「非実用」の考案者/利根角成

名古屋市立大学文藝部

「非実用」の考案者

 自分の誕生日を検索して、様々な占いサイトを見てきた。書いてある内容には違いがあるが、共通項として次のような特徴を抽出できた。


創造的で子供心を忘れない人物。

職業としては創造的な職業に就く、特に芸術家などになるか、あるいは創造的観点を企業などに与える考案者が向いている。 


 一定のバーナム効果が働きうる占いの分析ではあるが、それを差し引いたとしても割と私は該当していると感じた。

 私は小学一年生の頃に『名探偵コナン』を見始めてから、今年で早一五年、推理小説にのめり込んでいる。特に小学三年生になると、だいぶいろいろな本を読んできて経験値が上がってきたからか、自分の部屋で宿題をするふりをしながら、トリックのアイデアを書き留めていた。大学ノートに手書きで現在五冊ほどたまったものの、成人近くなった自分から見ると鼻で笑いたくなるようなトリックが多い。それでも、これは理論上実行できそうだといったトリックが全体の一割ほどあった。

 勉強する理由として、自分の知見を広めたいからや、公認会計士や弁護士、医者などといった特定の職業に就きたいからという声を聞く。あるいは、周りが勉強しているからなんとなく、いい大学に行けばいい就職先にいけるから、などの消極的な意欲で勉強しているという人も見てきた。

 ただ、ここまで見てきて分かる通り、私の主軸、譲れないものは「推理小説」だ。もっと細かく言うとアリバイトリックや密室を構築するような「不可能犯罪」系列であり、私は勉強するのはあくまでこれらのためである、と割り切って邁進してきた。国語は言葉などを巧みに利用した叙述トリックのため。数学は論理的ミスのないトリックを生み出せるようにするため。英語は語学の認識の違いを使ったトリックを生み出すため。社会は見立て殺人のレパートリーを増やすため。理科は物理トリックや化学トリックを考案するため。

冒頭の分析の言葉を借りるなら、私はトリックの考案者と言えるかもしれない。


 つい先日ご縁があって、ある企業が主催するイベント、巷で言うところのビジネスコンテストに参加することになった。参加を後押ししてくれた広告にはこのように書いてあった。

『考えるのが得意な人、一からものを作るのが好きな人、是非来てください』

 私は前述の通り、トリックを一から作っているので人よりかは、創造力はあると自負していた。さらに占いにも将来的には発想力が社会に生かされるだろう、と書いてあった。だから、参加を決意した。

 ビジネスコンテストは、各自グループに分かれて事業を創造する、といった内容だった。私は少しでも自分の創造スキルを生かそうと奮起したものの、全く活躍できなかった。それと比べて、他の人は社会や会社にメリットのあるような実用的なプランを考案しており、企業から一目置かれていた。

帰り道、色々と不発に終わった理由を考えていた。おそらく、自分の提唱するプランは、自分でも薄々感じていたが、どれもこれも非実用だったからだ。


この社会は少なからずプラグマティック的思想が働いている。つまり、この社会において有用的なものが大切だ、という旨の考え方だ。例を挙げると、渉外のセールス実績を上げるために必要な視点や施策を創造するなどだ。

対して非実用のものとして挙げられるのは、絵画や音楽などの芸術作品である。これらのアイデア、例えば、美しい旋律がそのまま社会の役に立つかと言われれば、そうではない。もちろん、錯視などの芸術が行動経済学などに実用的に働いている、などの例はあるものの、芸術は社会にとって無くても困らないし、有用度は低い。

芸術作品の中でも音楽や絵画は見る人の心を豊かにするという見方もできるが、自分の場合はどうであろうか。

自分の最近作ったトリックやアイデアときたら次のようである。ゴムの特性を利用したドアノブでの首つりの方法、ホロウマスク錯視によってアリバイを作る方法、物理現象や地学現象を利用した密室トリックなどなど。本稿執筆時点で八十五個は保有しているが、果たして、これらのアイデアが有用かどうかと言われると、答えはもちろんノーである。これらが企業や社会に良い気づきを与えさせることなどは一切ない。

ただし、これらの非実用的なトリックやアイデアが唯一生かされるところがある。それは言わずもがな、作品の中である。これは、実際に自分の保有するトリックで推理小説を書いてみてより実感した。トリックが輝くためには作品を完成させる他ないようだ。

しかしそのとき分かったが、自分にはすらすらと大量の文を書き連ねることはできないようだ。それならばいっそのこと、トリックを人に譲渡することや、売ることも考えたが、私は自分の育てたアイデアに対する育児放棄はしたくない。トリックは我が子のように思っているからだ。だからこそ、なんらかの形で死ぬまでには非実用的を実用的に変化させていきたい。

これからも勉強を継続し、私は非実用的アイデアを考案していくことになるだろう。ただ、一日に六個のように一気にというよりは自分の発想力の限界を考えると、逓減ていげん的になるかもしれない。それでも、作り続けていく。もし、トリックを考案できなくなるときが来るとしたら一つしかない、死ぬときだ。




補足

密室:鍵のかかった部屋、人の視線がある場所、足跡などをつけずに移動することができない雪原のように、出入り通常の発想では出入り不可能な空間のこと。不可能犯罪の一種。


アリバイ:犯行時、容疑者がその事件現場にいることができなかったという不在証明のこと。


見立て殺人:童謡や俳句などの作品の内容になぞらえて起こる殺人のこと。通常、それを犯人が行う目的は猟奇的理由ではなくて、犯行のカムフラージュをしたがるケースが多い。




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「非実用」の考案者/利根角成 名古屋市立大学文藝部 @NCUbungei

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