第98話、聖剣を探せ


 この神殿には、さらに地下がある。そしてそこには聖剣があるかもしれない。


 そうとなれば調べなければ。


 魔王の復活を企んでいると思われる謎の組織が動いている。魔王やその眷属に対抗できる手段は確保しておきたい。


 ということでアンジャ神殿の、生け贄の穴と呼ばれる底の見えない穴のあるフロアへ戻った。


 アウラは木魔法を使い、蔦を生成すると、それを穴の底へと伸ばしていった。


「なるほど、ロープ代わりに使おうってことか」

「問題は、どれくらいの深さがあるか、だけどね」


 アウラは自嘲する。


「願わくは、底がマグマ溜まりとかじゃないといいんだけどね」

「それはないと思いますよ」


 ディーが下を覗き込みながら、鼻の頭をこすった。


「炎の気配はないです。でも、闇の臭いはします。黒きモノのような……」


 おいおい、それって――


「闇の力を飲んだとかいう闇の戦士が生きているってことか?」

「わからないですけど……もしかしたら、そういうのもあるかも」


 聖剣の勇者が、闇の戦士を一掃してくれているといいんだけどな。


 俺たちは、蔦が底につくのを待った。どれくらい待ったか、その時はきた。


「底に、蔦が到着したわ。……これ、かなり深いわよ」

「そうなんですか……」


 マルモが身震いした。


「アタシ、高いところは苦手です」

「ニニヤ……」

「駄目です! 高すぎて見れません!」


 ニニヤが足を震わせて、目を閉じて穴を見ないようにしている。ルカは首を傾げた。


「装備を持って降りていくのは、しんどいのでは?」

「たしかに、この高さは降りるのも大変かも」


 アウラは振り返った。


「ゴムー、アナタ、壁にへばりつきながら降りられる?」

『できるよー』


 ぽよん、ぽよん跳ねながらゴムがやってきた。黒スライムの声が聞こえないアウラが俺を見たので「できるって」と返事しておいた。


「じゃあ、ヴィゴ。悪いけど仮設家の天井板あるでしょ。あれを持って、ゴムにくっついて降りてもらえる? ワタシたちは、アナタの持つ天井板の上に乗っていくから」



  ・  ・  ・



 それは奇妙な光景だった。


 蔦に沿って大きな黒スライムがへばりつき、俺はその背中にくっつきながら、片手で、メンバー全員が寝泊まりできるサイズの板を支える。持てるスキルがなければ、とても持てず、またバランスもとれなかった姿勢のまま、天井板に全員を乗せながら、俺たちは生け贄の穴の底まで移動した。


 俺は姿勢を保つのがめちゃ大変だったが、天井板に乗っていた7人は、もっと怖かったようだ。


 途中、ディーが蔦を使って自力で降りるのを選んだくらいだ。ニニヤは泣き出しルカにしがみついているし、マルモとシィラも『二度と乗りたくない』と口にするほど、生きた心地がしなかったらしい。


「帰る時は、別の方法を考えないとね」


 アウラが黄昏れながら言った。


 さて、生け贄の穴の底である。生け贄として落とされた犠牲者のものと思われる骨がいくつか散らばっている。


 スケルトンやゴーストが出てきそうだが、特に動きはない。ダイ様の声がした。


『うーむ、闇のニオイがするな。これはまた、黒きモノが生きているやもしれぬ』


 闇の戦士というヤツか。聖剣の勇者はやっつけてくれなかったのかな?


 見たところ、この底の部屋は、別の部屋へ通じるらしい通路がふたつあった。


「どっちがいいかな?」

『聖剣を探すのなら、そっちにせい。闇のニオイが弱い』


 黒きモノにとっては聖剣は天敵だもんな。まだここに聖剣が存在するなら、闇の戦士が生きていても近づこうとはしないはずだ。


 さっそく通路に入る。道なりに進むと左へ曲がり、そこに部屋があった。


「……」


 地面に、ふたつの骸骨があった。ひとつはローブをまとった司祭のような格好。その胸には白銀の剣身をきらめかせるロングソードが刺さっている。


 もしや、これが聖剣?


 そしてもうひとつの遺体はかつては黄金だっただろう鎧をまとっていた。黒ずんでいるのは血の跡だろうか。おそらく、この人骨が、かつての勇者だったのだろう。


「そしてこの剣を刺されているやつが……」

「あの記録を残した人間かもね」


 ドワーフじゃないな、この骨からすると。さすが聖剣が刺さっているだけあって、ゴーストにもなれなかったかな?


「誰が持つんだ?」


 シィラが見回した。ルカもディーも俺を見た。


「俺は魔剣を持ってるぞ。……シィラ」


 お前やってみ? 俺が促すと、シィラは魔法槍を背中に背負うと、刺さっている聖剣に触れて。


「ふんっ!」


 かなり力を入れたようだが、魔術師の骸骨から聖剣は離れた。おおっ。


「くっ……お、重い」


 両手で柄を持っているが、それ以上持ち上がらないようだった。シィラは体格もいいが、力もある。その彼女が剣を振るうことができないとは。


「魔剣ほどじゃないが、聖剣も持ち主を選ぶのかな」


 俺はシィラから聖剣を受け取る。うん、やっぱ持てるスキルのおかげで、重さは普通のロングソードくらいに感じる。


 重さから解放されたシィラがホッと息をつく。


「さすがだ、ヴィゴ。聖剣も扱えるんだな」

「さすがです、ヴィゴさん!」


 ルカが手を叩き、マルモも拍手している。いやいや、スキルのおかげだって。


「お……?」


 剣の刃が淡く青く光った。ダイ様の声がした。


『聖剣の力だろうな。持てるスキルが、最低限の力を発揮できる状態にしてくれたようだ』

「最低限?」

『魔王や黒きモノを傷つける力だ。……だが正当な聖剣の使い手ではないから、おそらく正規の必殺技などは使えまい。我と同じでな』


 なるほど、一応、魔王やその眷属への対抗策として使うことはできるわけだ。なら、ここにきた甲斐はあったということだな。


「一応、この地下も探索するか」


 おそらく、ここに来ることは二度とないだろうし。

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