第111話、防衛一日目


 46シーという切り札を使い切った俺たちは、撤退行動に移った。来た時と同様、闇鳥に乗って戦場を離脱。王都カルムへと戻るのだ。


 上空からの見たところ、残るゴブリンは350くらい。つまり、俺たちは全体の3分の2くらいの敵を叩き潰したことになる。


 俺が真に魔剣の適合者だったなら、全滅させられたんだろうか……? たぶんできただろう。


 だが46シーのチャージ時間を稼いでくれる仲間たちがいてこそだ。おそらく、もう一撃しようとしたなら、仲間たちにもギリギリの防戦を強いていたに違いない。回復役がいるとはいえ、重傷や死者の可能性もあった。


 それだけゴブリン軍団は味方の犠牲にも怯まず、圧をかけ続けた。ゴブリンは基本的に臆病と言われるが、ホブになると戦士としての意地というものが芽生えるらしい。上級ゴブリンって、卑怯な手を使っても目に見えて臆病ではないってイメージがある。


 王都からも比較的近かったこともあり、戻るのはすぐだった。


 王都外壁には、すでに守備隊が配置に就いている。冒険者の姿をあり、俺たちが闇鳥で戻ってくると不思議そうに見上げていた。


 外壁北門の裏には野営用の天幕が張られていたが、開けた場所にロンキドさんの姿を認めたので、そちらに降りた。


 八の字髭の立派な高級騎士も一緒だった。……あれ、この人、邪甲獣トルタルを倒した時に見かけた王国の上級騎士様。


「ヴィゴ、上で見ていたぞ」


 ロンキドさんは言った。


「こちら、王都守備隊隊長のカヴァリ殿」

「トルタル討伐以来だな。活躍は聞いているぞ」

「ご無沙汰しています」


 カヴァリさんって言うんだ。あの時は自己紹介してなかったな。


「敵は、残り300から350といったところです」

「先ほどロンキド殿と外壁から見ていたのだが、凄まじい力だった。以前は魔剣の力を引き出せないと言っておったが、使えるようになったのか?」

「多少は。ただ、今日のところはあれが限界でしたが」

「あー……、なるほど、ゴブリン軍団を全滅させないのは何故だろうと思ったが、もう使えんのか?」

「今日のところは。力が回復すれば、また」


 やはり、あともう1、2回で敵を殲滅できたのでは、と外壁で見ていた人たちも思ったらしい。そう都合よくはできていない。


「そうか……」

「何はともあれ、よくやってくれたな、ヴィゴ」


 ロンキドさんが労うと、カヴァリ隊長も頷いた。


「うむ。お前のおかげで、王都防衛にも希望が出てきた。なにぶんどこにも援軍を頼れない以上、ここにいる者だけで何とかしないといけないところだった」

「援軍といえば……」

「ノルドチッタか」


 ロンキドさんも、カヴァリ隊長も俺を見た。


「明日には、魔剣の力が回復する?」

「そのはずです」

「では、王都前の敵に一撃を入れてもらった後、ノルドチッタへ行ってもらうというのは――」


 カヴァリ隊長が言うには、俺たちがゴブリン軍団を削ったとはいえ、王都の守備隊と冒険者の数はようやく互角。しかし素人が多い状況ゆえ、もう少し敵を減らしたい。


 予備戦力がない以上、犠牲は最小で敵を殲滅しなくてはいけない。そこで、俺が魔剣の力で敵に打撃を与え、敵の陣形が崩れたところを守備隊と冒険者で一気に突き崩す。


「一度崩れてしまえば、勢いで叩き潰せる!」


 せき止められた川が開放された時の、怒濤の流れを止められないように。


「ヴィゴ殿は一撃だけ与えてくれればよい。あとは残っている者で片付ける。その間に、あの大きな鳥に乗ってノルドチッタへ向かってくれないだろうか?」


 なるほど。闇鳥が使える俺たちは、いち早くノルドチッタの町へ駆けつけることができる。


 ロンキドさんは言った。


「こちらの状況次第だが、ケリがついたならノルドチッタへ冒険者を中心に救援隊を送るつもりだ。お前たちリベルタはその先鋒だな」

「わかりました。やります」


 俺の返事に、ロンキドさんとカヴァリ隊長も安堵したようだった。元々、敵を削ったらノルドチッタへ行くかもと思っていたから、文句はない。


「今日のところはリベルタは、配置につかなくていいから休んでくれ。敵の動き次第だが、今夜は残っている者たちでもたせる」

「頼りにしているぞ、ヴィゴ殿」


 どうも。休んでいいと言われたので、俺は仲間たちのもとに戻った。


「皆、お疲れ。今日はよくやってくれた」

「その口ぶりだと、今日はお役御免かしら?」


 アウラが言えば、マルモが笑った。


「そういうことだ。明日はノルドチッタへ救援に行くことになる。今日はゆっくり休んでくれってさ」


 怪我人はなし。誰ひとり欠けることなく、明日も戦える。


「願わくば、今夜呼ばれないといいけれど」

「それな」


 今日はいい、と言われていざ呼ばれたら、それだけピンチな状態ってことだからな。



  ・  ・  ・



 本当なら、外壁北側裏の臨時野営地で冒険者や兵たちは休息を取るはずだった。外壁外にいる敵の襲撃に対応できるようにするためだ。


 だが、俺たちリベルタは、パーティーホームに帰って休んでいいと言われた。ロンキドさんもカヴァリ隊長も、何があっても、俺たちを休ませて明日に備えさせるつもりらしい。


 守備隊や冒険者のために用意されていた野戦食を食べてから、家へ帰った。


「やっぱ家は落ち着くな」

「本当ですね」


 ルカが同意した。マルモが手を挙げた。


「はいはーい、みなさーん。武具の手入れが必要な人は言ってくださーい。アタシがやりまーす!」

「マルモちゃん、ちょっといい?」

「はーい、イラさん。何でしょう?」

「ニニヤー、お風呂入れてきてー」

「はい、お師匠」


 さっそく思い思いの行動を取るメンバーたち。昼間の激しい戦闘の後だが、様子がおかしかったり落ち込んでいるような仲間はいなさそうだった。やっぱり怪我なく帰れたのが大きいかな。


 ベスティアは『待機状態になります』と言って、リビングの端で鎧飾りよろしく制止した。知らない人が見たら、完全に置物だよな。


 俺は、防具を外しつつ、素早く異常がないか確認する。特に攻撃を食らっていないが、なにぶん戦場での興奮で気づかなかったりというのも珍しくない。……特に汚れ以外はなさそうだな。よし。


 後は風呂に入って、さっぱりしたら、明日に備えて寝よう。

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