第13話 俺、尋問される
調査官のジェムスは意外な手を打って来た。
配置転換だ。
野戦病院は今いる他に三つあるんだが、俺達をそのうちの一つに転属させた。
くっ、取れる手は二つ。
魔力の供給をしない。
これをやると俺達が魔力を供給しているとばれてしまう。
転属先でも魔力の供給をする。
とうぜんこれもばれる。
どっちにしろばれる。
「どうすんのよ」
少し切れ気味なサマンサ。
「魔力の供給は続ける。親切な霊が俺達についてきたんだ」
「そんな嘘が通る訳ないわ」
「待てよ。自信がある。嘘発見魔法に俺を掛ければ良い」
「上手く行くかしら」
「やってみるまでだ」
俺が嘘発見魔法に掛けられても良いとサマンサがジェームスに伝えると、尋問する為に場が設けられた。
「さっさとやってしまおう。魔力供給装置はあるか?」
「ないな。俺は知らん」
魔力供給装置はない。
俺は道具ではないからな。
「本当です」
魔法を使っている人が答えた。
「お前はスパイか?」
「いいや。スパイ活動もした事がない」
「本当です」
「くそう。どういう事だ。まさか幽霊の噂が真実なのか。幽霊はお前達についてきた」
「ああ、ついてきたよ」
幽霊の正体はハデスだからな。
俺達について来たのは間違いない。
「ほ、本当です」
「何だと! 魔法が間違っているんだ」
「可能性としては、この者がそう信じ込んでいるという事です」
「前もって精神魔法を使って、信じ込ませる事はできないのか?」
「出来ますが。スパイにスパイでないと信じ込ませると矛盾が沢山生じます。厳しい訓練をしているでしょうから、スパイであるという事が、体の一部になっているはずです。矛盾で精神が崩壊するかも知れません」
「鳥の死骸の謎もまだ解けてない。結局、俺の推測が真実とは別の方向に向いているのか」
「俺はもういいか」
「ああ、手間を取らせた」
俺はハデスに幽霊がついてきたと噂を流させた。
「ひゃっほう。この野戦病院にもつきが出て来たな。もう死ぬ患者を見なくてもいいのか」
「おう、幽霊さまさまだ」
俺はここでもメッセンジャーボーイをしている。
ジェムスは俺を意味ありげな顔で見ているが、何もしない。
いや、出来ないのだろう。
謎を解くために色々と考えてはいるようだが、功を奏したりはしないようだ。
ここまでやったら、もう滅茶苦茶やっても良いだろう。
俺は薬師にも魔力を供給し始めた。
ポーションの作り方は、薬草を煮て魔力を注ぎ、濾しとる。
薬草は畑で栽培しているので十分な量がある。
作るのにボトルネックというか障害になっているのは魔力だ。
俺はこれを解決できる。
薬師はフル稼働になったので、ポーションの数は揃いつつある。
ポーションは他の野戦病院や前線にも送られるそうだ。
ジェムスが俺の前に現れた。
「独り言を言う聞いてくれ。幽霊の力かどうか分からないが、特殊な能力を持った誰かさんは優しい。人が死ぬを見るのが耐えられない。だからちょっかいを掛けた」
おっ、良い線いっている。
「その特殊な力がなんなのかは分からないが、勇者や聖女に匹敵する力だろう。国の為に働いてくれと言いたいが、無理なんだろうな」
そうだね。
殺戮兵器になったりするのは、まっぴらごめんだ。
モンスター退治は別に構わない。
構うのは戦争だ。
人殺しの道具になるのは嫌だ。
「私は報告書をまとめた。その結果がどうなるかは分からん。敵対しない方向に行ってくれるとありがたい。抱き込むように具申したから、強硬策はとらないだろう」
結局のところどうなるのかな。
予断は許さない。
「俺も独り言を言うよ。サマンサの希望は優しい婿を取って、田舎でのんびり過ごす事だ。俺も田舎で平穏に暮らせたら良い。平穏が一番だ」
「そうか。胸に納めておこう」
人間は楽な方に行くと決まっている。
力があれば使いたがる。
強烈な副作用があったとしてもだ。
何が言いたいかというと、上層部は報告書を見たら、俺を使うという事だ。
そうに決まっている。
敵対するまでこじれない事を祈る。
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