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 案の定、レンは同僚やら上司やら、その他会話したこともない別の部署の士官やらから質問攻めに遭っていた。


 娘の年齢はいくつか、どんな外見か、聖女に選ばれた理由は何だと思うか、息子の嫁にどうか、など。


「はあ……」


最終的にはこちらにも護衛の兵がつき、諸々を解散させた。娘ほどではないが病弱ということになっているアインビルド氏が、今ほどその設定を活用したことはなかったかもしれない。


「ユイファ、君が生きていたらどうしていただろうね」


アーユイは、死んだ妻によく似ている。年々似てきている気がする。暗殺姫などという不名誉な二つ名――もとい、家業がなければ良い貰い手があったかもしれない器量良しだと、レンは親馬鹿ながら思っていた。


「はあ、これは、廃業も考えるべきかもしれんなあ……」


面が広く割れたら、もはや諜報活動はできない。今後はアインビルド家だというだけで警戒する者も出てくるだろう。レンの悩みは尽きない。


*****


 アインビルド家の者は、毒にも詳しい。使用した時の効果に精通しているのはもとより、臭いや味、感覚にも。即ち、実際に体感したことがあるということだが。


「まだ一日も経っていないのに、こんなにあからさまに入れてくるとは。ナメられているのかな」


アーユイは、城付きの給仕の手によって運ばれてきた夕食の臭いでスープに毒が混入していることに気付き、無事と判断した他のメニューだけ淡々と平らげていた。


「確かに。これからは、あたしが先に確認しましょう」


除けられたスープの器から立つ湯気を手であおぎ、リーレイも顔をしかめた。


「毒味みたいなことはしなくていいよ。私にもわかるし、万が一があったら大変だ」


日頃の若干非人道的な訓練のお陰で、アーユイもリーレイも常人よりは毒が効きにくい体質だが、未知の毒はいくらでもある。今回はたまたま、ありふれた――ありふれていてほしくないが――知識の中にある毒だったというだけだ。


「……味はいいけれど、これなら家にいるほうが、よっぽど安全だな」


何しろアインビルド家の使用人は、ほぼ全員が戦闘員を兼ねている。加えて、全員がレンとアーユイを敬愛している。


「足りないのでしたら、何かつまめるものでも物色して参りましょうか」


「それなら気分転換がてら、私がリーレイに変装して自分で行ってくるよ。干し肉でもあればくすねてこよう」


アーユイがリーレイを呼び寄せたのには、自分の世話に慣れている以外にも理由があった。母・ユイファの同郷の出身で、母似のアーユイと背格好が似ているのだ。つまり、有事の際には入れ替わることができる影武者としての役目も持っていた。


「大人しくしてるって言ったのはどこの誰です」


「正直、軟禁されているのに飽きた……。いつまでこうしていればいいんだろう」


「まだ一日も経っていませんよ……」


リーレイは先ほどアーユイ自身が言った言葉を繰り返した。


「うーん、まあ、仕方ない。とりあえず今日のところは、早めに寝てしまおう。厨房探検は今後の処遇次第だ。リーレイも気疲れしただろう。休んでくれ」


「はい」


いつでもどこでも休息が取れるのは、アインビルドに所属する者の必須スキルだ。部屋に備え付けのシャワーを浴びに行くアーユイに一礼して、リーレイは慣れた動作でスープをトイレに流し、食器を持って部屋を出て行った。

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