第107話、使い手、なっちゃえば?


  翌日、俺、ダイ様、アウラは、ギルマスのロンキドさんと王城へと向かった。


 昨夜のうちに、ロンキドさんが聖剣の件でシンセロ大臣に第一報を出していたそうで、俺たちはあっさり城の中に通された。


「まーた、オマエたちかって、顔をしているわよ、大臣殿」


 アウラは挑発的な笑みを浮かべる。ネズミのようなシンセロ大臣は口元をヒクつかせた。


「いきなりご挨拶だな、アウラ殿。そしてヴィゴ殿。ロンキド殿から聖剣の一報を受けたが……」

「こちらになります」


 俺は机の上に聖剣を置いた。大臣は手元の本を開くと、中と聖剣を見比べ、やがて顔を上げた。


「聖剣『ブレイブストーム』。ロッソ・メルコレディが保有していたのが最後とされている聖剣だな」


 あの聖剣を持った時の感覚は間違っていなかったんだな。


「しかし、かれこれ700年くらい前だ。聖剣は失われ、資料によればメルコレディの一族もロッソで絶えたとある」


 あの聖剣のそばにあった骸骨さんは、そのメルコレディさんだったんだな……。きちんと祈りを捧げたが、改めてご冥福をお祈りする。


「その聖剣は、いま再び見つかった」


 アウラは皮肉げな顔になる。


「でも、その使い手だった一族はすでに存在していないと?」

「この資料によれば、そうなる。しかし、メルコレディの遠縁なり、その血を引く者がまったくいないとも言えない」

「いるとも断言できない、でしょ?」


 つまり、手掛かりはない、ということだ。


「募集を掛けますか?」


 ロンキドさんが発言した。


「我こそは、と思う者の志願を募るとか。ヴィゴの活躍もあって、聖剣や魔剣の使い手への憧れが高くなっています」

「果たして当たりが出るかのぅ」


 ダイ様がニヤニヤしながら言った。


「聖剣の使い手の子孫が、田舎の農民だったらどうする? 聖剣に挑戦することなく、使い手は現れませんでした……そんなオチが見えるぞ」

「じゃあ何かいい手があるの、ダイ様?」


 アウラが質問すれば、魔剣は鼻をならした。


「聖剣の使い手は他にもおろう。……何と言ったか、つい最近王都にきておった小娘」

「ヴィオ・マルテディ?」

「そう、そやつだ。そやつの一族の誰かに渡すのも手だと思うがね」


 小娘?――と首を傾げているシンセロ大臣。そういえば、ヴィオが女だと言ったのはアウラとダイ様で、周りは男だと思っているんだっけ。


 聖剣を誰かに委ねる方向に話が言っているな。俺も持てるけど、あくまでスキルの力で、本来の使い手じゃないから、俺よりもっと適性のある奴を探そうってことなのかな。


 ……まあ、俺には魔剣があるしな。


「ヴィゴ殿」

「はい」


 シンセロ大臣が俺をじっと見つめている。


「ヴィゴ殿は、聖剣を持てるそうだが」

「ええ。本来の力は引き出せないようですが」


 一応。闇の力を斬ることはできる。最低限はな――


「では、聖剣の力を引き出せるようになればよいのでは、と愚考するのだが、どうだろうか?」

「なるほど」


 ロンキドさんが頷いた。


「確かに、聖剣の使い手者も、最初から力を完全に使えた者もいれば、その適合を高めて使えるようになった者もいたと聞いています。ラーメ侯の息子ジューリオ殿も後者だったかと――」


 えー、と、つまり?


「お主が聖剣の使い手になればよい、ということだ、ヴィゴよ」


 ダイ様が、つまらなさそうに言った。もしかして、拗ねてる? ダイ様。魔剣使いなのに、聖剣も使うなんて。


「面白いわ」


 アウラが声を弾ませた。


「魔剣と聖剣双方の使い手。聞いたことないけど、だからこそ面白いわ! ね、ヴィゴ。聖剣も使えるようになりましょ!」

「面白い、って……」


 シンセロ大臣もロンキドさんも少々引いていた。アウラって転生した人だから、普通から外れていることを楽しんでいるところがあるもんな。


「どう思う、ダイ様は?」

「主の好きにすればよい」


 ダイ様は少し気分を直したようだった。


「アウラの言うとおり、魔剣と聖剣を使いこなすというのも悪くはない。ま、できるのなら、だがな」

「では――」

「うむ」


 ロンキドさんとシンセロ大臣が顔を見合わせた。


「マルテディの家の者に遣いを出して、ヴィゴ殿に聖剣の使い手としてのレクチャーをしてもらえるか確認しよう」

「あるいは、そのマルテディの家に聖剣の使い手の素養がある者がおるかもしれん」


 ダイ様はニヤリとした。


「そやつに聖剣を押しつけてもよかろう」


 さっきもそんなことを言っていたな。好きにすれば、と言った割には、未練タラタラじゃないか、ダイ様!


 その時、大臣の部屋の扉がノックされた。


「会談中、失礼致します!」


 大臣の返事を聞く前に扉が開き、騎士――ロンキドさんの娘であるカメリアさんが入室した。


 シンセロ大臣の表情が僅かに曇ったが、頷くとカメリアさんが姿勢を正した。


「閣下、緊急報告であります。王都北方に大規模な魔物の集団を確認、王都方面に南下中との報告が入りました!」

「何だと!?」


 ガタンと大臣が席から立ち上がった。

 魔物の大規模集団の移動って、それって――


「まさか……!」


 息を呑むロンキドさん。カメリアさんは真面目な表情を崩さず告げた。


「伝令の報告では、ダンジョンスタンピードの可能性が極めて大とのことです! その数、千を超えているとのこと」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る