第9話 武闘大会

 武闘大会の1回戦はなんと相手がザケル。

 黒い感情というか物が湧き上がる。

 まだだとなだめる。


「分かってるよな」

「はい」


 俺は木剣を構えた。

 ザケルが喉に突きこんでくる。

 避けるのは容易いが、俺は目を見開いて驚いた表情を作った。

 殺しても構わないつもりでやってやがるな。

 喉に力を入れて踏ん張れば、ザケルの木剣を粉々に出来るが、それだと後で復讐出来ない。

 喉に当たった瞬間大げさに吹っ飛ばされたように装って倒れた。


「げほげほ」


 別に何でもないが、大げさに咳をする。


「勝者ザケル」


 審判に手を高々と挙げられるザケルの顔は得意満面だ。

 あと少しだ。

 あと少しでその顔が苦痛に歪む。


 俺は痛くない喉をさすりながら舞台を降りた。

 人気のない所で覆面を被る。

 覆面の剣士ヒロの誕生だ。

 後は出番を待つだけだ。

 俺と当たるまで負けるなよ、ザケル。


 しばらく待って俺の番になった。

 驚いた事に一回戦はジャスだった。


「では始める。構え。始め!」


 ジャスが木剣を薙いできた。

 俺はそれを避けて後ろに回り込んだ。

 そしてアキレス腱辺りを木剣で強引に斬った。


 これだけで終わると思うなよ。


 │A      │B   │

─+───────+────+

1│使用魔力   │4000│

─+───────+────+

2│治療不可の呪い│=B1 │

─+───────+────+


 呪いをジャスに掛けてやった。

 これで魔力が4000以上の治癒魔法でなければ治療できない。

 そんな使い手はこの王都に居ない。

 魔力の平均が100だからな。


「うぎゃあ。俺の足が」


 ご愁傷様。

 だが、復讐はこれからだ。


 俺はステータスに物を言わせてトーナメントを勝ち上がる。

 そして、決勝でザケルとの対戦になった。


「いくらだ? 望みの金額を言え。もし、応じない場合は後で刺客を送る」


 ザケルの野郎、そうやって決勝まで残ったのか。


「金貨100枚で手を打とう」

「高いが、まあいい。決勝だからな」


 始めの合図が掛かる。

 俺はザケルの木剣を軽く叩いた。

 木剣を落とすザケル。


「話が違う」

「剣を拾え」


「そうか、演出だな」


 ザケルは木剣を拾い構えた。

 もう一度、木剣を叩く。


 ザケルの顔が疑問で一杯になる。

 そして、木剣を落とす事10回。

 そろそろ良いだろう。


「待たせたな。終わりだ」

「もったいをつけやがる」


 俺はザケルの顔を木剣で斬った。


「ぐぎゃあ、俺の顔が。お前、俺を殺すつもりだな」


 ザケルが事態を悟って背中を見せて逃げる。

 俺は背中を切り裂いた。

 今は殺さんよ。


 │A      │B   │

─+───────+────+

1│使用魔力   │4000│

─+───────+────+

2│治療不可の呪い│=B1 │

─+───────+────+


 呪いを掛けてやった。

 今回はこんなところで良い。

 俺は全速力でその場を後にした。


 そして、ジャスの様子を見に行く。


「魔力よ癒しとなりて降り注げ、ヒール。おかしい、治らないぞ」

「そんな。俺は一生歩けないのか」


「大変だ。後でお見舞いに行くよ」


 俺はそう言って、悲痛な声を出した。

 心の中では笑っているがな。


「マーク、まさかお前の差し金か?」

「何の事?」

「そんな訳ないか。復讐してくれる奴を雇う金なんてないものな」


「ザケルは?」

「家の者が連れて行った」

「そう、ザケルにもお見舞いに行かないとね」

「お前?」

「いやだな虐められないように形ばかりの礼儀さ」

「そうだよな」

「じゃ、後で」


 優勝したのに何も言わず去った覆面の剣士ヒロの噂で街は持ち切りに。

 正体を推測する色々な噂が駆け巡る。

 魔王が戯れに武闘会に出たというのが有力な説だ。

 実際は虐められた仕返しなんてのは考えもつかないらしい。


 そして、ザケルは背を見せて逃げた臆病者として評判になった。


 第一段階は終了だな。

 黒い何かが薄まる。

 さて、次の仕込みだ。

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