第129話、神託の剣
俺に降り注ぐ光は何だ?
『聖剣を掲げよ、ヴィゴ』
その声は言った。俺の名前を知っている? まさか、神様じゃないだろうな……?
言われたとおり、7つの聖剣の力がひとつになった剣を光へと向けた。
『あなたに、神の祝福を……おや?』
声は微かに戸惑いを見せた。
『なるほど。あなたはすでに祝福を受けていたのか。あらゆるモノを持つことができるスキルか……』
持てるスキル! そういえば、あれも神へお祈りをしていた時に授かったんだっけ。じゃあ、この声の主は、その時の神様とは違うのか……?
『ではその聖剣に我が加護を授けよう。剣神ラーマの名において、神と交信できる神聖剣となれ』
俺の手の中で、聖剣がさらなる光に包まれる。ちょ、眩し過ぎて、目を開けていられねぇ!
『ヴィゴよ。あなたに神託を授ける。世界に混沌をもたらそうとしている者がいる。それを討ち滅ぼすのだ。神聖剣「オラクルセイバー」はあなたのものだ』
声の主の気配が消える。あれだけ眩しかった光も和らぎ、やがて消えた。……ああ、これは、マジで神様だ。きっとそうに違いない。
神様ってのは神々し過ぎて、人間が直接見ると失明するんだとか言われている。あれだけの光だ。目を閉じてても眩しかったもんな。……直に見たら本当に視力を失っていたに違いない。
「……まだ光ってるよ」
聖剣、いや神聖剣の剣身が光に包まれている。あんまり直接見るのは危なそう。そう思ったら、光が和らいできた。
えっと……。
「オラクルセイバー……?」
『呼んだかえ?』
「うぇ……!?」
変な声が出た。聖剣、いや神聖剣が、女の子の声で喋った!? ダイ様みたく、この剣、喋るぞ……!
『我が主様よ、はじめましてじゃな。わらわは剣神より、新たな命を授かった神聖剣、オラクルセイバーじゃ』
「お、おう……オラクルセイバーね。俺はヴィゴだ。よろしく……」
若干まだ戸惑っているけど、ダイ様という先例のおかげで、何とか持ち直せた。やっぱ一度目より二度目のほうが受け入れやすいんだな。
『案外、驚かんもんじゃな。お主の持っていた聖剣ブレイブストームは、喋る剣ではなかったのにのぅ』
つまらなさそう、いや、ちょっと拗ねたような声を出す神聖剣。ダイ様もそうだけど、彼女以上に古風な喋り口調だ。
『そうじゃ。ならば、これならどうじゃ!』
すっと剣から光が流れ、人型を形成する。透き通るような青く長い髪には、星型の金の髪飾り。目鼻立ちの整った美少女が、白いローブ姿で現れた。……ますますダイ様に似ている。
「どうじゃ! わらわが『人形態』は!」
「うーん……まあ、可愛いんじゃね?」
「思ったよりリアクションが薄い! もっと、こう『がーん!』とか『ギャフン!』とかないのか?」
「何だそれは?」
「ぬ、真顔で言うな。まあよい、今後はよろしくなのじゃ、主様」
「ああ、よろしく」
聖剣ブレイブストームは、他の聖剣と合わさり、さらに剣神の加護で神聖剣オラクルセイバーとなった。
試練は突破したようだけど、俺自身何かパワーアップした、みたいな実感はまるでないのは何故なのか。
オラクルセイバーは俺を持ち主として認めたから、聖剣使いの素質はあるということだろうけど……。
・ ・ ・
祠を出ると、霧が晴れていた。
山の中ほどにいて、自分が案外高い位置に登っていたのがわかる。帰り道がはっきり見えて、これなら1、2時間もあれば下山できそうだ。滅茶苦茶歩かされたんだけど、やっぱあの霧の中は別世界だったのかな。
正邪の山を下りつつ、俺はオラクルセイバーこと、オラクルとお喋りする。
「セブンスセイバー?」
「うむ。わらわは七つの聖剣の力も宿しておる」
オラクルは指折り数える。
「風を操るブレイブストーム。炎のホーリーブレイズ。岩斬りソルブレード。雷のライトニングスピナー。氷のフローズンエッジ。水のアクアウングラ。そして光のライトブリンガーじゃ」
「よくもまあ、属性がバラけたな」
ないのは闇属性だけか? そっちは魔剣があるからカバーできるか。
「いや、ホーリーブレイズは光と炎の融合剣じゃし、ライトニングスピナーも雷と風が合わさっとるから、被りもあるぞ」
なるほどね。オラクル曰く、神聖剣は、聖剣の七属性を操ることができる上に、この七つの聖剣をそれぞれ具現化させることもできるそうだ。
「何か凄ぇな」
「そうとも、神聖剣は凄いのじゃぞ。もっと褒めるのじゃ!」
自尊心の塊なのか、鼻高々なオラクルである。ダイ様と引き合わせたらどうなるんだろうねこれ。
そうこうしているうちに下山すると、ラパス老人やマルテディ侯爵たちが待っていた。いやいや、待っててくれたのか?
いつ戻れるかわからないのに。というか、これまで戻ってこなかった者もいるのに。
「……どうやら、試練を乗り越えたようじゃのぅ」
ラパス老人が厳かな調子で言った。俺の隣に神聖剣が少女の姿で具現化している時点でお察しだろう。
「しかも、より強き光の力を感じる。魔王が甦ったとて、お主ならば打ち倒せるやもしれんの」
「おめでとう、ヴィゴ殿。これで貴殿も聖剣使いの一員だ」
マルテディ侯爵が頷いた。神聖剣の所有者である以上、そういうことなのだろう。
今は命を賭けた試練を無事突破できたことを感謝しよう。ラパス老人の助言があればこそ、あの終わりのないような道中も乗り越えられた。
そしてオルディネやアクアウングラ。道半ばで倒れた聖剣使いたちの魂に、安らぎがあらんことを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます