第115話、都市内戦闘


 ノルドチッタの町の救援にきた俺たちリベルタ。東門の周りを制圧したはいいが、ゴムの数が増えていた。


 いったい何事?


「すみません。ボクがゴムを投げたんです」


 ディーが犯人、というか原因だった。迫り来るゴブリン・ライダーに投げていた石のようなもの――あれはゴムの分裂体だったのだ。


 魔王の欠片の影響で強化されたディーの右腕から投げ込まれた石の塊のようなゴムは、倒したゴブリンの体を取り込み解かしてエネルギーに変えた。結果、取り込んだ影響で体が大きくなったということらしい。


「まあ、原因がわかったから、今はいいや。町に入っている敵を片づけよう」


 ノルドチッタの住人たちを、町に入っているホブゴブリンが襲っているだろうから。


「いまは日中だからトロルはほぼ石化――」

「いえ、ヴィゴ。油断は禁物よ」


 アウラが注意した。


「建物の中とか、暗がりに石化していないトロルが潜んでいるかもしれないわ」

「なるほど。みんな、トロルにも注意だ」


 いざ、町中へ。門を固めているホブゴブリン数体が槍を構えて、侵入を拒もうとしている。


擲弾筒てきだんとう、撃ちます!」


 イラが得意武器である擲弾筒をポンと放った。密集していたホブゴブリンたちがまとめて爆発の餌食になる。


 そのまま突入……はいいんだけど――


「ダイ様、闇鳥で上から町を見えるか? 住民がどこにいるか見えないか?」

『町の北西側に大きな屋敷があるが、そこにゴブリンどもが集まっておる。……人もいるが、如何せん急いだほうがよさそうだ!』


 そんなにまずい状況か! なら――


「俺とアウラ、ベスティア、ディーで先行する! 後の皆も、北西にある屋敷を目指しつつ、出てくるゴブリンを排除してくれ」


 俺はダッシュブーツで加速。ベスティアも同速でついてきて、アウラは民家の屋根に飛び上がると、ディーもまた白狼族の身体能力を活かし、壁蹴りから屋上に飛び乗った。


『我の闇鳥を上に飛ばしておくから、それを目印についてこいよー!』


 ダイ様が後続するルカたちに言った。後続組はルカ、シィラ、イラ、ニニヤ、マルモとゴムと分裂体たち。前衛後衛、回復も揃っているから大丈夫だろう。


 まあ、道は切り開くけどな!


 俺とベスティアは闇鳥の誘導に従って町中を進む。ところどころにホブゴブリンがいたが、出てきた奴はもれなく、俺の超装甲盾に跳ね飛ばされるか、ベスティアに斬り捨てられた。


 やがて、屋敷とやらに到着した。周りの石壁をホブゴブリンが取り囲み、中に入ろうとしている。壁の向こうから槍が伸びてきて、侵入しようとするホブゴブリンを突いては押し返している。


 だが石壁をハンマーで砕いているホブゴブリンもおり、まさに壁の崩壊が差し迫っている状態だった。至る所から侵入されそうになっていて、手の施しようがないのまさに寸前だった。


「外のゴブリンを排除! ベスティア、右から回れ」

『承知!』


 俺は左側へ進み、右手の魔剣を横に倒し、ダッシュブーツで突っ切った。壁に取り付いているホブゴブリンは、俺が倒した魔剣に触れ、両断されていく。


 壁についていないホブゴブリンは、超装甲盾は突っ切る勢いで体当たり。


「氷の牙――アイスブラスト!」


 アウラが近くの民家の屋根から氷の魔法で、ゴブリンを貫いていく。俺がぐるっと屋敷の周りを回ると、反対側からベスティアがホブゴブリンを切り裂きながら現れた。ベスティアの腕の刃も、切れ味抜群だ。


 とりあえず、壁に張り付いていた敵は一掃した。後は壁から離れていた奴をやっつける!


 俺とベスティアでホブゴブリンを斬り捨てて、屋敷の周りをさらに一周。すると崩れかけの壁の向こうから声を掛けられた。


「おおいっ! あんたたち、冒険者か!?」

「王都からきた冒険者クランのリベルタだ!」

「王都!? 助かったぁー!」


 壁の向こうの声がそう言い、さらに何人もの歓声と安堵が聞こえた。石壁からひょっこり、ひとりの男が顔を覗かせた。


「いやいや、本当によく来てくれた。もう駄目かと思った」

「まだこの屋敷の周りだけだ。町にはまだ敵がいるだろう」


 俺は答えると、男――青年に手を差し出した。


「俺はヴィゴ。リベルタのリーダーだ」

「ジョーだ。ありがとう、リベルタのヴィゴ」



  ・  ・  ・



 後続の到着を待ちつつ、俺たちは町長の屋敷だというその敷地に足を踏み入れた。ノルドチッタの住人たちが多く逃げ込んでいて、かなり圧迫感を感じた。怪我をして横たわる人も多い。


 さっそく治癒術士のディーが治癒魔法を使い、アウラは持ってきたポーションを使って手当てを手伝っている。


 ベスティアは屋敷の石壁の門の前で警備につく。その間、俺はノルドチッタの町長、モンソ子爵と会った。


「よく来てくれた! 王都冒険者……ええーと」

「ヴィゴです。Aランク冒険者の」

「そう、魔剣士殿だな。あの有名な!」


 有名らしい。邪甲獣退治と、魔剣の持ち主ということがこの辺りまで伝わっているということか。魔剣を手に入れてからは、ノルドチッタの町に行かなかったから、そこのところわからない。


「それで、町の魔物は直に掃討されるのかな?」


 モンソ子爵は30代。長身だが、体格は普通。貴族らしく、間違っても戦うタイプには見えない。


「王都からはどれだけの規模が来てくれたのか」

「いまいるのは、俺たちだけですよ。10人前後ですか。先発隊として」

「10人?」


 モンソ子爵は不安な顔になる。そりゃそうだ。たった10人しかいないって聞けばね。


「王都もゴブリン軍団の攻撃を受けましてね。まあ、間もなく掃討が終わるでしょうから、そこから援軍を出すと思います」

「うむ、そうか。……今日中に、援軍は到着してくれるだろうか?」

「さあ、何とも。俺たちは空飛んできたので駆けつけられましたが、援軍は歩いてくるでしょうから、明日以降じゃないですか」


 子爵の表情は曇る。


「すると、まだ町は安全とは言えないということか」

「残念ながら、そうなります」


 この町にどれだけのゴブリンやトロルが入り込んだかわからない。屋敷に集まっていた連中は退けたが、まだまだいるはずだから。

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