第97話、古の勇者と聖剣


 石段を下ると、礼拝堂じみたフロアに着いた。


 奥には祭壇があり、その手前には、番人たちが待ち構えていた。


「アイアンゴーレム4、スケルトンウォリアー8、ゴースト7」


 祭壇から振り返り、スケルトンたちは一斉に武器を構える。やる気満々!


「蹴散らすぞ!」


 俺たちは石段を降りきると前進。すると、横に並んだスケルトンウォリアー4体がクロスボウを構えて、一斉に放ってきた。


「シールド!」


 俺は超装甲盾を、ルカが魔法盾を展開した。シィラは一歩下がり、敵の第一射をやり過ごす。残る4体のスケルトンウォリアーは盾と武器を手に突っ込んできた。さらにゴーストも動く。


「擲弾筒、撃ちます!」


 イラが爆裂弾を投射し、クロスボウの矢を装填するスケルトンをまとめて吹き飛ばした。


「前衛のスケルトンウォリアーは俺たちに任せろ!」


 魔剣で、敵を盾ごとぶっ叩く。


「不浄なる闇に、神聖なる光を! ホーリーボール!」


 ニニヤが光の魔法を放てば、直撃を承けたゴーストが蒸発するように消えた。しかし残るゴーストは、闇の波動を集めるとファイアボールやサンダーボルトの魔法を撃ってきた。


「マジックシールド!」


 アウラが魔法防御の魔法で、敵魔法を無効化する。ディー、そしてイラも浄化の杖を掲げ、ゴーストめがけて浄化の光を撃つ。


 その間に、俺はアイアンゴーレムを切り裂き、ルカとシィラがスケルトンウォリアーを片付けた。


 さほど時間はかからず、祭壇フロアは制圧した。ここでの敵との戦い方もわかってきたもので、怪我もなく切り抜けることができた。


「これで終わりか?」


 周囲を見回し、室内を眺める。アウラとマルモが祭壇を調べる。


「本があります!」

「読める?」

「えーと、古いドワーフの文字ですね……ふむふむ」


 マルモが古びてボロボロの本を慎重にめくっていく。


「どうやら日誌のようです」


 このアンジャ神殿での記録らしい。魔王を崇拝する者たちの生活の一端や、魔王を復活させるための魔法陣の研究。そして人体実験――


「アンデッドに変える術……いわゆる死霊術ね。禁忌の魔法だわ」


 アウラは吐き捨てた。生きた人間を死体に変え、操る技や、化け物を作り出す術など狂気そのものだ。


「――我々は魔王様の欠片を手に入れた」


 マルモは書かれた文章を指でそっとなぞる。


「そこから溢れた闇の力を飲むことで、不死の力を得られる。しかし副作用がある。人としての意思を無くしてしまうのだ――」


 要するに、魔王の欠片から出た闇の力なるものを飲むと、どれだけ傷つけられようと再生、復活する体になるが、言葉を失い、まるで歩く屍のようになってしまうのだという。


「黒きモノになるってことか」


 王城で、白狼の魂から溢れ出たどす黒いモノ。あれを飲んだとすると……正気じゃねえわ。


 アウラは首を捻った。


「でも王城でのアレは、傷つけることすらできなかったわ。ここに記されているヤツは傷がつくけど再生するとあるから、違うのかもしれない」


 マルモはさらにページをめくる。


「ここ! 聖剣の勇者ってありますよ!」

「え?」


 本を見るが……すまない、ドワーフ語はさっぱりなんだ。


「『――もうおしまいだ。我らを討伐せんと、人間の勇者と王国の騎士団が来る。もはや、偉大なる魔王様の力を取り込むしかない。戦士たちは闇の力を取り込み、闇の戦士となった。しかし、聖剣を持った勇者の前に、戦士たちは倒されていった』」


 不死じゃないじゃん。しかし、聖剣が効くということは、ますます闇の戦士の正体が黒きモノか、それに近いものだという証明になるだろう。


「――えっと、『戦士たちは猛々しく戦い、勇者に手傷を負わせた。そして私は、戦士たちが時間を稼いでいる間に、地下通路を封印し、勇者が帰ってこられないようにした』」


 勇者が帰ってこられないように封印した?


 俺は思わずアウラを見たが、彼女もまた驚いていた。マルモは何枚かめくり、白紙のページがきたので、その前に戻る。


「……これが最後のページみたいですね。――『地下から聞こえた呪いの声も聞こえなくなった。勇者も、おそらく息絶えたであろう。魔王様を脅かすだろう聖剣を回収しなくてはなるまい。私はこれから、下に降りる』……これが最後ですね」

「これを書いた奴は、それから戻ってこなかった」


 記録がつけられなかったということは、つまりそういうことではないか。


「この地下に、まだ勇者が生きていて、殺害したとか?」

「そもそも――」


 シィラが覗き込んできた。


「封印して出てこれない場所なのだろう? どうやって降りると言うんだ? この記

録はおかしくないか?」


 勇者が帰ってこられないようにした、と書いてあった。にもかかわらず、この記録をつけた者は聖剣を回収しようとした。その封印した場所にあると思われる場所に。


「通路を塞いだって意味じゃないかしら?」


 アウラは考え込む。


「だから通常の手段じゃ戻れないように、通路を塞いだから、勇者は閉じ込められて戻れなくしたんじゃないかしら」

「なるほど」

「気になるのは、前のページにあった『地下から聞こえた呪いの声も聞こえなくなった』という書き方。閉じ込めたという割には声は聞こえるのよ。そして降りるという言葉」


 アウラはこの祭壇フロアの出入り口へと視線をやった。


「ここに来るひとつ前に、『生け贄の穴』ってあったじゃない? 実はその底にまた地下フロアがあって、そこで勇者と闇の戦士が戦った。そこへ行く道を封印したから、勇者は戻ることもできず、頭上の穴に向けて呼びかけたのが木霊して呪いの声って伝わったんじゃないかしら?」


 ほぅ、少々強引な気がするが、それらしくは聞こえた。


「すると、その生け贄の穴の底に、古の勇者と聖剣が眠っているかもしれないってことか?」

「ワタシの推測の通りだとすれば、ね」


 アウラの横にルカが立つ。


「じゃあ、ここで聖剣を回収できれば、黒きモノへの対抗手段が手に入るってことですね」

「しかし、生け贄の穴は底が見えないほど深いだろう」


 シィラが口をへの字に曲げた。


「空でも飛べなければ、行く方法がないぞ?」

「ないわけじゃないわよ」


 アウラはニヤリとした。


「底があるなら、理論上は可能なはず」

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