第105話、お土産


 ペルセランデのドワーフたちは、邪甲獣の装甲の解析を進めているが、今のところは成果はなし。


 まあ、昨日始まったばかりだから、そう簡単にわかれば苦労はしない。


 ペルセランデの村長にご挨拶。やはりというか、マルモは村長の孫だったそうで、彼女がリベルタについていくと話すと、村長は『よろしくお願いします』と俺に頭を下げた。


 お預かりいたします。


 ここでやることも終わっているので、王都カルムへと帰る。来た時は大騒ぎだったが、去る時は何とも静かなもので、ドワーフたちもこちらを見なかった。


 アンジャ神殿の地下に触れてしまったせいかねぇ。いや、俺の後ろを進む黒騎士、マシンドールのベスティアにビビっているのかな?


「マルモ」


 村の出入り口脇の見張り台にいたドワーフの戦士が何かを投げた。


「達者でな」

「どうも!」


 それをキャッチしたマルモは礼を言った。


「何をもらった?」

「飴玉です」


 えへへ、と笑いながら、マルモは飴玉を頬張った。容姿のせいもあるが、そうしていると子供だよな。


 なお、村長の家で聞いた話では、マルモは子供も子供の19歳らしい。俺よりひとつ下だが、ルカやシィラのひとつ上らしい。……見えん!


 ドワーフの感覚では、19は子供らしいが、よくドワーフの集落の外に出せるなぁ。でも人間なら成人しているわけで、その辺りも勘定に入っているのかもしれない。……しらんけど。


 洞窟を延々と上り、やがて外へ。太陽が眩しい。吹き抜ける風に、何故か心地よさを覚える。


「外だー!」


 マルモがノビをした。楽しそうなその笑顔。


「マルモは外に出たことは?」

「ここまでだったら数え切れないほど。でもそこから先は昔一度だけ、王都にいく一団についていった時だけですね!」

「そうなのか」


 などと他愛ない話をしながら王都への道を行く。道中、グレーウルフの群れが襲ってきたが、軽く返り討ちにした。


 せっかくなので、ベスティアの力を見ておこうと思ったので、灰色狼たちの相手をさせたら、これがまあ圧倒的。


 常人離れした加速で、狼のスピードを凌駕するわ、腕に仕込まれた剣状の刃で、一刀両断にするわ、と強いのなんの。頼もしいね。


 そして夕方より少し前に、俺たちは王都カルムへ到着した。



  ・  ・  ・



 リベルタの家に帰宅。皆、お疲れさまー。


「マルモの部屋用意しないといけないわね」


 アウラが言えば、イラが答える。


「もう地下しか個室空いてないじゃないですかー」

「地下でいいです、いいです! アタシ、ドワーフですから!」


 始めは、部屋に余裕があった。だが気づけばパーティーメンバーが全員ここに住んでいるから、何だかんだで部屋埋まったんだな。


 必ずしも同じ家にいなければいけないってことはないが、一緒に住んでいたほうが、クエストを受けにいったり用事を済ませるのに楽なんだよな。いちいち、どこに何時に集合するとかしなくて済むから。


 完全にパーティーホームである。


 さて、夜になる前に、冒険者ギルドへ行ってクエスト完了報告に行くとするか。


「ベスティア、ついてこい」

『承知しました、我が主』


 流暢とは言い難く、声が怖いベスティアだが、受け答え自体には問題はない。マルモは――部屋の準備とかあるから、今は無理か。


「誰か一緒に来るか?」


 聞いたらディーが志願した。後の者は夕食の準備だったり、マルモのお手伝いだったり、お風呂だったりで手隙ではなかった。


 魔剣と聖剣を持って俺は、ベスティアとディーを連れて冒険者ギルドへ向かった。

 帰る時もそうだったが、ベスティアの姿は、大柄な暗黒騎士なので、王都住民たちの注目を集めた。


 ギルドでもそれは同じで、少々の居心地の悪さを感じつつ、俺はカウンターでクエスト完了の報告を済ませると、ギルマスとの面談を求めた。



  ・  ・  ・



 冒険者ギルドのマスターであるロンキドさんは、眼鏡の奥で何とも言えない顔をしていた。


 ディーが元気なのに安心した様子だったロンキドさんだったが、俺からの説明――アンジャ神殿。闇ドワーフの遺産、マシンドール『ベスティア』、そして聖剣と聞くにつれて表情が曇っていった。


「ちょっとしたお遣いのはずだったのに、お土産話が豪勢過ぎてお腹いっぱいだ」


 さすがのロンキドさんでも皮肉だろうか。


 ベスティアも、聖剣も、実物があるだけにギルマスも俺の話を信じざるを得ないだろう。


「何から突っ込めばいいのか。その、マシンドールは、安全なのか?」

「ドワーフの話では、俺が主となっているらしく、俺の指示に従うようになっています」


 その分、冗談が通じないですが……あっはっは。


「制御下にあるというならいいが、そんな精巧な遺物なら調べてみたいという者も出てくるだろう」

「バラして調べたい、というのであれば、神殿地下から作りかけのものと予備部品を拾ってきたので、それを提供できます」

「そうだな。部品があるなら、わざわざ完成品をバラす必要はないだろう。……まあ、おそらく王国の研究機関が担当することになるだろうがね」

「そちらの方はお任せします」


 俺のところに、買いたいって申し込みがあったならともかく、ここから先の扱いについての面倒はギルドに押しつけ……ゲフン、やってもらおう。


「あとは聖剣だが……これは王城に知らせないといかんなぁ」


 ロンキドさんは唸った。


「お前にも来てもらう」

「ですか……」


 まあ、そんな気はしていたよ。緊張するから、あまり行きたいとは思っていないけど。


「最近の状況が状況だからな。魔王関連の敵が予想される今、聖剣が出てきたのは喜ばしいことだ」


 対抗策が増えたわけだからな。ただ、聖剣の力を引き出すには、剣に選ばれる必要がある。普通の人には、ただの剣だ。俺も持てるスキルのおかげで、最低限の力は発現させることができるが……。


 その辺りのことを含めて、聖剣の扱いは王国に相談だ。

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