仮面の殺人鬼

第0話

 空から大粒の雫が地面に叩きつかれ、轟音と共に煌めく閃光。一際大きな轟音と閃光の煌めきが過ぎ去ると、そこから炎が燃え盛ります。

 そんな雷雨の日の真夜中に傘を差しながら家を忍び出る一人の少女がいました。

 少女は家の鍵を掛けるすぐにその場から走って離れます。

 そして人気の少ない方へと足を向けました。

 走って走って走って人気が全くない場所までつくと、ようやく走ることをやめました。

 人気の無い裏路地に足を踏み入れると、少女はそこから前へと進めなくなります。

 暗く迷いそうなほどに入り組んだ場所。

 小学校では危ない人が多いから、殺人鬼なんかが彷徨いているような場所だから、絶対に入らないように言われている場所。

 そんな場所に足を踏み入れる勇気を少女は持ち合わせていません。

 数秒が経ち、数分が経ちそれでも少女が裏路地に入れません。そこに探し人がいるかもしれなくとも、その子を見つけることよりも恐怖の方が勝ってしまいます。

 足は震えるばかりでいうことを聞かず、先の見えない暗さに怖気ることしかできません。


 うわああああぁぁっ!!!!!!!!


 どこからか聞こえてくる悲鳴に、少女は引っ張られるようにそちらに向かいます。

 もしかしたら、という期待を込めて真っ直ぐ前を向いて走り出します。

 悲鳴が聞こえてきた方に近づけば近づくほど人の数が増えていきました。とはいっても、こんな雷雨の中外出している人は少なく、数人立ち止まっている程度です。

 その人たちも警察や救急車を呼ぶと直ぐに雨から逃げるようにその場から去ります。

 少女は人が完全にいなくなったのを見計らって近づきます。

 先ほど人が囲んでたのはここに少年が倒れていたからだと気づき、あからさまに残念がりました。

 少年は雷にでも打たれたのか服や皮膚が焼け焦げてはいるものの息はか細いながらもしています。

 放っておいても大丈夫だと判断した少女は少年から離れ立ち去ろうとしました。

 すると、目の前でピカッと閃光が走りました。

 少女は驚きで傘を落として尻餅をつき、目の前で倒れている少年の上には雷が落ちます。

 たった一瞬、少年に多量の電気が走りました。

 少年の髪は黒から黄へと色を変え、ビリビリと放電しています。先程まで無かったリヒテンベルク図形電紋が首から腕にかけてできていました。

 少女は少年の鼻の前に手を置きますが、少年は息をしていません。少女は少年の肩に軽く触れようとすれば静電気がバチッと音を立て、掌がひどく痛みました。

 少女は放電している少年の肩を無理矢理掴みました。自分の手が痛むことを気にせず、手を離さないように。

 少女が触れたところから徐々に火傷の赤みは引いていきました。バチバチッと無差別に放つ放電は徐々に勢いが抑えられていきます。

 息をしていなかった少年がカハっと空気を吐いて規則正しい呼吸をし始めると、少女は手を放ちその場から走って逃げました。

 少年は自分よりも幼い少女の背を見送り心の中で(ありがとう天使様)とお礼を言い再び意識を失います。

 少女は走りました。

 先程足を踏み入れられなかった裏路地の奥へ奥へと走りました。

 探し人の名前を叫びながら。

 雨と泥と錆で服がドロドロになるのを厭わず、狭い道を通り違法投棄されてあたる物の上を登りもう使われなくなった廃ビルの中を駆け回ります。

 何十分探しても何時間探しても少女の探し人は姿を現しません。

 傘はいつの間にか手元から消えてどこかに行ってしまっています。

 諦めてまた明日探しに来ようと今日はもう家に帰ろうと少女は来た道を戻ろうと後ろを向きました。その時、ゴロロロロロッとけたたましい音が鳴り響きあたり一体が閃光に包まれます。

 少女は街灯もなく真っ暗闇の中で閃く雷を酷く眩しく感じ、片手で目を覆い隠しました。一度雷が落ちると後を追うように二度三度と雷はけたたましい音を鳴らして落ちていきます。

 雷の音や瞼の裏から差す雷の光が落ち着くと少女は手を退けてゆっくり目を開けました。

 すると、先程まで何も居なかったはずの少女の背後に小柄な人影が佇んでいました。

 少女は驚きながらも雷光のせいで暗闇に慣れ切っていない瞳を人影に向けて凝視します。

 だんだんと慣れてきた瞳で見た人影は二本のナイフを持ち仮面をつけた少女と近しい背格好の子供でした。ブカブカの白いコートには真っ赤な液体がこびりつき、目深に被ったフードから見えるのはにったりと笑う道化師の仮面のみです。

 仮面を被った殺人鬼は少女に凝視されると走って逃げました。

 少女は殺人鬼に向けて手を伸ばし呼び止めています。

 少女は逃げる殺人鬼を追います。何度も何度も見失いそうになりますが、必死に死に物狂いで追いかけます。

 あまりのしつこさに殺人鬼は少女に向けてナイフを投げました。しかし、ナイフは少女の頬スレスレを通りすぎます。

 少女は当たらないことがわかっていたのか怯むことなく追い続けます。

 やがて殺人鬼を追い込むと、少女は殺人鬼に抱きつきました。逃がさないと言いた気に力一杯ギュゥーっと抱き締めます。

 少女は片手を殺人鬼の仮面に伸ばし、にったりと笑った道化師の仮面を取り外しました。

 仮面を取り払えば少女の探し人が今にも人を殺しそうな獰猛な目つきで少女を見下ろします。

 少女は愛おしそうに殺人鬼に微笑みかけます。


「やっと見つけた。一緒に帰ろ?まゆ」


 差し伸べられた手を殺人鬼は少女ごと押し除けました。

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