第110話、業火


 王都カルムへ進撃するゴブリン軍団。その中央は歩兵に相当するホブゴブリンがおよそ800。その左右を狼系魔獣に乗ったゴブリン騎兵が100ずつ歩いている。


 およそ1000の軍勢である。


 俺の乗る闇鳥は、こちらから見て左側を行くゴブリンライダーの斜め右方向から突っ込んだ。


「足の速い奴を片方黙らせる!」


 高度を落として、低空で減速。そして俺はその背中から飛び降りた。ダッシュブーツである程度勢いを殺せたとはいえ、数メートルほど地面の上を滑った。


 ゴブリンライダーが、単身降りた俺へ歩きながら注目している。距離およそ50メートルほどの至近距離! 


 うん、やっぱ一人で敵集団の真ん前下りるなんて馬鹿げているわ。数が多い!


 俺は超装甲盾を地面に置く。矢が飛んできたら盾を壁代わりにするのだ。魔剣を構える。


『よいな、ヴィゴ。フルブラストはチャージに45秒。46シーの通常は30秒だ。フルブラストは最初だけだぞ』

「わかってるよ、ダイ様」


 ゴブリンライダーの前列が駆け出した。俺に向かって騎兵突撃を仕掛けるつもりだ。遅えよっ……!


「行けよ、46シー――」

『フルブラストッ!!!』


 魔剣から地獄の業火もかくやの爆炎が迸った。雷鳴のような音が響き渡る。


 横薙ぎに一閃、扇を描くように振るわれた魔剣から、風圧の壁が駆け抜け、地面を引き剥がしながらゴブリンライダーをも吹き飛ばす。


 そしてゴッ、と轟音と巨大な火球が発生。後続のゴブリン騎兵、そして中央の主力ホブゴブリンの列をも巻き込み、さらに衝撃波で多くのゴブリンを弾き飛ばした。


 今回は、ちゃんとダイ様の保護が掛かっていたようで、耳も正常。その分、爆発音がうるさかったけど。


 俺が放った46シー・フルブラストの影響で、周囲の地面が焼け焦げていた。さらにゴブリンどもが踏みしめていた大地が耕されたような状態であり、その影響下にいたゴブリンは消滅するほど焼け、またはバラバラになっていた。


 片翼を担っていたゴブリンライダーの大半が、フルブラストによって吹き飛んだ。その衝撃は凄まじく、態勢を崩され、かろうじて範囲外にいたゴブリンライダーは、数えるほどしかいなかった。


 中央のホブゴブリン列にも影響を与えたらしく、その進撃が完全に止まった。

 が、反対側にいた残るゴブリンライダー集団が飛び出し、こちらへと駆けてくる。


『次弾チャージ! 30秒!』


 ダイ様がカウントを始めた。ゴブリンライダーの突進が届くのは、そのギリギリか!?


「ヴィゴさん!」


 闇鳥が降りてくる。ルカ、シィラ、ベスティアの前衛組が俺の傍に広がった。さらに便乗していたゴムとその分裂体も展開する。


「時間を稼ぎます!」


 ルカが魔法大剣、シィラは魔法槍を構える。


「ベスティア!」


 黒騎士の鎧に赤い紋様のようなものが浮かび上がる。獣のような咆哮を上げると、風のように飛び出した。両腕部の突起が剣状に伸び、瞬きのあいだに数十メートルの距離を詰めると、狼ごとゴブリンライダーをその豪腕で切り裂いていく。


 凶暴なる獣。ベスティアの名にふさわしく、凶悪なまでの一撃と猛々しくも荒々しさでゴブリン騎兵を千切っていく。


 しかし流れる川の水の如く、ゴブリンライダーの勢いを全て止めることはできない。


「ラヴィーナ!」

「吹き荒れろ、タルナードっ!」


 ルカとシィラが、それぞれの魔法武器を発動させる。


 冷気の斬撃が、複数のゴブリン騎兵を凍らせ薙ぎ払い、暴風がグレーウルフとゴブリンを切り裂き、まとめて跳ね返す。


 残り10秒! 俺のもとに届きそうだった敵騎兵の前列が、こちらの3人の前衛によって阻止された。後続は迫るが、魔剣の次の攻撃までには届かない。


「ベスティア、戻れ!」


 単独突出し、ゴブリン騎兵を貪るように血祭りに上げていた黒騎士が、大ジャンプで戻ってくる。やっばい、やはり人間とは体の作りが違うわ。


 その間に、俺たちの後ろに、残りの闇鳥が降りて、後衛組が配置につく。


 ドドドっと半分に減ったゴブリンライダーが突っ込んでくる。槍や棍棒を振りかざし、何事か喚き散らしながら。


「悪いな、ゴブリン語はわかんねえんだ……!」


 俺が前に出ると、ゴムと分裂体が前衛組を保護するように壁を作り、後衛もアウラが木の壁を生成して遮蔽を形成した。


「ゼロ!」


 46シー・トリプル! 魔剣が再び業火を放った。寸前まで迫っていたゴブリンライダーが壁にぶつかったように跳ね飛び、後続が四散した。


 爆発が三つ。それらはゴブリン騎兵を完全に粉砕し、さらにこちらへ向かい始めていたホブゴブリン列にもダメージを与えた。


 フルブラストにはかなわないものの、トリプルの名前どおり、通常46シーの3倍の威力!


「凄い、凄いぞ、ヴィゴ!」


 シィラが歓声を上げた。


「これが魔剣の力か!」


 いやはや、まったくだ。魔王の欠片2つで、この力。もし吸収できるだけの闇の力を取り込んだら、ほんとにどれだけ恐ろしい力を発揮するんだよ、ダイ様。マジで大地割れるんじゃね?


『次弾チャージ、30秒』


 ダイ様が伝えてくる。


『あとお知らせだが、今日のところは46シーは、あと2回までだ! それより先は明日以降だ』

「了解。削れるだけ削る!」


 魔剣の必殺技の使用制限。わかってる、これは俺が持てるスキルで魔剣を扱えるだけで、魔剣の真の力を発揮できないせいだ。俺本体の魔力量不足がなければ、まだ数回は使用回数を増やせるらしいが、いまはこれが限界だ。


 ホブゴブリン集団が、完全に俺たちへ進路を変えた。排除しなければならない敵だと判断したのだろうか?


 連中は駆けてくるが、こちらに到着するまでに次の46シーをぶちかませそうだ。騎兵でなく、直に走ってくるホブゴブリンの足は人間のそれと変わらないのだ。


 よーく、引きつけて……。本日3回目の46シー! 防具らしきものを装備するホブゴブリンも、魔剣の圧倒的火力と衝撃波には細切れにされる。


 次で最後! チャージを始める魔剣。仲間の屍を乗り越えて、突進してくるホブゴブリン軍。


 そこへ爆発が起きる。イラが擲弾筒を発射し、ニニヤとアウラがエクスプロージョンなどの魔法攻撃を開始したのだ。


 マルモがガガン――書物による正式名称、魔弾式ガトリングガンを撃ちまくる。放たれた魔法の弾はホブゴブリンを蜂の巣にして倒していく。


 少女にしか見えない体ながら、さすがドワーフというべきか。腕の中で暴れるガガンを制して敵へと弾を集中させる。


 ベスティアが再び敵に切り込み、ホブゴブリンの体を切断しまくり、近づいてきた敵集団をルカとシィラが魔法武器で押し止める。


 敵から飛んでくる複数の矢は、ゴムが体を伸ばして味方への被弾を防ぐ。


 素晴らしき仲間たちだ。チャージ時間を見事稼ぎ、俺は前へ出ると、本日最後の46シー・トリプルをゴブリン軍団に叩き込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る