第109話、俺は魔剣で行く


 王都カルムは騒がしくなった。


 ダンジョンスタンピード。ここにホブゴブリンの大群が迫っている!


 ロンキドさんは王都に残る冒険者に緊急招集を掛けた。現在進行中クエストの受注を中止にし、王都防衛に切り替えさせた。


 俺たちは、リベルタの家に戻った。メンバーを集めて、状況を説明する。


「ダンジョンスタンピード……!」


 ディーが、ニニヤが、マルモが驚愕し青ざめる。イラは首を傾け、ルカは目を大きくし、シィラは口元を引き締めた。ゴムとベスティアは、そもそも表情などわからない。


「王都の防衛戦力をかき集めて対抗するわけだけど、正直、主力の騎士団が出払っている今、完全に撃退できるか怪しい。王都の外壁をゴブリンが越えられるとは思えないが、連中は狡賢いからな。油断はできない状況だ」


 籠城の構えをとる。それが王都守備隊の方針だ。


「冒険者も防衛に参加するわけだが、俺たちリベルタは、ロンキドさんより遊撃戦力として独自行動する許可をもらった」

「独自行動?」


 シィラが隣のルカと顔を見合わせる。


「ダイ様が、闇鳥という巨大な鳥を召喚できる能力がある。俺はこれを利用して、王都の外に出て、ゴブリン軍団に魔剣の力をぶつけるつもりだ」

「!?」


 マルモが信じられないという驚きを見せ、シィラも目を鋭くさせた。ルカが口を開いた。


「46シーですか?」

「そう。あれでゴブリンどもの横腹を吹っ飛ばす」


 巨大な魔人の上半身を跡形もなく消滅させた魔剣の威力であれば、魔物集団の数を減らすことができるだろう。


 ここで敵を全滅させられたらかっこいいんだが、そう上手くいくとは思っていない。


「ダイ様が言うには、闇鳥は最大7羽まで出せるそうだ。それで皆に悪いけど、俺の無茶に付き合ってくれる人、いるかな?」


 46シーには、インターバルがある。その間、ゴブリンの足止めをしてくれる人がいてくれると心強い。


「もちろん、これは俺の言い出した無茶だから、強制はしない」

「私、志願します」


 ルカがすっと手を挙げた。さも当たり前という顔をしている。ディーも一歩前に出た。


「ボクも」

「……面白い!」


 シィラは自分の右手拳を左手のひらに当てた。


「さすがヴィゴ。あたしが見込んだ男だ」


 うん、顔が引きつっているぞ、シィラ。豪胆な彼女も、やはり状況を楽観視はしていないだろう。それでも平気を装うのは、戦闘民族のプライドかな。


「アウラ師匠は、行かれるんですか?」


 ニニヤが質問した。作戦を知っているだけに俺の隣にいたドリアードの魔女さんは腕を組んで頷いた。


「もちろん。ワタシら魔法組は、闇鳥の上から魔法で援護するわけだからね」

「あ、それならわたしも!」


 ニニヤも参加に手を挙げた。地上に降りなくても攻撃魔法を使えばいいと聞いて、少し気分が楽になったのだろう。


 イラはどうかな、と視線を向ければ。


「わたしももちろん、ヴィゴ様にお供します」

「マルモは残るか?」


 大変悩んでいるドワーフ娘。彼女はここへ来たばかり。俺の戦いぶりは見ているだろうが、46シーは見たことないだろうし、どこまで通用するかの判断が難しいと思う。そもそも、彼女は戦闘要員として加わったわけじゃない。


 ここは、俺が率先して残るように言うか――


「アタシも、行きます! ……いや、ぶっちゃけ怖いちゃあ怖いんですが、せっかくだしガガンを使えれば、援護くらいはできるかも」


 結局、マルモも志願した。銃とかいう武器か……使えるのかな。俺のほうでも信用していいか確信はもてないが。


 ベスティアとゴムには、聞くだけ無駄な気もしたが確認すれば。


『我が主と共に』

『いいよー』


 ……ほらね。



  ・  ・  ・



 戦場に赴く準備をする。


 イラは擲弾筒の予備弾を、ディーにも追加で持ってもらっている。マルモのガガンについても一度試し撃ちをし、その威力を確認……って! これ意外と使えるかもしれん!


 それでもって、闇鳥を使って敵の近くまで飛び、その後どういう手順で戦うのかを確認。お互いの役割を全員で共有し、指示を出さなくても初撃をぶちかませるように意思疎通を図る。


 ちなみに、ここでダイ様が46シーの新しい仕様について語りだしたりする。……本番前に話してくれてよかった。ぶっつけ本番になるにしても、予め知っているのと知らないのでは天と地ほどの差があるんだぜ。


「よし、それじゃやるぞ」


 改めて仲間たちを見渡せば、緊張の色は隠せないが、最初話した時よりも引き締まった顔になっていた。少なくとも、視線が泳ぎ、何をすればいいかわからないような目をしている奴はいない。


「王都守るぞっ!」

「はい!」


 気合いのつもりで声を出したら、うまく揃わなかったが声は出ていたかな。


 ダイ様の出した闇鳥が、リベルタの家の庭を占領している。やっぱ近くで見るとでかい。それが7羽もいるんだから、そりゃ庭が狭く感じるわな。


「心配するな、こやつらは我がいる限り大人しい」


 ダイ様の助言に従って、闇鳥の背中に乗る。ちょっとグラついたが、生き物の背に乗るというのはこういうもんだ。


 俺とダイ様で1羽。ルカ、シィラ、マルモ、ベスティアは分裂したゴムと共に1羽ずつ。アウラとディー、イラとニニヤで1羽ずつ。結構ギリギリだな。


 俺たちリベルタのメンバーを乗せた闇鳥が、ダイ様の制御に従い、空へと飛び立った。


 みるみる近くの建物の屋根の高さを超えて、王都を低空でかすめる。外壁北側へと移動する冒険者集団が見え、さらにその外壁では警備の兵たちの頭上を通過した。


「……お?」


 王都カルム北方の平原の彼方に、移動する大集団が見えた。あまり高度をとる前から見えるということは、かなり敵が近づいてきているということだ。


 闇鳥の移動速度は速い。こりゃすぐに戦場だ。


「ダイ様、やるぞ」

『おうよ。46シー・フルブラストをぶちかましてやろうぞ!』


 魔剣ダーク・インフェルノは、その力を溜めている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る