハハ」と笑った。


 この悪党どもめ。俺はディーに囁いた。


「ふたりだけか?」

「いえ――」


 ディーが耳に手を当てる。


「近くにも人の気配があります。正確にはわかりませんが、他にも2、3人はいるみたいです」


 ルカが俺のそばに屈んだ。


「どうします?」

「妖精族の助けを求めてやってきたんだ。ここで見て見ぬフリはできない」

「ですね」


 ルカが弓を取る。俺はイラを見た。


「その銃で撃てるか?」

「はい」


 イラが背負っていた長銃を構える。彼女は盗賊じみた男、ルカが大男を狙う。フェアリーが囚われている籠から、敵が離れるまで待って……。


「撃て!」


 パーン、と銃声が鳴り響いた。盗賊じみた男が首を撃たれて倒れ、大男もまた頭にルカの放った矢が刺さった。


「ベスティア、来い!」

『我が主』


 俺とベスティアは茂みから飛び出し、クソデカ鞄へ走る。大男が地面に突っ伏したところで、俺は籠の――けっ、鍵がついてやんの。どこだ、鍵は……あ、盗賊じみた男が腰のベルトに下げてやがった。


 鍵を奪い取り、籠の鍵穴に差し込む。……ってこれじゃない。こっちか――


 試行錯誤しつつ、ひとつずつ籠の鍵を開けていく。中のフェアリーが飛び出し、そのままどこかへ飛び去る。


 お礼はなしか? なんてな。もう捕まるんじゃないぞ。


「ヴィゴさん!」


 ディーの警告を帯びた声。捕まえたフェアリーの籠を持った男がいた。


「ベスティア!」


 男は首から下げた笛を吹いたところで、ベスティアに一刀両断にされた。タッチの差だった。


 ガサガサと音がした。連中の仲間だろう。盗賊や戦士といった風貌の男たちが現れた。


「てめえら、人の上前はねるつもりかっ!?」

「冗談! お前らと一緒にするな!」


 同業者だと思われたらしい。ふざけるんじゃないよ、まったく。


 こちらに向かってくるフェアリー狩りの奴ら。ルカの放った矢がひとりを倒し、ベスティアもさらにひとりを両断する。


 俺は神聖剣を、残るひとりに向ける。


「ライトニング!」


 神聖剣から電撃が迸り、戦士を撃ち抜いた。邪魔者が吹っ飛んだところで、捕まっていたフェアリーを籠から解放する。


「もう敵はいないか?」


 俺は連中の鞄を見て、まだ他にフェアリーが残っていないか確かめる。ふむふむ、異常なし。


「ヴィゴさん、戻ってください!」


 ディーの声と共に、俺のすぐ目の前を矢が通過した。


「うわっ、ぶねえ……!」


 とっさにクソデカ鞄の陰に引っ込めば、ベスティアに矢が当たり、しかし装甲で弾かれだ。


「ディー、今のはどこからだ?」

「すみません、かなり遠距離から――」


 そのディーをルカが小脇に抱え上げて走った。矢が何本か通過する。イラとマルモは近くの木の裏に身をひそめている。


「矢による狙撃ってか……!」


 エルフの仕業だな。どうやら、森の異変を察知したか、番人たちがやってきたようだ。


「エルフはお呼びじゃないんだがな。……ベスティア、行くなよ、じっとしてろ」


 連中と争うつもりはない。だがどうせ来るなら、俺たちが来る前にフェアリー狩りをやっつけてくれればよかったのに。


 超装甲盾を立てて壁にする。


「どうしたものか」


 こっちから見えないところから撃たれたのではな。敵対するつもりはないって言って聞こえるのかね、これ。


 ある程度近づいてくるのを待ったほうがいいか。


「なあ、お前たちはどう思う?」


 ダイ様とオラクルに呼びかければ、ふたりともすっと人型で現れた。


「とりあえず、我らが無防備に立って手を振れば、エルフどももいきなり矢を撃ってくることはないだろ」


 子供の姿であるふたりである。目のいいエルフが、武器を持っていない少女をいきなり狙撃してくるのはないはず。


「と、思うなら姉君、ぜひその盾から外に立ってみよ。姉君ならば、仮に当たっても死にはせん」

「いやいやいや、お前が立て!」


 何か子供のケンカじみたものを始めたぞ。今はそれどころじゃないだろうに――


 ふいに光を感じて、顔を上げれば、一体の小妖精――フェアリーが俺の周りをぐるりと回った。


 おや、まだ逃げてなかったのかい? それとも戻ってきた?


 水色の髪、鮮やかな蝶を思わせる羽根、薄い青と白のワンピースを着たそのフェアリーは、俺の超装甲盾の上にちょこんと座った。


 まるで危機感もなく、ただ椅子に座ったかのような振る舞いである。少なくとも敵がそばにいる時にする態度ではない。


「よう、お嬢さん。ここにいるとエルフの流れ弾が来るかもしれないから危ないぞ」


 こっちの言葉がわかっているのかわかっていないのか。そのフェアリーはヒラヒラと手を振った。


 そこへ、ガサッと近くの茂みが揺れた。見れば弓を手にした青年が、そろりと現れた。美しい顔立ち、尖った耳。間違いないエルフだ。


 俺が神聖剣を持ち上げるより先に、そのエルフは言った。


「お前たちは、盗っ人からフェアリーたちを助けたというのは本当か?」


 一発ぶちかましておきながら、いまさら感が半端ないが、争うつもりはないんだ。


「そうだ」


 俺は近くの死体を指さした。


「その盗っ人たちは、そこで死んでるよ」

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