紅色珊瑚と金の蝶
小林左右也
仲良しの従弟と再会したけれど
十三歳の誕生日は特別だ。
昔でいう十三歳は、大人の仲間入りをする年齢だったという。今では十三歳では大人の仲間入りはできない。でも当時の名残で今でも一族を上げて盛大にお祝いをして、成人の証に「守り石」を両親から贈られるのが、この地域の習慣となっていた。
守り石とは、つまり宝玉のことだ。宝玉には強い守護の力があって、持ち主を厄災から守ってくれると言われている。
その昔、この地域一帯を治めた王様が、成人を迎え独立する我が子に贈ったのが最初だと言い伝えられている。
わたしの守り石は
二年前の誕生日に貰った紅珊瑚は、いつでも身につけておけるように簪という形で両親は贈ってくれた。
真っ赤に熟した果実みたいな紅色珊瑚と、三つ連なった繊細な細工の金色の蝶。
結い上げた髪に挿して少し首を傾げると、金色の蝶はしゃらしゃらと涼しげで綺麗な音を立てる。お守りでもあるこの簪を、わたしはとても気に入っていた。
そう。大の仲良しだった従弟と再会するまでは。
◇
わたしの母の姉である
幼い頃から伯母に憧れていたわたしは、絶対に弟子にして貰おうと決めていた。だから父の仕事の都合でこの海辺の街を離れなければならなかった時、わたしは伯母に大きくなったら弟子にして欲しいと懇願した。
以前から伯母は弟子を取らないと公言していたから、最初は難色を示していた。でもわたしも負けなかった。頑張ってお願いした挙句、とうとう音を上げたのだろう。
伯母は「じゃあ十五になったら」と、わたしの申し出を聞き入れてくれた。もしかすると、その場をやり過ごす方便だったのかもしれないけれど、残念ながらわたしは本気だった。
伯母みたいに立派な占術師になりたいという理由はもちろんある。けれども、もしかすると……ただこの街に戻ってくる理由が欲しかったのかもしれない。
「これからしばらく、お世話になります」
これから師となる伯母に、丁寧に深々と頭を下げる。
髪に挿した簪の蝶がしゃらり、と音を立てる。まるで頑張れと励ましてくれている気がして心強い。
「あの、伯母さま」
「先生とお呼びなさい」
そうだった。小さく肩を竦めてから。
「先生……あの、
館に着いても一向に姿を現そうとしない従弟のことが、さっきからずっと気になっていた。
「あの子はまだ寝ているわ」
「……具合でも悪いのですか?」
従弟の
「そうじゃないわ。心配しなくて大丈夫よ。あの子、今では嘘みたいに丈夫になったのよ?」
伯母はゆったりとほほ笑んだ。
「実は、最近あの子に占術に使う絵札を書いてもらっているの。あれでなかなか上手なのよ? 昨夜は遅くまで机に向かっていたようだから、まだ寝ているのでしょう」
「そうですか……」
そうは言っても、もう昼過ぎだ。それに、わたしが今日来ることは知っていたはずだ。
もしかしたら港まで迎えに来てくれるんじゃないかと期待していたけれど、待っていてくれたのは伯母だけだった。
もちろん。忙しい合間を縫って出迎えてくれた伯母には感謝している。
……でも。
真っ先に会いに来てくれるだろうと期待していたのだ。だからまだ寝ているなんて聞いたら、もっと気持ちが落ち込んできた。
従弟の
もしかして……楽しみにしていたのは、わたしだけだったのだろうか。
「あら、おはよう。やっと起きたわね」
伯母が、わたしの背中の向こうに声を掛ける。
「……ああ、おはよう」
聞いたことがない低い声が、あくび交じりに答える。誰だろう、と思って振り返るとそこには見知らぬ少年がいた。
少しもつれたくせのない黒髪。夜着の打ち合わせが少し肌蹴て白い肌が覗いている。多分起きたばかりなのだろう。
同じ年頃の寝乱れた姿なんて、少々どころかものすごく目のやり場に困る。
思わず目を背けてから気が付いた。
……もしかして、
五年前は背だってわたしよりも低かったし、女の子みたいに華奢だった。むしろわたしが男の子に間違われていたくらいだ。
今はずいぶん背も高くなって、細身なのに全体的にごつごつした感じ。声もまったく変わってしまっているけれど、あれだけ仲が良かった従弟の姿がわからないわけがない。
間違いない。
じんわりと懐かしさが込み上げてくる。気恥ずかしさを感じつつ、従弟の名を呼ぼうとした時だった。
「悪い、お弟子さんがいたのか」
わたしの姿を見るなり、慌てて立ち去ろうとする。
「
慌てて従弟の名を呼ぶと、少年は足を止めて眠そうな目を向ける。
「
「……?」
わたしの問いには答えず、不躾な視線を向ける。
「あの……」
相手の反応があまりにも鈍いので、だんだん自信がなくなってきた。助けを求めるように伯母に視線を向けると、すかさず助け舟を出してくれた。
「
途端、
「
驚きに満ちたその表情から、彼はまったくわたしに気が付いていなかったようだ。落ち込んでしまいそうだったけれど、無理やり笑顔を取り繕う。
「久しぶりだね。元気だった?」
「……あ、うん。まあ」
彼の反応は鈍かった。嬉しそうではないことは明白で、どちらかというと困っている様子だ。
「会えるのを楽しみにしています」
手紙にはそう書いてくれたのに。
やっぱり、わたし……来ない方がよかったのかな。
今すぐ問い質したい気持ちでいっぱいだったけれど、結局何も言えなかった。
◇
伯母の下には何人かのお弟子さんがいるようだが、本格的に占術を学んでいるというよりは、楽しみの一環として習いに来ているといった人達ばかりのようだ。
週に何度か訪れるというお弟子さんたちは、わたしよりも小さな女の子や、母くらいの歳の女の人もいる。皆近所に住む人たちのようだ。
お弟子さんたちは気さくな人たちばかりで、すぐに親しくなれそうだった。でもあれほど仲が良かった
「
伯母は元気づけようとしているのかもしれないが、
あれから七日。毎日顔を合わせている従弟とは、いまだに以前のような関係に戻れないままだった。
伯母の言いつけで、今朝は海岸通りで開かれる市場へと買い出しへ行くことになった。
料理番のお婆さんの腰痛が酷いから、代わりに行くよう頼まれたのだけれども、朝の市場での買い物は思いのほか楽しいものだった。
海辺の街はとても賑やかで楽しいものがいっぱいで、わたしの住んでいる小さな島の市場とはまったく大違いだ。
獲れたばかりの魚や貝はもちろん、内陸から運ばれてきた野菜や果物は珍しいものばかり。絞りたての牛や山羊の乳や、新鮮な果汁を売るお店、たっぷり蜂蜜を絡めた揚げ菓子のお店は、ついつい足を止めてしまいたくなって苦労した。
食べ物の他にも、目にも鮮やかな布地や紐を取り揃えたお店や、金や銀にべっ甲細工のお店もある。
家族の元を離れたせいなのか、仲良しの従弟が素っ気ないせいなのか自分でのよくわからないけれど、ほんの少しだけ気が塞いでいたようだ。
活気のある市場へ足を運んだお陰で、久しぶりに気持ちが晴れやかになった気がした。
食材が詰まった重たい籠を抱えて、勝手口から厨へ入ると、貯蔵棚の方で物音がした。
「ただいま帰りました」
てっきり料理番のお婆さんだと思って声を掛けると、なんとそこにいたのは従弟の
「……おはよう」
恐る恐る声を掛ける。どうやら貯蔵庫を物色していたらしい。
「何してるの?」
「……腹が減ってさ、ちょっと」
誤魔化すように視線を泳がせる。ふと遅くまで彼の部屋の明かりが灯っていたのを思い出した。
「もしかして、徹夜していたの?」
お弟子さんたちが使っている絵札も、
「そうだ。さっき市場で杏を買ってきたの」
食材が詰まった籠の中から、今朝摘んだばかりという黄金色に熟れた果実を取り出した。
「食べる?」
「……食べる」
空腹には勝てなかったらしい。ばつが悪そうにしながらも、わたしから杏を受け取り、すぐさま齧りついた。
やっと会話らしい会話ができたものの、まったくわたしと目を合わせようとしない。
やっぱり、わたし……ここに来ない方がよかったのかな。
故郷を発つ前、母から聞いた話を思い出す。
璃家の占術師は代々女が継ぐことになっている。これまでまったく気にしていなかったけれど、言われてみれば確かにそうだと思いだした。先代も、またその先代も女性だったらしい。
でも、璃家直系の血を引くのは
だから、
けれど本家の長子である彼にはそれができない。
「ね、
「……ん」
すでにひとつ目の杏を食べ終えた彼は、ふたつ目に手を伸ばしながら生返事を返す。
「あのね。本当は……」
本当は、嫌だったの?
わたし、ここに居ない方がいい?
幼い頃から彼が占術師になりたいと思っているのを知っていた。子供の頃は家の事情なんてわからないから「ふたりで一緒に伯母さまみたいな占術師になろうね」なんて無責任な約束をしていたと思う。
わたしは酷い。彼が叶えられない夢を、わたしだけが叶えようと、こうしてここまで来てしまった。
でも欲深いわたしは、彼の事情を知ってしまっても、まだここに居たいと思っている。
「本当は、なに?」
「…………ううん、やっぱりいい」
やっぱり怖い。わかってはいても、彼の口から直接聞く勇気は持てそうになかった。
「……なんだよ、言い掛けておいて」
ふと視線を感じて顔を上げると、思慮深い黒い瞳がわたしを見下ろしていた。
「……あ」
驚いた。目線が以前とはまったく違う。
「?」
わたしの驚きがうつったかのように、彼も訝しげに首を傾げる。
「背、本当に高くなったね」
「なんだよ、今更」
「だって。ほら」
わたしの頭の位置は、彼の顎の下くらいだ。久し振りに会った時、すっかり追い抜かれているのはわかっていた。でもこうして改めて並んでみると、彼がどれだけ大きくなったのかわかる。
「ずるいなあ。
もう少し背が伸びて欲しかった。心底羨ましくて、つい恨めしげな声を上げてしまう。
「
からかうような彼の言葉に、わたしは力を込めて反論する。
「縮んでないです! なによ。自分がにょきにょき大きくなったからって自慢しないでよね」
「にょきにょきって……」
彼は言葉を切ると、突然大きく吹き出した。呆気に取られるわたしの前で、お腹を抱えて笑い出す始末。
でも、ここへ来てから、初めてみる従弟の笑顔だった。
「もう! なに笑っているの」
「だ、だってさ……」
小刻みに肩を震わせながら、薄っすら浮んだ涙を拭う。
「ずいぶん様変わりしたから、中身も変わったのかと思っていたら……全然変わってないからさ。おかしくって」
そう言いながら笑っている彼は、なんだかとても嬉しそうだ。
「なによ、中身だって変わったもん」
文句のひとつでも言ってやろうと思ったけれど、ふと気がついてしまった。少なくとも見た目は成長したと思ってくれたらしいということを。
――
ふと伯母の言葉が甦る。
そんな台詞を
「見た目は、どんな風に変わった?」
「……そうだな」
「前より髪が長くなった……かな」
……なんだ。
ちょっとは期待してしまった自分が莫迦みたいだ。
「……二年かけて伸ばしたの。長くないと髪が結えないから」
「ふうん」
どうでもよさそうな反応に、少しだけ悲しくなる。
しゃりん。
無意識に俯くと、簪の蝶が軽く澄んだ音を立てる。
「相変わらず虫が好きなんだな」
「虫って言わないでよ。蝶!」
「昔は虫籠がいっぱいになるほど捕まえていたしな」
「……確かにそうだったけど」
当時は好きだった昆虫も、今はすっかり苦手になってしまった。
でも蝶は別だ。今は捕まえたりはしないけれど、美しい翅で羽ばたく蝶は、神秘的で心惹かれるものがある。
「一日中、山の中を駆けずり回っていたもんな。
「もう。ちっちゃい頃の話でしょ」
当時はかなりお転婆だったわたしは、
「あのね、わたしだってもう十五だよ? 中身だって、ちゃんと大人になっているんだからね」
「へーえ」
あ、莫迦にしてる。
悔しくて小さな胸を大きく張った。
「この簪が似合う女性になれるように、これでも努力をしてるんだから」
髪に挿した紅珊瑚と金の蝶をあしらった簪を指差す。
「これ、十三祝いの?」
彼は指差した簪をまじまじと見つめる。
「……うん!」
覚えていてくれたんだ。
十三歳のお祝いの時に貰った簪のことを、誰よりも早く
簪のことを覚えていてくれたのが嬉しくて、久しぶりに
「
旧暦では、わたしも
「ね、
でも違っていた。わたしの言葉を聞いた途端、
「……
「うそ」
それに彼は本家の長子だ。ただお祝いをしていないという事実が信じられなかったのだ。
「嘘って……あのなあ」
わたしの反応に、苦い笑いを浮かべた従弟に驚いた。初めて目にする大人びた表情に、少しだけ胸が痛くなる。
じゃあ、守り石は?
彼の答えは薄々わかっていたから、口には出せなかった。でも、彼にはわたしの考えなんてお見通しのようだ。
「守り石なんて持っていない。母さんが言うには『親の脛を齧っている子供に、かつての成人のお祝いをするなんておかしい』ってさ」
「…………」
知らなかった。
「そっか……」
掛ける言葉が見つからず、それきり何も言えなくなってしまった。俯いた時、小さく揺れた簪の蝶がひどく重たく感じた。
もしそのことを
でも、彼の気持ちを知らずに、ずいぶん無神経なことを言っていたに違いない。
そっと頭に手をやると、髪に挿した簪を引き抜いた。引き出しにしまっておこうかと思ったけれど、これは大切なお守りだ。肌身離さず持っていたいという気持ちと、
……どうしよう。
しばらく手の中の簪を見つめて考えた挙句、簪を隠すように帯の間へと簪を差し込んだ。
これなら彼の目にも付かず、肌身離さず持っていられる。我ながら、なかなかいい隠し場所だと思っていた。
◇
「…………ない」
帯の陰に忍ばせた簪が無くなっていると気が付いたのは、それから三日目の夜だった。
どこに行ってしまったのだろう?
仕事をしている時に、うっかり落としてしまったようだ。思わず泣き出したくなる気持ちを抑えて、頭の中で懸命に今までの行動範囲を思い浮かべる。
今日は外出をしていないから、母屋の中か伯母の仕事場、もしくは庭園しか考えられない。誰にも知られずに捜そうと、その後はどうにか動揺を隠しながら一日を終えた。
皆が寝静まった後、わたしはこっそりと寝室から抜け出した。なるべく物音を立てないように、素足のままで家中を歩き回る。
床の木目の間に挟まっていないか、家具の下に入ってはいないか。敷物の下に隠れてはいないか。
思い当るところは全部、丹念に小さな明かりを翳しながら、指を這わせて捜した。
やっぱり、引き出しにしまっておけばよかった。
今更後悔をしても仕方がない。だけど後悔せずにはいられなかった。
いつの間にか目尻に滲んだ涙を拭うと、必死に床に這いつくばって簪の行方を捜した。だけど、簪はどこにも見つからない。
残るは離れの仕事場と庭園……まずは仕事場に行ってみようと思った。
母屋と離れの建物は、小さな中庭を挟んで隔てられている。ふたつの建物を繋ぐのは、外に面した渡り廊下だ。
夜の闇と虫の声に包まれた渡り廊下に、明かりは灯されていない。ちょっと気味が悪いけれど、今はそんなことを言っている場合ではない。
生唾を飲み込み、そろりと歩き始める。燭台を掲げ、忍び足で渡り廊下を半分くらい進んだ時だった。
「
「……っ!」
突然上がった声に、思わず燭台を取り落としそうになる。
「
声の主は
「……こんなに遅く、どうしたの?」
胸の鼓動が速くなる。できるだけ平静を保ちながら訊ねると。
「どうしたはこっちの台詞だ」
早足で詰め寄ると、少し怒ったようにわたしを睨みつける。
「……怪しいことはしていないよ」
聞かれてもいないのに、言い訳めいた言葉を口にしてしまう。
「わかってるよ、そんなの。それでどうしたんだ、こんな時間に」
理由を聞くまで逃して貰えなそうだ。適当に誤魔化そうと思ったけれど、肝心な誤魔化し文句が浮かんでこない。
「…………落し物を、探していて」
嘘ではない。全部を話していないだけだ。
「
「……こんな夜中にうろついている奴がいたら、嫌でも気になってさ」
そうだ。
「ごめん。邪魔しないように静かにするね」
「な、なに?」
まさか、通せんぼをされるとは思わなかった。驚いて
「落し物って、これ?」
思わず息を飲んだ。
だって彼が差し出したのは、まぎれもない、わたしの大切な簪だったから。
「…………どこに、あったの?」
声が震えそうになるのを、必死で堪えながら訊ねる。
「厨にあった。洗い桶の中に落ちていた」
「えっ」
洗い物をしている時に落としてしまっていたようだ。わたしは慌てて、珊瑚が欠けていないか、金細工の蝶が壊れたり、ひしゃげたりしていないか。慌てて簪をくるくる回して確認をする。
「大丈夫。壊れていない」
「……ありがとう」
よかった。思わず涙が零れそうなくらい嬉しかった。……けれど。
複雑な思いで簪を握りしめる。少し迷ってから簪を帯に挿し込もうとしたら、
「
「どうして、髪に挿さないの?」
どきり、とした。
「それは……」
咄嗟に言葉が出てこない。それでもわたしは、何か言わなくてはと、とにかく必死に考えた。
「髪……洗ったばかりだから。挿せないでしょ?」
普段は高い位置で結い上げている髪を、今はゆるやかに三つ編みでまとめているだけだ。でも
「今のことじゃなくて。ここ最近挿していないだろ」
驚くほど真っ直ぐな目がわたしを捉える。ついこの間まで、目も合わせてくれなかったのが嘘みたいだ。
「……似合っていないって、思ったから」
嘘ではない。
でも、いくら鏡の前に立ったところで、女の子らしい格好が似合っているかなんてわからない。
「…………似合ってるよ」
しばらく黙りこくっていた
「果実と虫がくっついた簪なんて、
憎まれ口を叩きつつ、わたしの髪の一筋を指に乗せてそっと耳に髪を掛ける。何をするのだろうと思っていたら、そのままこめかみの髪の中に簪を差し込んだ。
「ほら、きれいだ」
途端、彼の頬が珊瑚のように真っ赤になる。
「ちが、違うって。簪が、だよ」
否定しつつも赤い顔のまま、
「……ずっと見てみたかったんだ。
「……本当に?」
わたしが簪を挿せなかった、もうひとつの理由。もしかすると
「うわ、泣くなよ。
何かを勘違いした彼は、言い慣れないお世辞に苦心している様子だ。
「ううん、簪がきれいって言ってくれて、すごく嬉しい」
すると、
幼い頃と変わらない穏やかな笑顔。それが堪らなく嬉しかった。
おわり
紅色珊瑚と金の蝶 小林左右也 @coba2018
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