第3話 高校入学式 その三



「ちくしょぅ、めっちゃ耳が痛え……

マジで千切れると思ったぞ、あの先輩…」



「……ふっ」



「おい金髪デビューっ?!

テメェ、今笑いやがったな!」



「……チッ」



「シカトかゴラァっ!?」



「……またか」



千賀先輩と俺は元の場所に戻ると、

既に見慣れてしまった問題児二人の

揉める光景。


到着早々、溜息を吐く俺を横目に

千賀先輩は二人を止めに素早く

向かって行った。


轟の大声に反応し、

周りの奴らの好奇な視線を集める。


あーやだ恥ずかしい。

俺は赤の他人を装うため、

再び離れようとしたその時、

轟の声量を遥かに超える声が響き渡った。



「注目ーっ!!」



バッと全員が声の元へ顔を向ける。

するとそこには、椅子に座っている三人の男とメガホンをもった眼鏡の男。


あれ?よく見たら椅子に座ってる一人は

…谷地先輩じゃん。


俺の視線に気付いた谷地先輩は

ニコッと笑い、こちらに手を振ってくる。


俺は軽く頭を下げると眼鏡君が

またもやメガホンを使って声を張り上げる。



「新入生の諸君っ、入学おめでとう!!

今日この場にみんなと出会えた事へ

感謝を僕は送りたい!!」



おぉ……見た目によらず熱い人だな。

顔を赤くして眼鏡曇ってるよ。

いや興奮し過ぎだろ……


何故かちょっと涙出てるし……



「……チッ、うぜぇ」



はい同感です伊崎。

だがお前、いつの間に俺の隣来たんだよ?

いきなり舌打ちするから少しビビったぞ。



「グスっ……取り乱して申し訳ない。

それでは今から各校の代表を君達に

紹介する!よく聞いてくれ!」


各校の代表ねぇ……ん?代表だと?



「まずは西北総合高校三年……

料理の文句は俺に言えっ!谷地薫ーっ!」



「や、どーもどーも」



谷地先輩はヘラヘラと笑いながら

右手を上げ、軽く頭を下げる。

それを見た西北の先輩方は、オーっ!と声を

張り上げて場を盛り上げた。


彼らの和気藹々な様子を見るに、

谷地先輩の人望はかなりあるように思えた。



「さぁ、盛り上がってきましたーっ!

続きましては甲南学院二年……

甘いイケメンとは彼の事、篠崎 秀しのざき しゅうーっ!」



「あはは、よろしくねー」



笑顔で手を振る彼に反応して、

次は甲南の者達が声を張り上げる。

他校の騒ぐ声に元気だなーっと感心する中、

僅かに混ざる女性の声。


ん?っと思いよく見ると、

僅かに混ざって甲南の制服を着た女性集団。



「お?何であんなに

甲南とこの女がいんだよ?」



「あれは篠崎さんのファンクラブだよ。

彼はモデルもやっててすごく人気なんだよ」



「けっ…気取りやがってあの野郎。

顔だけが良い奴かよ、気に入らねぇ」



千賀先輩の説明を聞いた轟は不満を口に出す。

轟は顔だけなんて言うが、俺は違うと思う。

イケメンだけで各校の代表なんて

当然なれないだろうし、何よりあの拳……


顔に似合わずゴツい拳をしている。


あれはボクシングなど

格闘技をしている人の拳だ。



「そして最後に蒼海高校二年、

狂人と付くほどの通り名を持つ男、

郷間 蓮治ごうま れんじーっ!!」



「……」



無表情で反応を示さない郷間先輩に反して、

盛大に声を張り上げる蒼海高校の者達。

郷間先輩ははっきり言ってデカい。

平均より高い轟や堤の二人と比べても

郷間先輩の方がデカく、

まるで野生の熊を見ている様だ。



「っ……あの野郎……」



この時、小さく呟いた伊崎の声は

俺の耳に届くことはなかった……





「さぁ、紹介も終わりましたので

後は御三方、よろしく願いします!」



眼鏡先輩は谷地先輩にメガホンを渡すと、

素早く後方へ下がる。


そしてポリポリと頭をかきながら

谷地先輩は椅子から立ち上がり

一歩前に出る。



「んじゃあ改めてよろしく、谷地薫だ。

ぶっちゃけいきなり連れてこられた一年は

こんな紹介だからなんだ?ってなってると

思うが、まぁ聞いてくれ」



ふーっと息を整えた谷地先輩は

真剣な表情で言葉を綴る。



「この三校は昔から仲が悪い。

揉め事を起こしては怪我人も出たし、

捕まった奴も多く出た…。

そこで何とかするために今現在、

揉め事御法度の停戦協定を結んでいる」



「…だが二、三年は理解しているが

今日入学したばかりの一年は、

いきなりそんな事を言われても納得いかず、

すぐに他校と揉めたりするだろう」



「そこで今年はゲームを考えている。

そのゲームと言うのが……はい、篠崎パス」



急にメガホンをポイッと投げ渡された

篠崎先輩は驚きながりもしっかりと

受け取り、苦笑いをして応える。



「ちょっ、いきなりですね谷地さん……、

えーっと…谷地さんが言うゲーム内容とは

各校一年のナンバーワンを決めようって

ゲームだよ」



……一年ナンバーワン?

それってつまり……



「まぁ簡単に言うと

それぞれの高校の一年生、

誰が一番喧嘩が強いか決めようって事だね」

 


篠崎先輩が簡潔にゲーム内容を

発表した瞬間、周りの男達はさまざまな反応を示した。


ナンバーワンと聞いてやる気を

露わにする者。


何でわざわざ…っと興味を示さない者。


ニヤリっと悪巧みを考えた様子の者。


さまざまな反応を示す中、

俺はスッと手を上げる。



「ん?はい、そこの君」



「質問です、それは強制参加ですか?」



俺はナンバーワンに興味なんてないし、

何なら揉め事すら起こしたく無い。


だから俺は不参加の意を表すために

必要な質問を問いかけた。



「もちろん強制ではないよ。

あくまで一つのゲームとして見てくれたら

いいからね」



よし、言質は取ったぞ!

これでこんな面倒な事に参加しなくて済む。



「あ、でも一応優勝者には賞品はあるよ」



賞品?何それちょっと気になる。



「賞品はこの一泊二日の有名温泉旅館の

無料券。そして…代表と戦えるタイマン権利だよ」


こちらにハッキリと見せ付ける一つの券。


無料券だと?!

しかもあれはかなり有名なやつじゃねえか!

予約がまともに取れなくて、

余程の金持ちしか行けないやつだ。


そういえばあの温泉旅館、美咲さんが生涯に一度は行ってみたいと前に言っていたな……



タイマン権利?…んなもん誰が喜ぶんだよ?



すぐさま周りの者達は、

篠崎先輩の言葉に騒がしく声を上げ出した。



「うおーっ!!マジかよ!?」


「マジでタイマン権利貰えんのかよ!?」


「やべぇ!いきなりチャンス到来かよ!」



ガヤガヤと急に周りが騒ぎ出した事に

俺は疑問に思った。


何故なら殆どの者達が『タイマン権利』に

反応を示しているからである。


え?なにそのアイドルに会える的な反応?

どこに喜ぶ要素あるの?

あの三人アイドルじゃないよ?



「一誠君、一誠君、ちょっとちょっと…」



俺が不信に思ってると千賀先輩は

チョンチョンっと優しく肩を叩き、

そっと耳打ちする。



「一誠君はたぶん、何で周りの人達が

タイマン権利に興奮してるか不思議に

思ってるよね?」



「……全くもってその通りです」



「ごめんね、それは僕の説明不足だったんだけど、実はね……」



千賀先輩の話はこうだ。

本来、学校にはそれぞれ代表が存在する。

その代表の選ばれ方は二つ。

一つは先代から指名されて代表となる。

もう一つは代表とのタイマンで

勝利した者がなる。


原則、代表は学校の問題児生徒の見本と

なるため、余程の理由がない限り喧嘩をしてはならない。


なので代表になるには、

先代に指名されるしか方法が無いに等しい。


そして代表になればメリットが生まれる。

学校側から重大な問題児管理人として扱われるため進学への推薦をもらえる。


多少であれば、学校側から給付金を貰える。


他にも様々な融通が効くなどの

プラスになる事ばかりらしい。



「……なるほど、そして最後にデカい顔と

偉そうな態度が出来る……っと」



「ま、大半の一年は主に最後のが

狙いだろうね。入学したばかりで進路なんてまだ考えてないだろうし」



「ほーん……

そこまで目立ちたいもんすかねぇ…」



俺には理解出来ない事なので

呆れる一方である。

代表になれば確かに特する事が多い。

お金も貰えるなんて嬉しい事だ。


だが生徒の管理や責任。

そんな面倒事を引き受けるなんて

はっきり言ってごめんだ。


それに間違いなく代表は猛者だ。

簡単に勝てないだろうし、

逆にこっちがコテンパンにされる確率の方が

高いだろう。


しかし俺の周りにいる一年達は

殆どやる気のようだ。

どいつもこいつも余程自分の腕に自信が

あるのだろう、彼らの瞳はまるで

飢えた野獣のような瞳をしていた。



ゲームにノリノリな各校の一年。


ニヤニヤと楽しそうに表情をするニ、三年。


ニコニコと表情を崩さない篠崎先輩。


薄めを開き、一年全員を静観する郷間先輩。


そんな周りの者達を見てうんざりとした

表情をし、深いため息を吐く工藤一誠。


そして……



そんな一誠を興味の眼差しで

見据えていた谷地先輩。


彼らの高校生活は

まだ始まったばかりである。



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感情の拳 裕治郎 @Tamax777

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