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     ♪


沙夜『最後のお便り行きましょう』

瀬良『あれ、これで終わりじゃなかった?』

沙夜『もう一通だけね。神奈川県・西ローランドゴリラさんからのお便りです。

「こんにちは!」こんにちはー!「私の場合、漫画の思い出となると、本屋にあるようなプロの漫画家さんたちが描いた漫画ではなく、自分のデスクを占拠する原稿のことを考えます」』

瀬良『自分で描かれる方なんですね』

沙夜『「そう、私はイラストサイトなんかに漫画をアップしているアマチュアの漫画家なんです! そんな私ですが、先日機会があって、出版社に原稿を持ち込みさせてもらいました。結果は散々……。あんなに厳しい言葉をいただいたのは、人生で初めてだったかもしれません。そんなこともあって、最近はデスクに向かう気力がいまひとつなんです。どうしたらいいですか?」』

瀬良『これはまたデリケートな問題ですね……』

沙夜『いやー……私なんかはただのしがない学生で、そういう芸術方面の方々へのアドバイスなんて「頑張って」くらいしか持ち合わせてないんですけど……しかもそれだって軽々しく言っていいもんじゃないもんねえ』

瀬良『間違いない。でも、これは他人がどうこう言って解決出来る問題ではないからね……』

沙夜『とりあえず、デスクに向かったほうがいいとは思うけどね』

瀬良『それはそうかも。描いていないと、きっと腕がなまるだろうし。それは西ローランドゴリラさんの本意ではないはずでしょ? いつかプロの漫画家としてデビューしたいなら、描き続けないといけないと思います。……夢を叶えるなら、立ち止まってる時間はないはず』

沙夜『おー、瀬良ちゃんめっちゃいいこと言うね』

瀬良『実を言うと、私も最近似たようなことがあったので。ちょっと他人事とは思えないところがあったの』

沙夜『そっかそっか。じゃあ瀬良ちゃんも、立ち止まってはいられないね』

瀬良『……図ったな、沙夜さん』

沙夜『何のことかなー? っと、ここでこのラジオに寄せられているコメントを何件か読み上げたいと思います。「沙夜りんおつかれ!」イエーイ! ありがとー! あとは「瀬良さんめっちゃいい声してる!」「声優みたい!」』

瀬良『声優ね。いつかなれたらいいね』

沙夜『「楽しかった! またやってほしい!」こればっかりはね、また私の気が向いたらとしか言えないんですけども。どうですか瀬良ちゃん。またやりたい?』

瀬良『誘ってくれたらやらないこともないよ』

沙夜『んもう素直じゃないな。そんなわけで、そろそろお時間ですね。みんな楽しんでくれたかなー? たぶん一番楽しんでいたのは私だと思いますが!』

瀬良『私もだよ、バカ。お相手はハンドルネーム瀬良と』

沙夜『沙夜でお送りしました! ばいばい!』


     ♪


「どうして私を誘ってくれたの?」

 十一月三日、午後八時五十五分。放送直前。

ローテーブルには既にスマートフォンがセットされており、液晶を点けたらタップひとつで生放送がスタート出来る状態だ。此度は映像なしで音声のみの放送になるよう設定されている。

 最終チェックに余念のない沙夜子は台本から目を上げると「それ今訊かなきゃいけないことか?」と感じている様子を隠すことなく、星良をじろりと見やった。沙夜子よりは台本や本番というものに慣れている星良は、とうに最終チェックを終えてリラックスモードに入っているが、沙夜子にとっては感じたことのないレベルの緊張だろう。端から見ていて少し不憫に見える。

「だってさ、気になるじゃん。声優オーディションに落ちてグレにグレまくってる従姉を、ばりばりに声を使うラジオに誘うなんて。私じゃなければ嫌がらせだと勘違いされてるところだよ」

「……だって」

 沙夜子は台本をローテーブルに下ろしながら、少し言いづらそうに口を開いた。

「もったいないじゃん」

「それは何回も聞いた」

「でも瀬良ちゃんはわかってない!」

 バンとローテーブルに手をつく。面食らった星良に、沙夜子は言い募った。

「瀬良ちゃん、一言喋れば誰もが振り向くほどいい声してるのに! 一回オーディションに落ちたからって!」

「学校もサボって自堕落な生活を送っているのが問題だと?」

「そう!」

 自虐的にそう言うと、はっきりと肯定された。マジか。そんなにだめか。星良は「えー……」と困惑する。

「そのオーディションがすべてだったわけじゃないでしょ? それよりもこれからについて考えなきゃいけないと思うよ!」

「これからったって……」

「そりゃ、花形はアニメとかゲームとか吹き替えだけどさ」

 時計の秒針は真上を向こうとしていた。

「そこだけが声の生きるところじゃないよ」

 沙夜子はスマートフォンの画面を明るくした。

「だから、瀬良ちゃんをこのラジオに誘ったんだ」

 にかっと笑いかけられたのと同時に、スマートフォンの時計が九時を指す。

「瀬良ちゃんの声を聞かせて」

 一夜限りのラジオが、始まった。

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Radio!! 工藤 みやび @kudoh-miyabi

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