第131話、妖精を探せ!
ラパス老人に、妖精の籠に閉じ込められた仲間がいることを相談した。
魔剣&神聖剣に、妖精族の協力を得られれば助けられるのでは、と助言されたことを説明した上で、それらとどこでどうアプローチすべきか心当たりを聞いたのだ。
「ここより南にある、クーラの森に妖精族の泉と集落がある」
老人は口をモゴモゴさせる。
「しかし、心せよ。かの地はエルフの集落があり、外部からの侵入者には容赦せん」
「エルフ……」
森に住む人型亜人。美形が多く長寿で、森に住む種族以外には排他的で有名だ。
「……どうかしたか?」
「いえ……」
顔に出たらしい。俺は王都にいたエルフと二、三回会ったことがあるが、正直気に入らなかった。
イケメンのルースと同類というか、美形で周りから人気がある上に、俺に向ける目が非常に小馬鹿にしたものか、あるいは完全に眼中なしだったんだよな。こっちだって、かかわりたくないね。
「エルフだけでなく、妖精族も人間に対しては好意的とは言えぬ。人間に対して、少々ドをこした悪戯をしてくるが、人間は人間でフェアリーを捕まえては売りさばいておるからな」
関係最悪じゃないか? 俺はダイ様&オラクルへ視線を向ける。
「協力してもらえるんだろうか?」
「わらわの神聖剣を見せれば、無下にはすまいよ」
オラクルが自信を漲らせる。
「何せ神と精霊の力が宿りし剣。精霊と妖精は切っても切れぬ関係じゃ。その持ち主たるお主の声を聞かぬ妖精はおらぬよ。……まあ、主様が何を言い、どういう態度を取るかにもよるが」
聖剣の力、凄ぇ……。
「……」
ダイ様が苦虫を噛み潰したような顔をしている。新参の剣がさっそく役に立ちそうで、立つ瀬がないというところか。
ともあれ、解決の糸口が見えたので、妖精族のいるクーラの森とやらに向かうことにした。
ラパス老人の部屋を後にした時、マルテディ侯爵から声を掛けられた。これからクーラの森に行くんですよ、と話したら。
「エルフもだが、フェアリー狩りの悪党どもにも気をつけてくれ。盗賊の場合もあるし、商人に雇われた傭兵や冒険者の可能性はある」
前者はともかく、後者は面倒だな。特に冒険者って、同業者じゃん。
「この領地では、フェアリーや妖精の捕獲、販売は禁止している。つまりは違法なので、それらの悪党は逮捕もしくは殺害も許可している。つまりは……」
マルテディ侯爵は真顔で言った。
「不法な連中を見かけたら、容赦なく討伐してくれると助かる。証を持ってきてくれたなら報酬も出す」
「……わかりました」
万が一、フェアリー狩りなどに遭遇してごたついたとしても、やっつけてしまっても文句は言われないということだ。面倒はないにこしたことはないが、いざという時、判断に迷う材料が少なくなるのはいい。
さて、リベルタメンバーに声を掛ける。クーラの森へ行くぞ!
「間に合いましたー! 新しい防具です!」
マルモが製作したという新装備が出来上がったそうだ。サタンアーマー・スライム素材で出来た鎧、手甲、グリーブ、そして盾がなかったメンバー用に小型盾など。
「へぇ、これが魔王の鎧と同じ素材でできた防具か……」
サイズはピッタリ、って当たり前か。製作前に計ってたもんな。
「兜はまだ飾りが足りないですが……」
「おう」
頭を守る装備って大事だよな。……とか言いながら、前パーティーのシャインにいた頃は、ルースの方針で兜は重視されてなかったけど。理由? 見た目がかっこ悪いからってさ。
帽子や額当てならともかく、兜もそれなりに高いものだから、俺も何だかんだ用意してこなかったな、そういえば。
ということで、装備を整えたので、出発だ!
・ ・ ・
領主町ラゴーラを出て南へ。
どこまでも続く草原を見下ろしつつ、ダイ様のダークバードに乗って一気に森を目指す。空を飛ぶって速くていいよな!
少し飛行したら、森が見えてきた。あれがクーラの森だろう。鬱蒼と生い茂る大森林である。
森の手前で闇鳥は降下、俺たちは地上へと降りた。
「凄い緑のにおい……」
むせ返るほどの自然の匂いが、森から流れている気がした。気のせいかな。森の緑が、かすかに青みを帯びているような。
「自然の力が強いですね」
ディーが伸びをした。白狼族特有の狼耳がピクピク動いている。ルカも表情をほころばせた。
「身が引き締まるような雰囲気ですね!」
「確かに、どこか霊的なものを感じますね」
イラが視線を転じれば、ひとりマルモだけは眉をひそめている。
「やばいです。何か気持ち悪い……」
鼻を押さえて、ドワーフ娘は首をすくめた。
「植物の臭いが強すぎる……」
おう、地下暮らしのドワーフは、森は初めてなのかもしれんな。マシンドールのベスティアとスライムのゴムはいつもと変わらずだ。
「大丈夫そうか、マルモ?」
「ええ、たぶん」
そう言いながら、ちゃっかりマスクをつけている。地下暮らしの装備なんだろうけど、あれで臭いとか守れるのかね?
俺たちはクーラの森に入った。神聖剣持ちであることをアピールするために、右手にオラクルセイバー。鞘には魔剣。左手は超装甲盾を持つ。……持つんだけど、ちょっと大型盾は森を歩くに向いていないかも。
白狼族であるディーの鋭敏な嗅覚、聴覚を頼りに索敵しつつ、俺たちは森の奥へと進む。
前衛のシィラ、中衛のアウラ、後衛のニニヤと、ポジション的にはひとりずつ欠けているが、攻撃魔法を使えるのが俺以外全滅しているので、交戦となったら物理メインとなる。
フェアリー狩りに遭遇するかはわからないが、確率としてはエルフとぶつかる率が高いだろう。彼らは弓の扱いに長けるって話だから油断できない。
「この森、癒しの木が多いですね……」
ルカが周囲の青みがかった木の葉を見れば、イラも頷いた。
「薬草が多いようですもんね。ポーションがいっぱい作れますよ」
やっぱ妖精がいる森ってのは、そういう清い場所になるんだろうな。
「……ヴィゴさん」
ディーが反応した。噂をすればってやつか。
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