第12話 俺、疑われる
「私は軍の調査官だ。ジェムスという」
「私共に御用がおありですか」
サマンサを調査官のジェムスが訪ねてきた。
やばいな。
色々がばれてしまったか。
「いや、君達にという訳では無い。この野戦病院の成績が良いので上層部が気になっただけだ。みんなに話を聞いて回っている」
「そうですか」
「何か不思議な事はなかったかね」
「魔力が尽きないのです」
サマンサが代表して答える。
「ほう、皆と一緒だな。それについて何か思い当たる事は?」
「ありません」
「ふむ、何でも良いので、何かないかね?」
「ありません」
ジェムスは今しばらくここに居るようだ。
ここで魔力の供給を止めたら、軍に知られたくないと大声で宣伝しているようなものだ。
それは不味いな。
俺は何気ないふりをして魔力の補充を辞めなかった。
ジェムスは帰っていったが、不気味な感じは拭えない。
魔力が尽きない事の理由付けが必要だな。
綺麗な石でも拾ってきて、この石がみんなの魔力を補充してますとでも言ってみようか。
いいや、そんな嘘はすぐにばれる。
神に祈ればというのも駄目だ。
試せばすぐにばれる。
何かないかな。
「ちょっと、噂をばら撒いてきてくれないか」
俺はハデスに頼む事にした。
「がってんでさぁ」
「噂の内容はこの野戦病院で死んだ霊がみんなを助けているだ」
これなら確かめようがないだろ。
魔力が供給されてもされなくても、理由は霊の気分次第。
そこに規則性など無意味だ。
「聞いた? 魔力が尽きないのは霊が助けてくれているからだって」
「聞いたわよ。ちょっと怖いわね。祟られたりしないかしら」
メッセンジャーボーイの仕事の最中に噂を拾う。
噂が浸透してきたようだな。
そうして、何日かが経ったある日。
またジェムスがサマンサを訪ねて来た。
「幽霊の話を聞いたかね」
「はい」
「どう思う?」
「私は幽霊など信じません」
「ほう、少数意見だな。詳しく聞かせてくれ」
サマンサ、頼むよボロは出さないでくれ。
「今まで幽霊など見た事がないからです。ここでもです」
「なるほどな。幽霊の噂があるのに幽霊が居ないのはおかしいな。だが、幽霊の目撃情報ならある」
「えっ!」
俺も驚きを押し殺した。
ハデスは涼しい顔をしている。
「誰もいないのに、扉が開いたり閉まったりしているのを、見た者がいる」
これってハデスの野郎なんじゃ。
瓢箪から駒かと思ったよ。
「怖いですね」
「怖いな。スパイだったらね。私の予想だと、他国のスパイが新兵器を実験しているのではないかと思っている。魔力供給装置のね」
「それって私達に関係ありますか?」
「それは分からない」
ジェムスが他国のスパイという話を持ち出したのは、こういう話をすればスパイはなんらかの行動を起こすと考えたからだろう。
俺はスパイじゃないから行動は今までと同じだけどな。
メッセンジャーボーイの仕事で夜遅くなった時にテントの外に人がいるのが分かった。
気配を消しているのだろうけど、魔力の循環は誤魔化せない。
俺がその人を視認した時に、その人は鳥を放したので、テントの物陰から高魔力を当てて鳥を殺した。
「誰だ。鳥を殺しやがって」
俺が出て行こうとした時にジェムスが現れた。
「尻尾を出したな」
「くそう」
ジェムスとスパイと思われる人の戦闘が始まった。
俺はもちろん加勢などしない。
戦闘はジェムスの勝利で終わった。
「居るんだろ? 出て来い」
ばれてるな。
仕方ない。
「物騒ですね」
「さしずめ君は捕まえたのとは別の国のスパイというところか」
「嫌だな。違いますよ」
「ほう。なら何故ここにいる?」
「メッセンジャーボーイの仕事をしていると人の気配に敏感になるんです。テントの外からでも中にいる人が分かる。スパイですか、その人は気配がおかしかったので見つけました」
「筋は通っているようだが、無理がある。そらを飛ぶ鳥を落とすのは容易ではない。ただの従者がそんな技を持っているものかね」
「鳥? なんの事です?」
「白々しい。死骸を見ればどんな武器を使ったのかは分かる。収納魔法で武器を隠したのだろうが、調べればわかる事だ」
ジェムスは鳥の死骸を調べた。
「おかしい? 傷が無い。毒か? いやあんな遠くには届かないはずだ」
「疑いは晴れましたか?」
「いやまだだ。収納魔法の中を調べさせてもらう」
俺は亜空間探知の魔法で調べられた。
もちろん、俺は収納魔法はおろか一番簡単な魔法も使えない。
魔欠者である事もすぐに証明された。
嫌疑は晴れたが、まだジェムスは疑っているようだ。
危ない、危ない。
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