Blue light/墨田拓也
名古屋市立大学文藝部
Blue light
〇月〇日
ジョージの奴が、奇妙なスクラップを売りつけてきやがった。あの野郎、うちが解体屋だからって、その辺でくすねたスクラップ押し付ければ金になると思ってやがるな。
なんでもそいつは町はずれの廃病院で拾ったものらしい。スリットが入った外装に、ほんの小さな金属製の円筒が包まれた代物。ジョージの奴が言うことには、円筒の中には火薬のようなもんが詰まってるらしい。あまり高く売れる様には思えんが、とりあえずは明日バラしてみよう。
〇月□日
例の機械をバラしてみたところ、中に入ってるもんはどうも火薬ではないようだ。ジョージの野郎、適当ぬかしやがったな。結局中に入ってるもんはよくわからずじまいだったが、どうやら外側の金属部分は鉛か何かのようだ。抽出して売れば、まあそれなりの金額にはなるだろう。なんにせよ丸損は避けられそうで何よりだ。しかし、バッテリーをバラす危険を冒さなくとも鉛が手に入るなんて旨い話もあったもんだ。ジョージに話を通して、ほかにもないか探してもらうとするか。
〇月△日
例の機械の中に入っていた粉が、工場の中で青白く光っていたのを妻のイザベラが発見した。どうやら塗料か何かだったようだ。随分と綺麗に光るので、保管して置いたらカーニバルの装飾用に売れそうだ。こうなったら、体調が悪いだのぐだぐだ抜かしてやがるジョージの尻を蹴り上げてでも、ほかにもないか探させないとな。
〇月+日
昨日の光る粉を、たまたま遊びに来ていた姪っ子に見せてやったところ、いたく気に入ったようで持って帰ってもよいかと頼んできたので、使い走りをしてもらった駄賃として、少し渡してやった。あいかわらずあの
家に帰った後、どうやら弟に見せたらしくあんまり甘やかさないでくれとお小言をくらっちまった。男のくせに細かいことを気にする奴め。可愛い姪の頼みなんぞ、聞いてやりたくなるもんだろうに。
〇月×日
鉛と、粉の売却は実に順調だ。リオの連中に、これを使えばより人目を
〇月+日
イザベラが体調を崩しちまった。どうも腹の調子がよくないようで、一日中トイレにこもっている。話を聞くに、姪も同じように体調がよくないらしい。俺もこのところ、腹の調子がよくないが、質の悪い
×月〇日
今日は厄日だ。
イザベラが、保健当局に粉のことをタレこみやがったせいで、面倒なことになっちまった。来週には買い手に引き渡さないといけないっていうのに、余計なことを。結局医者の言うことには全員流行病のようだし、とっとと病院から出してほしいもんだ。
×月×日
どうも体調が戻らねえ。更に、ところどころ髪も抜けてきやがった。髪が抜ける流行病なんざ、今まで聞いたことがねえ、不気味だ。そもそも、本当に流行病なのか?
おまけに、そのことについて話した途端、医者連中が泡を食ったように、どこかに連絡を取って、何かを調べだしやがった。何だってんだ、一体。
×月△日
イザベラの容体が悪化して、もう長くはないだろうと言われた。よくわからん青色の物を飲まされてるが、俺の体調の悪化もまるで止まりやしねえ。最近では血便まで出るようになりやがった。あいつの言うことを聞いておけばよかった。
×月□日
イザベラが死んだ。医者が言うには、やっぱりあの粉がよくなかったらしい。ラジオがどうとか言ってたが詳しいことは分からねえ。俺もいよいよダメかもしれねえ。最近は、手が
□日、ゴイアス州ゴイアニア市の病院で、同市にて廃品解体業者を営む男性の妻である女性が死亡しました。直接の死因は、脳出血または敗血症のいずれかであるとみられています。
また、同日未明に同市の別の病院で、男性の姪である少女も内出血による多臓器不全により、死亡が確認されました。
二人が死亡した原因は、男性の事業所内にあった放射性物質による、多量の
■月■日 ■■■新聞朝刊より抜粋
Blue light/墨田拓也 名古屋市立大学文藝部 @NCUbungei
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