第二話 妻よ、こんな異世界はあるのだろうか?(石動さん)

「正行、正行」

 名前を呼ばれて目を覚ました。

 玉砂利の庭だったのに鼻を突くのは緑の草原の匂い。

 体を起こす。

 目を何度かぱちぱちさせる。

 酒の飲み過ぎた気分だ。

 頭が妙に痛い。

 目の前に身をかがめた石動肇がいた。

「どうしたんですか、俺たち?」

「異世界に飛ばされたみたいだ」

「は?」

 こんな時に冗談を言う男でないことを正行は知っている。

 だが、『異世界』と言われても困る。

 確かに父の読む本には『ライトノベル』や俗に『異世界モノ』と呼ばれる小説があるが、正行自身はあまり読まない。

 とりあえず、ゲームのような世界なのだろうか?

「猪口さんは?」

「情報を集めと食料探しだ。ま、あまり期待できないがな」

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫云々の前に世界が狭い」

「は? 狭い?」

「半径一キロもないんじゃないか?」

 と、悲鳴が上がる。

 猪口の悲鳴だ。

「そこにランダムに魔物が出てくる」

 奥のほうから猪口が走ってきた。

 後ろには多くの鬼らしき魔物が追っている。

 正行は反射的に隠し持っていた拳銃を出し肩に照準を合わせた。

 引き金を引く。

 一匹に当たった。

 だが、すぐに肩に力を入れ弾丸を弾き飛ばした。

 こんな芸当は筋肉自慢の父か目の前の魔物ぐらいだ。

「正行、ここじゃあ、拳銃は役に立たん」

 石動に言われても正行は困る。

「じゃあ、石動さんの……」

「生憎武器は持ってこなかった」

――諦めてくれ

 二人に追いついた猪口は叫んだ。

「秋水‼ 来い!」

 魔物たちが近づいてきた。

 その時、一匹の魔物の鮮血と共に首が飛んだ。

「呼ばれて、飛び出てじゃっじゃーん!」

 秋水の向上である。

 だが、彼らの前に立ったのは……真っ裸の幼女であった。

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