第118話、ゴム活用法


 ノルドチッタを襲ったゴブリン軍団は全滅した。


 町長の屋敷に攻めてきた連中は返り討ちに遭い、集まってきた奴らもベスティアとゴム軍団によって殲滅された。


 俺はモンソ子爵に、ゴブリン軍団は去ったと報告した。全滅させたと言うと、リベルタ含めこの少人数しかいない状態で、かつ一日経たずで敵を全滅させられたのかと疑われると思ったので、逃げたということにしてお茶を濁したのだ。


 生き残りの守備隊兵と、避難民から選抜された大人たちが、町の中が安全か確認することになり、それまでは俺たち冒険者は領主屋敷と避難民を警護をした。


 俺たちも徹夜だったから、交代で休憩をとりながら、それを待った。


 さて、俺とダイ様、アウラはこの増えすぎたゴムについてどうしようか話し合う。数えたら106体もいた黒スライムである。これを連れ歩くはもちろん、家に帰ったらスライムパークになっちまうぜ。


 ただ、すでに解決法は見いだした。というか、ゴムのサタンアーマースライムとしての能力を応用したのだ


 ゴムは分裂体を取り込むと、再び分裂した。しかしその分裂体はスライムではなく、表面がスライムのボックスのような形で。


 ダイ様が通訳するところによると――


「これがサタンアーマーなどの魔王武具の素材だそうだ」

「おぅ……」


 触れたものを腐らせてしまう魔王が、唯一己の腐食を許さなかった素材。サタンアーマー・スライムの存在の意味は、この素材獲得のためだったとされる。


 それがゴムによって、己の分裂体を取り込み、素材処置をされて吐き出される。


「……とりあえず、この素材は、我の収納庫にしまっておくぞ」


 ダイ様は積み上がりつつあった、黒い塊を自身の収納庫にしまっていく。そりゃ、魔王の武器防具に使われている素材なんて、軽々しく人の目に触れさせるわけにはいかないな。


 戦う者からしたら、魔王武具の素材を利用すれば、聖剣以外に怖いものなしの最強装備を作ることができるかもしれないのだから。


 奪っててでも手に入れる、なんて奴が必ず出てくるだろう。これに対する扱いは慎重に……。


「おい、アウラ」


 アウラさんが、悪いことを考えている顔をしていた。そういえばこの魔女、ゴムの正体を知った時も装備に応用できないかとか言ってたもんな……。


 まあ、素材がこんなにあるんじゃなぁ。むしろ使わないともったいないか。


「フフフ、どういうのがいいかしらね」

「武器はあるんだよな。俺は魔剣ダーク・インフェルノに聖剣ブレイブストーム。ルカはラヴィーナ」

「シィラはタルナード。ベスティアは、あの腕のブレードだけどあれの素材は、サタンアーマーのそれと同じっぽいし新しく用意する必要性はなさそう」

「ディーの手甲は右手のそれも、ゴム……サタンアーマー素材だし」

「ディーのブーメランとか、マルモに何か作らせる? この前のアンジャ神殿で回収した銃も魔法金属やサタンアーマー素材っぽいし」


 俺とアウラは考え込む。


「やっぱ名前の通り、防具かな」

「兜、鎧一式。確かにそれは欲しいところよね」


 アウラはゴムの作ったサタンアーマー素材のひとつを取る。ぐぐっと押すと弾力があるようだった。


「不思議な素材ね。この状態でも武器で切れないし、魔法も効かない。でもたぶん、ベスティアの鎧と同じく金属板のようにもなるのよね」

「加工の仕方ってどうなんだろう。……ダイ様はわかる?」

「ん?」


 収納庫にサタンアーマー素材を回収しながら、ダイ様が振り返った。


「というか、お主らも手伝え! 我ばかり働かせおってからに」

「はいはい。……それでどうなん? せっかく魔王素材あっても加工できないんじゃ意味ないし」

「そんなもん、ゴムを仕込めばよかろう。こやつなら形を変えるなど造作もあるまい」


 ダイ様はサタンアーマー素材に触れながら言う。


「一応、あやつ自分の形をある程度変えられるようだし、これこれこういう形にしてと頼めば、作ってくれるだろ。……おい、そこの」


 ダイ様が、ゴムの前で順番待ちしている一体の分裂体を呼んだ。ぴょんぴょんと小さく跳ねながらそいつはやってきた。


「ヴィゴの予備の剣を……っと」


 収納庫にしまっていた俺の予備剣を取り出すダイ様。マルモ作のショートソードを、分裂体に差し出す。


「ほれ、これと同じ形の剣をこしらえて見せよ。素材は、これで」


 ゴムが作ったサタンアーマー素材ブロックを一緒に渡す。するとゴムの分裂体は、まず素材ブロックを自身の体にくっつけた。次に剣を取り込み、ブロック体の方へ体の中を移動させる。


 ……おいおい、間違ってもそこで剣を溶かすなよ。ゴムの消化の威力は凄まじい。この分裂体も、ひとたび消化を選べば数秒と掛からず溶かしてしまうだろう。


 俺の不安をよそに、剣が吐き出された。そして素材ブロックが、今しがた排出した剣の形へと変形していく。


「おおっ……」


 アウラが目を輝かせて注視する。分裂体にくっついていた素材ブロックは、もはやブロックではなく剣へと変わっていく。


 ドン、と分裂体から剣が落ちた。分裂体が一歩分下がり、ダイ様が落ちた黒い剣を拾った。


「ほれ。案外簡単だったのぅ。サタンアーマー素材の剣、完成だ」

「おおーっ!」


 アウラがさっそく、ダイ様から剣を受け取ると、振ったり構えたりし始めた。……誰か俺の剣も気にして。


「こんな簡単にできちゃっていいの? これがサタンアーマー素材の剣」

「形を真似するお手本があったから、というのもあるだろうがな。見たところ、形は完全にヴィゴの予備剣と同じようだし、見本がないとダメかもしれん」


 ダイ様が収納庫から斧を取り出した。いつぞやのクエスト中に回収したもののようだ。分身体に斧を見せながら、今度は取り込ませずに素材ブロックを渡して作らせる。


「…………」


 分身体は素材ブロックを斧に変形させるが、先ほどよりかなりスローペースだった。しかも出来は――


「これは、斧か……?」

「形もまあ、歪ではあるけれど……これ刃?」


 斧っぽい形をした何かができた。


「今のところ、取り込まないとダメそうだな」

「見ただけでそう都合よくはいかないってことね」


 アウラは頷いた。


「原型がいるってことよね?」


 俺たちが話し合っている間、出来損ないの斧もどきをもとのブロックに戻すと、ダイ様が、サタンアーマー素材の剣を見せて「これをもう1本作れ」と命令する。


 すると、取り込まずに寸分違わず、同じものを素材から作ってみせた。一度体を通っているものならば、取り込み直さずとも作れるらしい。


 へえ、便利なもんだ。

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