第8話、VS 邪甲獣
王都カルムを襲う邪甲獣。このバカでかい四足の化け物を、魔剣でぶん殴ろうと決めた俺だが、スウィーの森から王都は遠い。目視範囲とはいえ、遠い。
走って移動したら、つく頃にはバテてしまうだろう。それに王都もかなり破壊されてしまっているに違いない。
やべぇ、こりゃ王都まで保たないわ……。
「ヴィゴさん!」
後ろからルカの声がした。思ったより近い。彼女もついてきたのか。というより、この音は馬?
振り返れば、ルカが馬に乗って追いついてきた。
「乗ってください!」
「お、おおっ――!?」
グイッと掴まれ、そのまま馬に乗せられた。ルカさん、長身だけにあらず力も相当だ。大人ひとりを軽々持ち上げちまった。
しかもルカの前に座らされるって、まるで親の前に乗る子供みたいなポジションじゃん。彼女はデカいから余計に。……馬は大丈夫なのか?
「王都へ行くってことでいいんですよね!?」
「あ、ああ」
「ヴィゴさん、あの化け物と本気で戦うつもりなんですか?」
「一応そのつもりだ。……王都は生まれ故郷だからな!」
いい思い出も悪い思い出も詰まった場所だからな。無茶だろうけど。
「ぶっちゃけ、超巨大な邪甲獣に立ち向かえるかどうかなんて、わかんないけど。見てられなくてな……」
「優しいんですね」
「お人好しってよく言われる」
「ふふ、私もです」
ルカは笑った。
……そうだよな。普通なら勝ち目のない邪甲獣に襲われている場所に行こうなんて正気の沙汰じゃない。避難するほうが自然なのに、敢えて戻ろうとしている。
「何か、付き合わせたみたいで悪い。何なら、あんたはここで降りても……」
「付き合いますよ。ヴィゴさんには助けられましたから。恩返しさせてください」
「そ、そうか……」
気持ちは凄く嬉しい。こんな美女に恩返しさせてと言われるのは男冥利に尽きるというものだ。
しかし、実は結構、姿勢的にキツイ。息遣いが聞こえそうなほどすぐ後ろにルカがいるが、俺が姿勢を伸ばそうものなら、彼女の豊かな胸に背中が当たってしまいそうで前傾がちなのだ。馬にも相当悪いと思う。
「それにしても、本当に人間ではないのですね」
「ん? ああ、ダイ様」
彼女は、相変わらず浮遊したまま馬と併走していた。
しばらく走り、何となく馬の走る速度が遅くなっているように感じた頃、巨大な王都の外壁の間近にまで到着した。
邪甲獣が外壁に取り付いて暴れているが、どうやら王都の守備隊や冒険者たちが何とか戦って足止めしているようだった。
もとよりのっそりしている邪甲獣も、王都内に時々ブレス攻撃を放つものの、まだ侵入には至っていない。
だがそれが幸いしたな。のしのし歩いていたら、その都度発生する振動で、近づきにくかっただろうから。
「ルカ、マジでいいんだな!?」
「お供します!」
「なら、そのままヤツの後ろ足に!」
すれ違いざまに、魔剣を叩き込んでやる。
『この期に及んで、本当に使えんやつだなぁ』
剣のほうからダイ様の声がした。外に出していた少女体を戻したのだろう。
『緊急事態ともなれば、少しは火事場の馬鹿力で魔力も出ると思ったが、そんなこともなかったか。……まあよいわ。多少危険だが、ぶっ叩け』
「大丈夫なんだな?」
『その程度で我は壊れんわ!』
「上等!」
ガラガラと上から外壁の欠片が落ちてくる。欠片と言っても、巨大な瓦礫だが。直撃したら、こちらも無事では済まない。怖いと思ったのは一瞬、今は目の前の化け物に集中する。
樹齢千年レベルの大木じみた邪甲獣の後ろ足が、グングン迫る。
「ヴィゴさん!」
「おおおぉっ!」
俺は魔剣ダーク・インフェルノを構える。ルカが手綱を握ってくれているから、馬の制御は気にせず攻撃に専念できる。
このまま、ぶつかれぇっ!
全力で振りかぶれる姿勢ではなかった。だが可能な限りの力で、邪甲獣の後ろ足を叩いた。
いや、これリーチの都合上、ほんと剣先がちょっと当たったみたいなものだった。
だが効果は絶大だった。何せ、自重を支えていたはずの後ろ足が、ハンマーでぶっ叩かれたように跳ねたのだから。
あの巨体で、普通なら動くはずがない足が吹っ飛んだのだ。魔剣、マジで凄ぇ!
すれ違いざまだったのが幸いした。邪甲獣はバランスを崩し、倒れかけた。立ち止まって殴っていたら、巻き込まれていたかもしれない。
邪甲獣は前足で外壁に掴まろうとしたが、石の壁を削り、吹き飛ばしながら叩かれた方へ傾く。
「じゃあ、もう一本!」
俺の声に、ルカは馬を邪甲獣の残る左足へと導いた。こちらも倒れかかっているところに、魔剣を叩き込む。
耳をつんざく悲鳴じみた咆哮。邪甲獣が、倒れる勢いを留める術を失い、右方向へ派手に倒れた。
その衝撃で大地が揺れ、馬が立ち止まりバランスを崩した。俺とルカは、地面に近づいたのを幸いと転がるように地面に飛び降りる。砂埃が上がり、しばしその視界を覆うが、邪甲獣の巨体が動き、いやもがいているのが影でわかった。
視界はすぐに晴れた。俺は魔剣を手に、倒れている邪甲獣に走った。
「食らえよ!」
その露わになった腹の部分――金属部分を避けて、真っ黒な毛に覆われた腹部に魔剣を叩き込む。
ガンっ、とその腹部がへこんだ。ぶっちゃけ、邪甲獣に比べたら、俺なんてネズミみたいなものなんだけど、とりあえず、叩く! 叩く! 叩く!
そのたびにへこみ、亀裂が入り、そしてドス黒い血をまき散らした。剣で斬っているというより叩いている感じだ。ゾッとする臭気に鼻が曲がりそうだ。だが構わず俺は魔剣を叩きつけ続けた。
ヤツが動かなくなるまで。その咆哮が途絶えるまで。
「ヴィゴさん!」
ルカの声に俺は手を止める。邪甲獣は完全に動かなくなっていた。
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