第114話、ノルドチッタ救援


 高さ6メートルもの門が開き、俺は先陣を切る。


 ホブゴブリンたちは一斉にこちらを見た。重々しい門が開く音が辺りに響いたせいだろう。腰を下ろしていたゴブリンも立ち上がったようだった。


 俺は距離を詰める。すぐ後ろから聞こえる金属の足音はベスティアだろう。いいね、心強い。


 守備隊は、俺が46シーをぶちかますまでは、ゆっくりと前進する。衝撃波の巻き添えを食らわないようにするためだ。


 ホブゴブリンたちが、俄に慌ただしくなった。弓持ちが整列し始めているのは、王都から出てきた守備隊に対処するためか。……こっちには飛ばしてこないんだな。


 まあいい。代わりに、斧持ちホブゴブリンが前に出てきた。みるみる距離が縮まる。


「行くぜ、ダイ様――」

『おう! 46シー、フルブラストォー!』


 魔剣からの一発。紅蓮の爆発が、ゴブリン軍団と、その間に混ざる石化したトロルの間に炸裂した。


 俺たちを迎え撃とうと揚々と前に出たホブゴブリンの戦士たちを吹き飛ばし、整列していたゴブリン弓兵を爆炎に呑み込み、石像トロルをなぎ倒した。


 ゴブリン軍団の前衛から中衛を粉砕し、その後衛までも衝撃で倒れ、その陣は一気に崩れ去った。


 ちら、と後ろを一瞥すれば、大盾を構えていた兵士や冒険者たちが動き出した。


「突撃ィー!! 敵を突き崩せぃ!」


 カヴァリ隊長が剣を指揮棒よろしく前方に指向させ叫んだ。守備隊兵は槍や剣を手に突撃の咆哮を上げて駆ける。


 冒険者たちも同様だ。ホブゴブリンたちが倒れ、衝撃波に三半規管が麻痺している間に、距離を詰めてトドメを刺すのだ。


 俺のそばにはベスティアとゴムがいた。ゴムは敵が弓や魔法などを俺めがけて撃ってきたときの備えだったが、その必要はなかったようだ。


 俺たちの左右を、冒険者と王都兵が抜けていく。ホブゴブリン軍団の生き残りを一挙に始末にかかる。


 カヴァリ隊長が、俺のそばを通過しながら叫んだ。


「ヴィゴ殿! 打ち合わせ通り、ここは我々に任せて、ノルドチッタの救援に向かってくれぃ!」

「わかりました! ――ダイ様、闇鳥を」

『おうさ』


 待機していた、ルカやシィラ、リベルタメンバーもこちらに集まってきた。ダイ様が闇鳥を7羽出すと、前回と同じ組み合わせでそれぞれ乗り込む。


「ヴィゴ、幸運を!」


 ロンキドさんに声を掛けられ、頷いて応えた。ダイ様の先導で、闇鳥は飛び上がる。


 地上ではゴブリン軍団の生き残りと守備隊・冒険者の戦いが繰り広げられていた。立ち直ったホブゴブリンは、組織だって動く余裕もなく、各個に戦い、撃破されている。……これなら制圧も時間の問題だろう。


 王都防衛はほぼ決まりだ。俺たちは憂いなく、ノルドチッタの町へと向かうことができる。



  ・  ・  ・



 街道に沿って北上。そして北西の道を辿れば、外壁に囲まれた城塞都市ノルドチッタが見えてきた。


「……うわ」


 思わず声に出た。都市の東門付近に、ゴブリン軍団と思われる野戦陣地があった。城塞の門が破壊されているようで、ホブゴブリンが都市の中と外を行き来している。


 ここでも石化したトロルが見え、外壁の周りをゴブリンライダーがうろついている。


「中に入り込まれているな……」

「どうする、ヴィゴ?」


 闇鳥を誘導しているダイ様が振り返る。町中じゃ、46シーでまとめてってわけにはいかない。


 となれば――


「まずは、あの外にいる陣地を吹っ飛ばしてやろう!」

「なら、少し距離を置いて着陸するぞ。町の壁をぶち壊してよいというのならば、もっと近づくがな!」

「いや、それはいけない」


 ダイ様に従い、闇鳥が順次翼を広げて、滑空降下に移る。丘陵の間を走る街道に、ふわりと着地。後続も次々に降り立つ。


「外側の敵を片付ける!」


 俺は仲間たちに告げた。46シーを使うから、援護をよろしく!


 遠方から角笛らしき音が聞こえてきた。町のゴブリンたちか? 連中からしたら後方に俺たちが現れたから、人間の増援到着って慌てているんだろうか?


 構わないぜ、むしろこっちへ来い!


「先制の、46シー・トリプル!」


 ゾロゾロと現れたホブゴブリンの蛮声が、地獄の業火に消える。粗末な天幕もどきのある陣地や石化したトロルもろとも、東門そばのゴブリン軍団の陣地が燃え上がり、一瞬で炭になった。


「このまま一気に門まで行くぞ!」


 俺たちは走る。今ので100ぐらいは削れたかな? そこへディーが声を張り上げた。


「ゴブリン・ライダー、集まってきます!」


 見えた。北側と南側、双方でうろついていたゴブリン騎兵が、俺たちに突進してくる。


 南側の敵に、ルカが弓を、イラがドワーフ式ライフルを構え、撃った。騎手を失い、先頭の大狼が迷走するが、後続は真っ直ぐ突っ込んでくる。


 イラが銃弾を装填する間に、ルカが第二射を放ち、さらにマルモがガガンを乱射して弾幕を形成する。


 北側からの敵は、俺とシィラ、ベスティアの前衛組が迎え撃つ。ニニヤがファイアランスの5連放射で先制し、敵騎兵の勢いを怯ませると、後は前衛と敵の殴り合いだ。


 シィラの魔法槍の風が狼ごとゴブリンを弾き飛ばせば、ベスティアがその剛力で敵騎兵を一刀両断にし、俺は超重量の塊である盾によるアタックと魔剣の斬撃で倒していく。


 ディーが何やら石のようなものを投擲しているが、威力があるのか当たったゴブリン・ライダーが次々に大狼の背から転落していく。いったい何を投げているのか?


 来た奴から血祭りにあげ、北側は各個撃破できそうだ。南側に目を向ければ、ルカとアウラが前衛をやり、側面をイラとマルモの銃撃でカバーしていた。ルカがラヴィーナで敵を分断するのは分かるが、アウラが前衛の動きをしていた。


 軽戦士さながらに、相手の飛びかかり、すれ違った時にはゴブリンの胸や頭に尖った杭がナイフのごとく刺さっている。かと思えば、具現化させた丸太を破城槌のごとく叩きつけて圧殺する。


「ニ、ニンジャ!? アウラさん、魔法使いでは……?」


 マルモが思わず声を上げた。ニンジャとは、東方にあるとある国の戦士の名前だったような。


 そうなのか。ああいうのがニンジャというのか。 


 ともあれ、町の外にいたゴブリン・ライダーは個々に攻めてきたこともあり、リベルタの面々の活躍で撃退に成功した。


 町の反対側の様子はわからないが、東門近辺は制圧……してないよなあ!


 門にホブゴブリンが数体。さらに外壁上にも弓を持ったホブゴブリンが数体いた。ただし、外壁上の連中はダイ様の闇鳥がちょっかいを出していて、俺たちを狙うどころではなかったが。


 そしてもうひとつ。


 ゴムが増えていた。ちっこいのも合わせて10体以上いるんですがこれは?

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