第106話、クラン昇格
ちなみに、リベルタにドワーフ娘が加入することを告げた時、ロンキドさんは首を捻った。
「お前んとこ、これで何人になった?」
何人って、ダイ様とゴム、ベスティアは人数に入れないよな……? 俺とルカ、シィラ姉妹、アウラにイラ、ディー、ニニヤに、今回のマルモが加われば。
「8人ですね。ベスティアやゴムを入れると10を超えます」
「パーティーにしては大所帯になってきたな。……いっそクランに昇格するか」
クラン――人数の多い冒険者パーティーの呼称だったか。派閥とかグループとか、そんな感じに見られがちな印象があるんだが、俺もよくは知らない。仲良しパーティーの集まりで、合同チームでクランとかって聞いたような。
前のパーティーのシャインじゃ、他パーティーと組んだりすることもなかったから、ほんと縁がなかった。
「よく分からないんですが、クランとパーティーはどう違うんですか?」
「単に人数が多いパーティーだよ。他では知らんが、ここらでは便宜上そう呼んでいる。実際、ギルドでは少々扱いが異なってな――」
意味合いとしてはパーティーと同じらしい。ロンキドさんは、クランとパーティーにおける違いを簡単に説明した。
その1、クエストの受注範囲の拡大。討伐系クエストで、人数を必要とするものを優先的に受けられるようになる。冒険者ランクによる受注制限も、ギルド判断で受けられる可能性が上がる。
「先日、お前たちにもやってもらった邪甲獣ダンジョンの徹底調査な。あれは上級パーティーに限定されていて、本来だったらリベルタが参加するかは微妙なラインだったんだ。お前は上級ランクだが、それ以外のメンバーが中級ランクが多かったからな。初心者もいた……」
あー、俺もあの時はいいのかなって思った。指名依頼だから言わなかったけど。
「お前が邪甲獣退治の専門家だから参加してもらったがな」
でしょうねー。
その2、複数パーティー参加のクエスト時、グループリーダーになる。
「パーティーが集まると、誰が一番上かで結構もめるんだがな。クランリーダーは、そういう合同パーティーでは優先的にリーダーに指名される。普段から大人数の扱いに慣れているからな」
そもそも、人数の多いパーティーのリーダーというのは、中堅以上、上級の者がほとんどだから、リーダーに指名される優先度は必然的に高くなる。
「よそのパーティーに、自分のところのパーティーの配置をいじられるのは嫌だろう?」
確かに。複数パーティーのリーダーになった人物に、あれこれ口出しされるのはやる気が削がれるよな……。
でもまあ、そんな合同パーティーってあんまりないし……。
「ラーメ侯爵領での騒動のこともある。これからもこういうことが起こることはあるかもしれんから、心構えはしておいたほうがいい」
言われてみれば、最近は何かと物騒だもんな。決して他人事ではいられないかも。ロンキドさんも、ギルマスとしてそういう事態に備えて準備しているんだろうな。であるならば、こちらとしても協力は惜しまない。
それはそれとして、仮に俺がクランリーダーとして指示することになっても、よそのパーティーの配置を崩すようなことは言わないようにしよう。自分が嫌なことは、仲間にはしない。
というわけで、リベルタは、冒険者ギルド内における『クラン』ランクへ昇格の手続きをした。
他にも細かな違いがあったり、クラン昇格条件に『パーティーのホームがあること』などがあったが、リベルタはそれらを満たしているとして問題はなかった。
・ ・ ・
リベルタの家に帰り、皆にリベルタはクランになったことを知らせた。
「クランになると何か変わるんですか?」
ルカが質問したが、それについてはアウラがスラスラと説明した。転生前からSランクだった魔女である。その手のことも経験済みなのだろう。
特にパーティーメンバーにとって負担が増えるわけではなく、これまでと変わらないと知ってルカは安堵していた。
「めでたいことなんですね! お祝いしましょう!」
などと言ってルカが奮発したようにその日の夕食は豪華だった。
が、クラン昇格の話を聞いてから準備する時間などなく、それとは関係なく最初から豪勢にしていたようだったが。
「マルモさんの歓迎会も兼ねています!」
「わー、ありがとうございますぅー!」
……そっちで祝うつもりだったんだな、理解した。ベスティアは残念ながら食事しないが、お前もリベルタに歓迎するぞ!
しかし、シィラもルカに負けず劣らず食うが、マルモも意外に食べるな。ディーやニニヤが小食に見えちまう。
楽しいお食事の後は、のんびり休憩と雑談タイム。だが俺は、アウラとダイ様を呼んで明日、王城に行くことを伝えた。
「まあ、仕方ないわよね」
面倒くさそうな顔をするアウラ。ダイ様は――
「めんどくさっ!」
本音を隠そうともしなかった。苦笑するアウラは、リビングにいるマルモとイラのほうへ視線を向けた。
「掘り出し物?」
「神殿の宝物庫にあった遺物ですね」
ダイ様の収納庫から出した品の整理をしていた二人である。金銀財宝以外にも、武器や防具、魔道具などがあった。
「これは何かしらー?」
イラが首を傾げれば、マルモはそれを検分に使っていた書物を見やる。
「これはたぶん……『銃』という武器ですね。アタシもこの型は初めてですけど。弾という矢のちゃっちゃいやつを連続して飛ばす飛び道具ですよ」
どっこいしょ、と小柄なドワーフには、少々大きい銃なる代物を持ち上げた。何やら複雑な形状の持ち手と本体があり、先のほうへ細い筒のようなものが数本伸び、それをリングでまとめているような形をしている。
「これは『ガ砲』もしくは『ガガン』というらしいですね。こう――」
ウィィィンと独特の唸り音を出しながら先端のリングが筒の束ごと回転する。
「この回っている間に先端の穴から弾を撃ちまくる武器とあります」
回転を止めて、マルモはそのガ砲だかガガンを置いた。イラも持ち上げてみるが……。
「重いっ、ですね……!」
シスターがガ砲を持つ――何だろう、ちょっとドキリとした。
「ちなみに、銃自体は大昔にドワーフの間で作られていたんですよ」
マルモがペラペラと書物をめくっていく。
「ただ、魔王を復活させようとした悪しきドワーフのせいで、銃も悪いものって風習ができちゃったらしいんですよね。なので昔は結構作っていたのに、今ではほとんど廃れてしまったというか……」
「詳しいのね」
アウラが言えば、マルモは苦笑した。
「ちまちまと銃を研究したりする人はいますよ。アタシも含めて。呪われドワーフたちが使っていた武器がダメって言ったら、斧もハンマーもダメってことになるじゃないですか。さすがにそれはおかしいでしょって、考えるわけですよ」
でも――とマルモはニヤリとした。
「これ使えれば、アタシも戦闘面で少しはお手伝いできるかもです!」
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