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 もうひとつは、漫画についての話題になった。


     ♪


沙夜『えーっと続いてのコーナーなんですけど、少し遅めにお便りを募集したのでリスナーの皆々様にちょっとご迷惑をおかけしたかと思います。すみません、素人ラジオなんで大目に見てください』

瀬良『みんないい人たちでよかったね、沙夜さん』

沙夜『ぐぬぬ、私ひとりのせいみたいにしやがって……』

瀬良『えー十一月三日。「文化の日」であり「文具の日」でもあった本日、実はなんと「漫画の日」でもあるんですね。かの有名な天才漫画家・手塚治虫の誕生日であることが由来のひとつであるとかなんとか』

沙夜『二月九日や七月十七日も「漫画の日」と指定されてるみたいなんですが。ま、よくあることですよね。というわけで漫画に関する皆様のエピソードを募集しました。懐かしの漫画から連載中の漫画まで、たくさん集まりましたね』

瀬良『このラジオがきっかけで出会える漫画もあるのではないでしょうか。ではまずこちらの方のお便りです』


     ♪


「入り、どうする?」

 漫画についてのお便りを片っ端から読んでいる時、沙夜子はふと思い出して顔を上げた。冒頭の挨拶をまったく決めていない。キャッチーな感じにして、リスナーの心をつかまなければ。

「挨拶してから……自己紹介? 『文学部の沙夜と芸術学部の瀬良です!』みたいな」

「いや、学部いる?」

 星良がそこでようやく顔を上げて突っ込む。心底嫌そうな顔だ。

「なんで? 恥ずかしい?」

「恥ずかしいわけじゃないけど……こう、なんか嫌じゃん。察してよ」

「ふーん……?」

 沙夜子は軽く口を尖らせた。文学部などという、どこの大学にもありそうな学部にいると、彼女のようにやや特殊な学部に所属する女子大生は、ちょっと眩しく見えるものだ。

「それに……今は大学行ってないし」

「行けばいいのに。単位取りそびれるよ?」

「わかってるよ」

 星良は大きな溜め息を吐いた。そこで吐き出された息に言い知れぬ苛立ちを感じて、沙夜子は押し黙る。余計なお世話だったことは間違いない。このままではいけないことは、星良が一番よく理解しているだろう。

「もったいないよ」

 でも、言わずにはいられないのだ。

「実力あるんだから」

 それを見込んで、このラジオに誘ったのだから。

「うっさい」

 小さく返されたそれは、明らかな拒絶だった。星良はそれきり黙って、お便りを読む作業に専念した。沙夜子もそれ以上なにも言わず、コピー用紙が散らばったローテーブルに視線を落とした。

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