第94話、アンジャ遺跡


 予備の剣を買おうと思ったら、無料で手に入ってしまった。魔剣があるから、あくまで予備武装になるけど。


 そりゃあね、ファイアブレイズだっけ、火属性の剣。ああいうのも憧れではあるけれど、あんまりそういうのにすると、ダイ様が拗ねたりしないかなって思ったわけで。


 言い直そう。たぶん予備武装とかあまり使わないから、ファイアブレイズのような格好いい剣を持っていてももったいないな、と思っただけ。


 マルモ曰く、頑丈さは一番というから、こっちのほうがいい。あまり飾らないのも、俺っぽくていいと思う。


 さて、武具屋を出た後、ぐるっとペルセランデ内を見て回るが、実のところ温泉はあるが観光名所というほどでもないので、すぐに見るところがなくなってしまった。


「あとは、ペルセランデの外ですね。鉱山とか遺跡とか」


 マルモは考える。


「ちなみに、これはアタシが個人的に行きたいだけなんですけど、暗邪あんじゃ遺跡とかありますね」

「アンジャ遺跡?」

「古い時代の遺跡なんですけど、魔王を信奉した呪われたドワーフたちの神殿跡です。皆、行くなって言うんですけどねぇ」

「それって入るのが禁止されているとか?」


 アウラが質問すれば、マルモは首を横に振る。


「いいえ、禁止はされていないです。時々ゴーストが湧くから、安全とは言えないですけど、遺跡自体は、そんなに大きくないですし」

「へぇ……ちょっと興味あるわね」

「何か気になることでも?」

「アナタも最近の邪甲獣の噂は聞いたことがあるでしょう?」


 アウラは腕を組んだ。


「魔王と何かしら関係がありそうな場所って、そういう奴らが来そうじゃない?」

「要するに、荒らされたり異変がないか見ておきたいってことか」


 俺は、アウラの考えを察した。別に俺たちは魔王どうこうを調べないといけないってわけじゃないけど、何か起きた時、対応に狩り出される率が高いからな。気になることは確認しておくのは悪くない。上級冒険者ってのはそういうものだ。


「じゃ、せっかくだし、行ってみるか。アンジャ遺跡」


 顔を見回せば、反対は出なかった。マルモが挙手した。


「じゃあ、アタシ、一度装備を取りに戻ります! すぐ戻ってきますので、入り口で待っててください!」


 言いながら、もう走り出しているマルモ。イラがニコニコした顔で言った。


「元気な人ですねー」

「そうだな」


 んー、彼女、村長の家に入っていったぞ。お嬢って、もしかして村長の娘とか一族だからそう呼ばれているのかな?


 俺たちはペルセランデの入り口に移動して、マルモを待つことにした。


 しばらくして、大きなバックパックを背負った彼女が走ってきた。


「お待たせしました、皆さん! さっそくご案内します!」


 何か今すぐ旅に出られそうなほどの荷物のような。少女の姿をしていても、さすがドワーフ、大荷物も安定して担いでいる。


 盾に斧にクロスボウに、モーニングスターにスコップ……? ええぇ……。ただの遺跡案内だよね……?



  ・  ・  ・



 複雑に入り組んだ通路。分岐には看板や地図が貼り出されていたが、これ細工されたらたぶん、迷子になるよな。


 マルモは、さほど迷うことなくアンジャ遺跡に俺たちを導いた。結構歩いたな。


「見るからに、こじんまりした神殿だな」


 シィラがそう感想を漏らした。


 石造りの建物だ。神殿というにはあまり大きくなく、地方の教会くらいの広さか。


「魔王を信奉していたドワーフたちの神殿か」


 魔族をかたどったのか、レリーフが所々に見える。ルカが口元を引き締めた。


「怖い雰囲気ですね」

「邪のだのぅ」


 ダイ様が顔を出す。


「闇の空気が漂っている」


 中に入る。空っぽな室内。奥に祭壇が見えて、さらに右奥の壁沿いに――


「何かいるぞ……!」


 突き当たりに黒いものがふわふわと浮いている。


「ゴーストよ!」


 アウラが声を張り上げた。怨念の塊とも言うべき幽霊が、3体、いや4体ほど浮遊していて、こちらを見た。怪しく光っているのは目か?


 ルカとシィラが前衛に立つが踏み込まない。


「ゴーストは実体がないわ。ニニヤ、魔法攻撃! あるいは浄化魔法でもいいわ」

「わ、わかりました!」


 アウラとニニヤの魔法得意組が、さっそくゴーストを攻撃し一掃する。黒い幽霊は立ちどころに消滅。マルモが声を弾ませた。


「さすがです! あいつら武器じゃ払えないですからね」


 幽霊が消えて、突き当たりにある祭壇のもとへと進むマルモ。俺たちも続く。


「このあたりに、いつもゴーストがいたんですよ」


 祭壇の奥、ただの壁の近くでマルモが言った。


「ここに何かあるのかなーって思っていたんだけど……何もないみたい」

「いや、小娘。ここにあるぞ」


 ダイ様が、トコトコとそこに立つ。ディーが寒いのか身震いしている。


「変な気配を感じます。暗くて、冷たい……」

「そう、闇の気配というやつだな。ヴィゴ、ちょっとその床、持ち上げてみ?」


 取っ手があるわけではないので、どこを持てというかわからんが、とりあえずそこの床と言われた部分に、手のひらを当てる。


 持つ、とイメージしながら腕を引けば、石の床が切れ目に沿って持ち上がる。……あー、えーと、左に開く感じね。ちょっと持ち方を変えて引けば、地下へ通じる階段とご対面!


「こんなところに階段!?」


 マルモは目を丸くした。その様子だと、彼女も知らなかったみたいだな。


「じゃあ、あの昔話は本当に……」

「昔話って?」

「アタシたちドワーフに伝わるお話で、神殿の地下に秘密の迷宮があって、そこには悪に落ちたドワーフが邪悪な実験をしたり、財宝を貯めこんでいた、と」


 その秘密の迷宮ってのが、この先にあるってことか……?


「行きましょう」


 アウラが言った。


「魔王に関係する何かがあるかもしれないし」


 まあ、冒険者であるからには、ここで引き返すってのはなしだよな。


 魔王信奉者たちがここで何をやっていたかも気になるけど、地元民が知らない隠し階段を発見とか、未発見のお宝が眠っているかもしれない。


 もちろん、危険も考えられるが、そもそもここが神殿で、入り口を隠したなら、そんな罠とかは仕掛けられていないだろう。……用心はするけどさ。

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