第124話、進化する聖剣


 聖剣は、闇の力を切ることができる。


 闇の力を倒すのに有効なのは何となくわかっていたが、光を帯びたその剣は実体のない幽霊にも通用するのがわかった。さすが聖剣だ。


 最初の飛び出してきたゴーストを倒して進めば、その後も複数のゴーストに襲われた。だが俺の持てるスキルは、幽霊も持って掴めるのがわかったので、不意の飛び出しも躱しやすくなった。


 さすが魔法も持つことができる持てるスキルだ。


 しかし、聖剣ブレイブストームは、ゴーストを切ることができるのだが、いまいち俺が聖剣の力を引き出せていないせいか、一撃では倒せない。2回で消せればラッキー。ヘタしたら3、4回切らないと倒せなかったり……。


「くそっ……!」


 もたついたせいで、ゴーストどもが俺の周りを取り囲む。聖剣を使いつつ、俺は左手を使い、ちょっとした実験をした。


 持ったゴーストを、他のゴーストとぶつけたらどうなるだろうか、と。


 実体がないから、ゴースト同士をごっつんこできないのは想像がついたが、持てるスキルの範囲に入ったら俺の手はゴーストに触れられる。そうなると……?


 やってみた。


 ゴーストが俺の手に引っかかってゴースト同士が重なった。同時に持てる――そうなれば、ひとまとめにしてしまったほうが楽に倒せるのでは。周囲を飛ぶゴーストを持てるスキルでどんどん集める。


 7、8体はいたゴーストが、終いには俺の左手の上でひとつになっていた。ゴースト同士がくっついて融合している? 何か個々のゴーストに比べて、寒気というか闇の気配が倍増しているような……。


 まあいいや。俺の左手で動けないゴーストの塊に聖剣を差し込む。俺の微弱な力でもじっと当てていけばゴーストも浄化されていく。なかなか希少な実験だった。


 ゴーストを一通り倒した俺は、再び道に沿って移動。ぶっちゃけ、霧のせいで方向感覚がおかしい。登り道だからかろうじてわかるけど、もし平地だったらどっちが来た道かわからなくなっていたな。



  ・  ・  ・



 どれくらい歩いたか。次の障害が現れた。


 騎士――スケルトンナイトだ。くすんだ黄金鎧。手には光をまとう剣……。まさか、聖剣か!?


 スケルトンナイトが剣を構えた。骸骨騎士、生前はさぞ腕利きだっただろうことを想像させる。


 俺も聖剣を構えた。相手は、かつての聖剣使いだろう。スケルトンが聖剣を持つなんて違和感しかないが、この試練に挑み、命を落としたと考えるのが妥当か。


 スケルトンナイトが向かってきた。聖剣使いだったら、ちょっとは躊躇うと思ったか? 残念、俺は手を抜かないぜ!


 聖剣同士がぶつかる。スケルトンナイトが俺を見やる。目のないその頭蓋骨。その空っぽの目、空っぽの頭で何を考えている?


 剣と剣が衝突を繰り返し、金属のぶつけ合う音が辺りに響く。こいつ、なかなかやる!


 超装甲盾を叩きつければ、その重量の乗った当たりを食らってスケルトンナイトが吹っ飛んだ。態勢を崩したところに追い打ちで、もう一発シールドバッシュ。起き上がろうとしたスケルトンナイトを地面に叩きつけたところで、聖剣を振り下ろす。


 ガキンっ、とスケルトンナイトは、かろうじて俺の斬撃を聖剣で防いだ。ええい、小癪ぅ! 盾を持った左腕を殴るように突き出し、角でスケルトンナイトの頭部を殴打。パキリとヒビが入って怯んだところで、その頭部に聖剣の刃を突き入れた。


「聖剣よ!」


 ブレイブストームの剣身が光り輝く。聖剣に宿る聖なる力が解放され、スケルトンナイトを動かしていた邪悪な気配が浄化される。


 スケルトンナイトは崩れて灰となり、鎧と聖剣のみが残った。


「……」


 試練を乗り越えたら聖剣使いとして、この国を支える守護者になっていたかもしれない。その志かなわず、死してなお骸骨騎士となって彷徨っていたのか。……俺も、ここで死んだら、こうなるのか。


「聖剣か……」


 俺はブレイブストームを鞘に収めて、スケルトンナイトの聖剣を拾う。これをこのまま放置しておくのももったいない。


 いや、いつから放置されていたかわからないが、かなり劣化しているような。俺のブレイブストームも、かなり昔から放置されていたが、こんなふうに傷んではいなかった。


「聖剣にも色々あるってラパス老人は言ってたもんな……」


 しかし俺が柄を握ると、刃に光が浮かんだ。まだ、聖剣は死んでいない。一瞬、連れて行って、という声が聞こえた気がした。


 収納……は、ダイ様がいないか。7100トン分収納できるという魔剣の収納庫は凄いよな。あれば便利だが、こうしてないと不便だ。


 まあ、一本くらいは持っていけるか。しかし、光っているのは、剣の一部なんだよな。それ以外はかなりボロくなっていて、正直剣として命を預けるには心もとない。


「ゴーストみたいに合わせられたら便利なんだがな」


 ふと思って、さすがにそれはないと思う。だがもしかしたら、という思いも込み上げる。物は試し。盾を置いて、鞘からブレイブストームを抜く。


 左手で2本を持ち、重ねて剣身の光と光を合わせる。そして右手でそれを挟み込むように挟むように持ってみる。拾ったほうの聖剣の力を、ブレイブストームに流し込む。魔法を使うイメージで念じてみれば――


 拾ったほうの聖剣が光る砂のように分解されながらブレイブストームに合わさった。ブレイブストーム自体も輝きはじめ、その形が変わった。


 ブレイブストーム、ソルブレード――合わさった聖剣の名前だろうか。俺の頭の中に、その力がイメージとなって流れ込んできた。


 聖剣が進化した。これは俺が持てるスキル補正を受けた魔法なのか、あるいは持てるスキルの効果なのか、はたまた聖剣同士で起こる現象なのかはわからない。だが2本の聖剣は、ひとつになった。


 もし、スキルの影響なら、持つことができれば何でもできてしまうのではないか……? 具体的に何ができるかはわからないけど。


「聖剣同士で呼び合っているだけかもしれないな」


 ダイ様が闇の力を取り込むことでパワーアップしたように。


 灰となった古の聖剣使いに黙祷を捧げた後、俺は先を急いだ。祠を目指して。



   ・  ・  ・



「だからって! いつまで彷徨っているつもりなんだよ!」


 俺の頬を氷がかすめた。相手はスケルトンナイトが二体。両方とも聖剣持ちだ。岩の壁を展開し、一体のスケルトンナイトの攻撃を阻止!


「バニッシュ!」


 光が弾け、もう一体のスケルトンナイトが塵も残さず消滅した。

 だが息つく間もなく、火の玉が降り注ぐ。


「ストーム!」


 ブレイブストーム本来の力のひとつ、風が渦となって飛来する火の玉を絡め取る。


「浄化しろ!」


 一撃を突き入れ、スケルトンナイトが、動かぬ骨となり、大地に還った。

 残ったのは氷属性の聖剣と、炎属性の聖剣が1本ずつ。


「……まさか、試練に敗れた聖剣使いと全部戦わないといけないパターンか、これは?」

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