第133話、いざ妖精の籠の中へ


 エルフらの俺たちへの疑いは解けた。


 先ほど俺が解放したフェアリーたちが、助けてくれたことをエルフに言って誤解を解いてくれたのだ。


「妖精たちを助けようとしてくれたこと、まずは礼を言う」


 エルフの青年――スソーラと名乗った弓使いは言った。嫌味なほどのイケメンである。しかしエルフ固有なのか、はたまた人間を信用していないのか表情は硬い。


「なにぶん我々には、森を荒らす不届き者とそれ以外を見分ける術に乏しいのでな」


 それは間違いでも弓を射ったことは謝らないぞ、という意味でよろしいか? これだからエルフは。


「それにしても奇妙な組み合わせだ。獣人に子供連れとは……。この森は神聖なる領域。部外者を歓迎していない土地だが、何用で来られたのか?」


 返答次第では、攻撃するぞって顔をしているな。森の番人気取りか。


「うーむ、どうにも気にくわんのぅ」


 オラクルの頬がひくついている。ダイ様も片方の眉をひそめている。


「我もシャクだが、お主と同意見だ」

「まあまあ、余計に拗らせるようなことを言わなくていいよ、ふたりとも。用が済んだらさっさと帰るんだからさ」


 俺は、スソーラに向き直る。


「実は、とある魔道具に、うちの仲間たちが入ったまま出られなくなっているようでね。妖精族の魔法で、出してもらえないかなと相談にきたってわけだ」

「魔道具とは?」

「妖精の籠って言うんだ」


 俺はダイ様に合図すれば、収納庫から手のひらサイズの小さな金属籠を取り出した。


「物体の大きさに関係なく、籠の中に出入りできる魔道具らしいんだけど、壊れている。で、事故って、うちのクランメンバーがこの中にいる」


 実際にその現場を見たわけではないので、目撃者であるルカやイラに状況を説明してもらう。


「籠の天辺に触れると、中に入れるようなんですけど――」

「入ったまま出てこれないと……?」


 スソーラが眉をひそめれば、イラは頷いた。


「そうなります」

「そう言って、フェアリーなどを狩る道具なのではないか?」


 すっごく偏見に満ちた発言をされた。ルカとイラは困ったように顔を見合わせた。元々、この魔道具を持っていたのが違法魔道具業者だから、もしかしたらそういう用途だったのかも、と思ったのかもしれない。


「フン、別にお主らが信じずともよい。わらわたちは、エルフなぞはじめから頼りにするつもりはないのじゃからな!」


 オラクルは、かなり苛立っていた。


「わらわたちは、妖精に頼むだけじゃ」

「妖精族がお前たちに力を貸すとでも?」

「貸すさ。何せ我が主様は、剣神ラーマの加護を受けた神聖剣オラクルセイバーを持つ聖剣使いなのじゃからな!」

「聖剣使い、だと……!?」


 エルフたちがビックリして後退った。オラクルは胸を張り、俺を見た。


「ほれ、主様よ。こやつらにわらわを見せつけてやれ!」


 はい。神聖剣を掲げてみせれば、その剣身が白く輝いた。周りにフェアリーたちが集まってきて、エルフたちは膝をついた。


「まさか、神の加護を受けた方と知らず、ご無礼をお許しください!」

「お、おう……」


 エルフたちが神聖剣の前にひれ伏してしまった。あまりに劇的な変化に、俺は面食らってしまう。……とりあえず眩しいので下ろす。


「聖剣使い、いや神聖剣使いは世界の守護者。まことに申し訳ありませんでした」


 世界の守護者……? そうなの? 初めて言われて俺の方がビックリだ。そういえばラーマ神から『世界に混沌をもたらそうとしている者を討ち滅ぼせ』とご神託を受けているから、そういうことなのかもしれない。……いつの間にか、守護者になってしまったぞ。


 まあ、とりあえず、ここでは敵じゃないのがわかってくれたならそれでいいよ。



  ・  ・  ・



 そこからはとんとん拍子で話が進んだ。


 オラクルが周りに集まったフェアリーたちとお話をしたら、水色髪のフェアリーがさっそく妖精の籠の中に入っていき、すぐに戻ってきた。


 どうやらフェアリーは、入った後に自力で外に出ることが可能なようだった。通訳のオラクル曰く、接触すれば、中にいる人間も外に出せるらしい。


「じゃあ、悪いけど俺にひとり、フェアリーに同行してもらっていいかな? 中にいるメンツはフェアリーのことを知らないから、誰かが一緒じゃないと」


 フェアリーの言葉がわかるのが、うちのメンバーだとオラクルだけみたいだし。そうなると俺が行かないといけないだろう。


「中で、アウラたちを探してくる。その間、外を守ってくれ」


 仲間たちに言えば、ルカが頷いた。


「わかりました。お気をつけて」

「我らもお守りいたしますぞ、ヴィゴ殿」


 スソーラたちエルフの戦士たちが進み出た。


「我らの集落へご案内いたします。そこならば、ここよりも安全です」


 排他的なエルフが、自分たちの村に余所者を受け入れるとはね。神聖剣ひとつで変わり過ぎー。でもまあ、アウラたちがどうなっているかわからないから、時間が掛かるかもしれないし、お言葉に甘えよう。


 ルカをリーダーに後は任せる。俺は両手に魔剣と神聖剣を手に、肩に水色髪のフェアリーを乗せて、妖精の籠の天辺に触れた。


 スッ、と一瞬意識を吸い取られるような感覚を味わう。


 瞬きの間に世界が変わっていた。


 深い森の中にいたはずなのに、ごつごつとした岩場の上に立っていた。



  ・  ・  ・



「こりゃまた、奇妙な場所だのぅ」


 ダイ様が辺りを見回した。俺たちが立っている岩場のすぐ左手は草原になっている。そして。


「右のほうから音がする」

「波の音じゃな」


 オラクルはそちらへと顔を向けた。妖精の籠の中は異空間である。……つい最近、霧の中っていう異空間にいたばかりだぜ。


「かなり広そうに見えるが、まあ、そこまで大きくないじゃろうて。しょせんは魔道具じゃ」


 とりあえず、探索だ。この場にアウラたちがいないのだから、きっとこの空間のどこかにいるはずだ。

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