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沙夜『えーというわけでですね。急にこんな一般人がタイムラインキャストなんぞ使ってラジオもどきを放送するってんで「どういうこったい」という方も多いかと思うんですけど』
瀬良『ほんとにね。恐らく私が一番そう感じたと思うんですけど』
沙夜『そうだねー唐突な話なのに付き合ってくれてありがと。リスナーの皆様も聞いててわかると思うんですけど、こちらの瀬良ちゃんは非常に心強い味方でしてね。私ひとりじゃこうやってラジオをやることなんて出来ませんでしたし、こんなにたくさんの人が聞いてくれることもなかったと思うんですね。ひとえに瀬良ちゃんの人望に感謝ですよ』
瀬良『褒めてないで進行して。ひとつめのコーナー行くよー』
沙夜『おっとごめんなさい。それじゃ行きますよ! まずはですね、お便りをたくさんいただいたこちらのお話ですね。多くの方の記憶にも新しいんじゃないでしょうか』
瀬良『本日、十一月三日は「文化の日」です。一九四六年に日本国憲法が公布された日ですね。なんでもこの憲法が日本の平和と文化を尊重しているから「文化の日」になったんだとか。でも、それだけじゃあないんですよ。ね、沙夜さん』
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翌日、授業が三限からしかない沙夜子は、朝九時から星良の1Kの部屋に威勢よく乗り込んだ。夜通し浮かれていた沙夜子はろくに眠れなかったが、それが逆にアドレナリンの分泌を促していたのだろう。後の星良は「目は輝いていたけれどその下の隈はどす黒かった」と語る。
ふたりはまずローデスクに肘をつき、ラジオで何のコーナーをやるかについて話し合った。が、これが想像以上に難航した。番組の長さは三十分ほどにしようと決めたのだが、すべてがお題フリーのお便りだと退屈しそうだ。それに、縛りがなさすぎるとリスナーもどういう内容を投稿すべきか迷うだろう。
「悩みを聞く……じゃ普通だよね。それこそお題フリーのお便りとして受け取ればいいよね」
沙夜子は頭をガシガシ掻きながら床に寝転がった。星良の部屋はきちっとしているので寝転んでもティッシュ箱の角が頭に突き刺さったりしない。ちなみに沙夜子の部屋では突き刺さる。
「自慢話とかは……日本人奥ゆかしいし、わざわざ投稿する人いなさそう」
「あのさあ」
思いつくままにポンポンと意見を口にする沙夜子とは対照的に、口元に手を当ててじっと考え込んでいた星良が口を開いた。
「決行日は、いつ?」
「……へ? いや、決めてないけど」
「決めて、今」
「ええー……」
ちらり、と星良のデスクに視線を投げる。加湿器の横でその存在を主張する卓上カレンダーには可愛らしい文字でOctoberと綴られていた。先週体育の日が過ぎて、これ以降は来月にならないと祝日がない。
「祝日がいいんじゃないかなーとは思うけど」
「どうして?」
「前もってみんなに宣伝する時にさ、『ラジオやります! 十一月三日、文化の日です!』って具合に言えば少しは憶えてもらえそうじゃない?」
「じゃあ十一月三日にすんのね」
「え……あ、うん」
意図せず決まった日程だが、沙夜子とて反論はなかった。準備期間はおよそ半月ということになる。よく知らないが充分だろう。
ちょっと待ってて。星良はそう言うとスマートフォンで何かを調べ始めた。程なくして、唐突に言い放つ。
「文具についての話題にしようよ」
「文具?」
特に何の脈絡もないように感じたが、星良はスマートフォンの画面を沙夜子の顔に突きつけて説明した。
「十一月三日は、東京都文具事務用品商業組合その他が正式に『文具の日』に指定しているの。ここに絡めてお便りを募集すればいいんじゃない? 文具の思い出って多そうだし。小学校の時に好きな男子に消しゴムもらったとか」
「ほう、もらったことあるんだ。未だに憶えてるの可愛いね」
急に座布団で殴られたが、テーマは無事に決定した。
「あと台本なんだけど……」
「それはお便りが集まらない限りはどうにもならないじゃん。お互いのアカウントで『お便り募集中!』って銘打って集めよう。沙夜さんは大学で友達から集めたっていい。内輪な話題は避けてね」
「瀬良ちゃんこそ引きこもってないで学校行けばいいのに」
口をとがらせるときつい目で睨まれたので、慌てて「わかったわかった」と鞄をつかむ。そろそろ出ないと三限が始まる前に講義室で昼食を食べる時間がなくなる。
「ちゃんとアカウントで募集かけてね! 瀬良ちゃんのほうが私よりフォロワー多いんだし! あといつものテンション低い感じの投稿じゃだめだからね!」
「うっさい早く行け」
口うるさく言ってくる沙夜子にうんざりした様子を見せながらも、星良はわざわざ玄関まで見送ってくれた。何だかんだいい人なのである。
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