第95話、ドワーフ・スケルトン


 アンジャ遺跡地下1階。階段を下った先は巨大な倉庫のような空間が広がっていた。


 マルモが魔石を使ったカンテラで周囲を照らせば、階段の下は石材が敷き詰められていたが、向かって右側に広がっている空間は、土砂がむき出しだった。


「周りに通路らしきものはないな」


 俺も照明の魔法を手の上で出して照らして確認。ルカが視線を転じた。


「すると、右奥でしょうか?」

「かもな」


 ここで行き止まりってこともあるけど。あるいはどこかに隠し通路があるとか。


 段差を降りて、土の上に着地。


「階段あるわよ」


 アウラが、俺やシィラが飛び降りたところに降りる階段を見つけた。近道しただけだい。


 地下室と思ったのにむき出しの地面とか。神殿を拡張しようとしたのかね。


 シィラが目を細めた。


「まるで墓地のようだ」


 なるほど。そういう見方もあるのか。


「ヴィゴさん。何か嫌な感じがします……!」


 ディーが耳を立てている。何かの気配を感じ取ったのだろう。ニニヤが、カンテラを持つマルモに寄る。


「ア、アンデッドですか?」

「怖いの? アナタ浄化魔法は使えるでしょ?」


 アウラが言うが、ニニヤは首をブンブンと振った。


「それでも怖いものは怖いですよ!」

「さっきゴーストを浄化したじゃない」

「見えるならいいです! でも見えないのは怖いですってェ!」


 そんなニニヤに、シィラが笑った。


「昔のルカも幽霊にビビっていたな。ルカ、お前は大丈夫か?」

「び、びびってなんか、ないですよ!」


 ……まさかと思うけど、ルカ、お前もか。


「ち、違いますからね! 今は平気ですから! ちょっと思い出しちゃっただけです!」


 ムキになっちゃって。かわゆい。


「ヒッ!?」


 マルモがビクリと立ち止まった。カンテラが照らし出す先で、何かが動いた。


 モゾモゾと地面のくぼみから、ぬるっと起き上がったのは、骸骨――スケルトン! それが次々に動き出した。


「なるほど、これは墓地だったかもな!」


 俺は魔剣と超装甲盾を、シィラも魔法槍を構えた。


「相手が骨ならぶん殴って砕ければいい! そうだな、ヴィゴよ」


 剣や斧を持ったスケルトン戦士が向かってきた。


「砕け、タルナード!」


 シィラが魔法槍タルナードを突く。風属性の魔法槍は空気の渦を作り、ひと突きで数体のスケルトンウォリアーを吹き飛ばした。


 俺も向かってきたスケルトンウォリアーを魔剣で叩き潰した。


「……小さい?」


 この骸骨、ドワーフだ! 俺たちからしたら子供スケルトンが襲ってくるように見えて、ちょっと迫力不足というか……うん。


 スケルトンウォリアーを吹き飛ばし、バラバラにしながら進むと突き当たりに到着。ニニヤが何体か浄化し、ゴムが取り込んだスケルトンを消化した。


「ゴムちゃん、すごーい!」


 マルモがポンポンと黒スライムを撫でた。俺はダイ様に確認する。


「ゴムがアンデッド取り込んだけど、大丈夫なのか?」

「問題なさそうよ。ねぇ、ゴム?」

『ないよー』


 相変わらず緊張感を感じさせない声だ。まあ呪われたり、乗っ取られたりしなきゃいいけどさ。ゴムがおかしくなったら、俺たちじゃ抑えられないんだぜ、コイツは。


「ところで、話変わってマルモ。おたくは武器持っているけど、戦闘はできる?」

「ええーと、使い方は知っていてもできれば戦いは、遠慮したいかなー」

「わかった。盾持って、後衛組のガードを頼む」


 ラウンドシールドは持っているから、ニニヤやイラの前で盾を構えるくらいはできるだろう。

 そこでイラが手を振った。


「ヴィゴ様ー。ここに鍵付きの箱がありまーす!」


 お宝か? 俺たちはさっそくその箱へ。木と金属を組み合わせて作られた箱は、宝箱めいて中身を期待させる。


 ルカが顎に手を当てる。


「サイズからして、剣とか武器でしょうか?」

「開けてみればわかるさ」

「ダメよ、シィラ。箱を壊す気?」

「鍵を破壊だけだぞ」

「中身まで壊れそう」

「それじゃあ、あんまり得意じゃないですがアタシが鍵開けに――」


 マルモが進み出るが、アウラがまあ待って、と止めた。


「ここはゴムにやらせましょ。ゴムちゃん、この鍵穴に体突っ込んで、弄ってくれない?」

『わかったー』


 黒スライムが箱の前に移動すると、体の一部を伸ばして鍵穴に差し込んだ。……大丈夫かな? このスライムに鍵開けなんてできるの?


「がんばってー、ゴムちゃん」


 ルカがめっちゃ期待の目を向けていた。やがて――


『開いたー』


 俺とダイ様、そしてディー以外には聞こえないだろう声と共に、ゴムが動いた。箱の中身は……杖! 同じ形のものが三本入っている。


 アウラがさっそく鑑定作業を開始する。


「浄化の杖ね。アンデッドを浄化させる神聖文字が刻まれているわ」

「墓地でアンデッド用の武器か。ここの神殿の連中もアンデッドにはお困りだったらしい」


 冗談めかしたら、小さな笑いが起きた。


 浄化の魔法を発動させるには、持っている人間の魔力が必要なのだそうだ。となれば、魔術師系装備だろう。


「ディーとイラが1本ずつ持て。ニニヤは……浄化魔法が使えるからいいか。アウラ、1本持ってくか」

「もらうわ。ワタシも浄化魔法は使えないからね」

「それじゃ、奥へ行くか」


 俺は視線を転じる。下へ行く階段がそこにあった。


 この空間は作りかけ墓地みたいで、神殿っぽくなかったけど、まだ何か奥があるのならね……。


 この階段は最初の階段同様、しっかり石を切り出して作られたものだった。……と、入ったら、明かりがついた。魔法かな、燭台に炎が灯り、通路を照らした。


 まっすぐ伸びた突き当たりに入り口らしき穴。そして右手側が崖になっていて、下は砂と岩かな。2、30メートルくらいありそうで、よく見えない。


「まあ、とりあえず真っ直ぐだろうな」


 幅の広い通路に沿って、正面を行こう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る