第119話、救援部隊


 ノルドチッタ内に、ゴブリン軍団はいない。


 それが町の守備隊と選抜された住民らの報告だった。


「そうか、安全か。それはよかった」


 モンソ子爵はようやく肩の荷が下りたようだった。それを住民たちも声を上げて喜びを噛み締める。


「やった……! 助かったんだっ」

「これで家に帰れる!」


 喜びを露わにする人たちに混じり、肩を落としている人やボロボロと泣いている人も少なからずいた。


 これについて、イラが俺に教えてくれた。


「町の中でも敵が入ってきましたから。住民の犠牲者も大勢出たようです」

「町長の屋敷へ逃げ込めた人以外、ほぼ全滅だろうしな……」


 住民の中には、自分の家がどうなっているか戻りはじめている。町のあちこちでゴブリンやトロルが暴れていたから、まったく無傷な家は少ないだろうな……。


 モンソ子爵は、俺たちリベルタに感謝の意を表した。


「ありがとう、ヴィゴ殿。君たちリベルタのおかげで、町は救われた!」

「いえ、町の人たちの努力と協力あればこそですよ」


 いくら俺たちでも、リベルタだけで守り切ったわけではない。


「いやいや、 君たちが駆けつけてくれなければ、我々は奴らに皆殺しにされていただろう! ヴィゴ殿がトロルを一撃で倒すところをこの目で見た! あれがなければ、到底守り切れなかった!」


 興奮気味にモンソ子爵はまくしたてる。まるで子供のように、俺たちの活躍ぶりを語るさまは、ちょっと恥ずかしい。それだけ、嬉しいのだろうけど。


 町長であるモンソ子爵からすれば、全滅の危機を脱したわけだからな。九死に一生を得たなら、そりゃこうもなるかもしれない。


「俺たちはできる範囲でやったまでですから」

謙遜けんそんを。何度でも言うぞ。君たちはノルドチッタの救世主だ。本当にありがとう!」


 モンソ子爵は惜しげなく感謝を述べた。


「私に出来ることがあれば、何でも言ってくれ。我が町の恩人に是非ともお礼がしたいからね!」


 何でも、ねえ……。無難なところでは報酬だろうけど、町の復興とか大変なんじゃないかな? 


 それにしても、俺が何を言うかすっごい期待する目を向けてくるんだけど、この子爵様。どうしたものか。


 そこへ屋敷の使用人がやってきた。


「町長様、東門から伝令です。王都からの援軍と思われる集団が町に向かってきております」

「援軍……! ようやくか」


 ほっ、王都からの援軍か。ということは、王都前にいたゴブリン軍団は問題なく処理できたということだ。


 それは朗報だ。そしてそこからノルドチッタへやってきた時間を考えると、それなりに急ぎで来たに違いない。



  ・  ・  ・



 王都からの救援部隊がノルドチッタに到着した。


 ロンキドさん率いる冒険者を中心にした集団だった。


「もう、町にゴブリン軍団はいない?」

「はい。つい先ほど、掃討宣言がでたばかりです」


 俺が告げると、ロンキドさんは頷いたが、彼に率いられた冒険者たちは、拍子抜けしたような声が漏れ聞こえた。


 ……舌打ちが混じっていたのは気のせいか? 出番がなくて残念だったのかね。


「町長は無事か?」

「はい、屋敷に」

「案内してくれるか、ヴィゴ」


 どうぞ。ということで俺は、ロンキドさんを連れて町長の屋敷へ引き返すことに。冒険者たちもついてきたが、町の破壊の有様に言葉少なだった。


 家の前で泣き崩れる住民や、掃除を始めている住民らを見て、市街戦の凄惨さを痛感しているのかもしれない。町長の屋敷周りの石壁が、ほぼ崩壊しているのを見て、冒険者たちは完全に黙り込んでしまった。


 俺はロンキドさんと、再びモンソ子爵と会う格好となった。町長は、俺たちリベルタの活躍ぶりをそれはもう自慢げに語った。


 これ、ロンキドさんだからよかったものの、もし他の冒険者たちだったら、うんざりしたんじゃなかろうか。


 そのロンキドさんは、モンソ子爵に告げた。


「――ノルドチッタの被害は大きかったようですが、すでにゴブリンどもがいないのであれば、我々は今回の災厄をもたらしたと思われるドローレダンジョンの調査へと向ます」


 ノルドチッタ救援部隊が冒険者が中心だったのは、町の救援後、余力があればスタンピードの原因であるダンジョンを調査するためだったらしい。


「ダンジョンに近かったメディオ村の状態を確認。おそらくそこを拠点として、ダンジョンを調査。もしスタンピード直後でまだモンスターが多いようならば、そのまま掃討します」

「またスタンピードが起きても困りますからな。ぜひ、よろしくお願いする」


 モンソ子爵が丁寧に頭を下げた。ロンキドさんは、この辺りでは伝説級のSランク冒険者。子爵ですら知っている有名人だ。


 さあて、じゃあ俺たちも、ロンキドさんたちに合流してドローレダンジョンの調査に――


「ヴィゴ、お前たちリベルタは王都に戻っていいぞ」

「はい?」


 ロンキドさんの言葉に耳を疑う。


「戻っていい、とは?」

「お前たちは王都防衛でも、ノルドチッタ防衛でも存分に働いてくれたからな。特にこの町では我々が駆けつけるまでに奮戦したのだろう。充分にやってくれた。休め」

「いいんですか?」

「まあ、ぶっちゃけると、お前たちリベルタばかり活躍してしまうと、他の冒険者たちから不満が出るからな」


 あー、そういえば。さっき出迎えた時に、何か変なムードだったのはそれが原因か。俺らばかり活躍したら、まあ面白くないよな冒険者たちにとっては。


 手柄を独り占めにするつもりはなくても、ノルドチッタ防衛に関しては結果的にそうなっちまった。これ以上、出しゃばると恨みすら買いかねない。


「わかりました。自重します」

「すまんな。おれ個人としてはお前を頼りにしたいんだが」


 冒険者ギルドの長として、あまり個人贔屓はできないもんな。苦労をかけて申し訳ない。


 そこへ、またも部屋の扉を使用人が叩いた。モンソ子爵が返事をすれば、使用人が一礼した。


「町長様、西門より報告。マルテディ侯爵領より救援部隊が到着いたしました」

「マルテディ領から……?」


 はて、マルテディ……どこかで聞いた名前だ。誰だっけか……?


 考えた俺は、ふと聖剣使いのヴィオ・マルテディを思い出した。……ああっ、マルテディ! 聖剣の一族の名前だ!

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