第12話 もぐりの治療師

「はい、次の方」


 俺は今、もぐりの治療師をしているところだ。


「昨夜から腹が痛くて」


 殺菌魔法、解毒魔法、治癒魔法、回復魔法のセットをぶち込む。


「治りましたか?」

「いくぶんかましになりました」


 あー、なんの病気なんだろうな。


 │A   │B  │

─+────+───+

1│使用魔力│100│

─+────+───+

2│透視魔法│=B1│

─+────+───+


 こいつは!

 この塊は!

 ただの便秘じゃねぇか。

 癌じゃなくて良かったぜ。


「便秘ですね。お腹をマッサージするのと、野菜を食べて、水分を多めに摂るように。運動も効果的です」


 いい加減な事を言って患者を帰す。

 便秘なら別に大事にはならないだろう。


「次の方どうぞ」

「先生、昨夜から腹の奥が痛くて」


 こいつも便秘か。

 透視魔法発動と。

 うっ、癌だ。

 腫瘍なんて見た事ないが、不自然に膨らんでいるこの感じは癌に違いない。

 どうする。


 ええいままよ。


 │A   │B  │

─+────+───+

1│使用魔力│100│

─+────+───+

2│抗癌魔法│=B1│

─+────+───+


 透視魔法発動、やった癌が小さくなったぞ。

 もう少し魔力を大きくして抗癌魔法だ。


 ふう、なんとかなった。

 魔法万歳だな。


「次の方」

「先生、子供を助けて下さい」


 むっ、子供の意識がない。

 殺菌魔法、解毒魔法、治癒魔法、回復魔法のセットだ。

 駄目だ。

 子供が良くなったとは思えない。


 透視魔法発動。

 駄目だ、それらしき原因が分からん。


 │A   │B     │

─+────+──────+

1│使用魔力│   100│

─+────+──────+

2│回復力 │=25+B1│

─+────+──────+


 自然治癒力に任す。

 駄目だ、一向に良くならない。


 │A   │B     │

─+────+──────+

1│使用魔力│   100│

─+────+──────+

2│健康度 │=52+B1│

─+────+──────+


 要は病気で不健康なんだろう。

 健康度を100パーセント以上に上げてやれば良い。

 子供の顔色が良くなった。

 ほどなくして子供は目を開いた。


「お父さん、私の顔見て何で泣いているの」

「ぜんせい、ありがどうございまず」


 健康度を戻しただけじゃ治療したとは言い難い。


「この患者は俺の知らない病気だ。一時的に健康に戻したが、再発する恐れがある。もっと名医を訪ねるんだな。再発した場合に応急処置だけはできるので、その時は連れて来い」


 この子が名医に出会って良くなる事を祈る。

 もぐりの治療師は儲かった。

 儲ける事が目的ではないが、名医との噂が立った。

 後はブレイクがメイドに名医が居ると吹き込むだけだな。


 ブレイクから手紙が来た。

 ザケルが父親から大金をもらい俺の所に来ると。

 次の一手はこうだ。


 │A   │B  │

─+────+───+

1│使用魔力│100│

─+────+───+

2│隠蔽魔法│=B1│

─+────+───+


 俺は透明人間になった。

 ザケルが歩いてくるので、懐から財布をすってやった。

 治療院に戻り何食わぬ顔で待ち受ける。


「次の方どうぞ」

「俺の傷と顔の落書きを消してくれ」

「拝見します」


 俺は診察するふりをした。


「ふむ、これを治すには大金が掛かりますな。お持ちですかな」

「ああ、金ならある」


「見せてもらいましょう」

「たしかここに。無いぞ! 俺の金が無い!」

「お金が無いのならお引き取りを」

「くそう何故だ。何故こうも上手くいかない」


 俺は変装を解いてマークになり道端でザケルを待ち受ける。


「マーク、良い所で会った。金を出せ」

「はい。出すのは良いけど、どうせ無くなるんだったら、散財したい」

「マークにしては気が利くな。ちょうどむしゃくしゃしてた所だ」


 俺はザケルを女達が接待するような飲み屋に連れて行った。

 ザケルから盗った金でザケルをしこたま飲ます。

 ザケルの家の者が酔ったザケルを迎えに来た。


 俺がザケルについていくと、ザケルの家では父親が待ち構えていた。


「ザケルよ、傷の治療はどうなった」


 父親に聞かれるザケル。

 ザケルは酔いつぶれている。


「ザケルの学友です。今日はザケルさんにおごってもらって、ありがとうございました」

「何だと! ザケルは何か言ってたか?」

「大金が入ったのでパーっと遊ぶのだとか」

「許さん。大金が湧いて出るとでも思っているのか」


 父親の信用を失ったな。

 後はブレイクが父親にある事ない事を吹き込むだろう。

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