第15話 外周に出たあと、直線で35キロ以上出してください
修了検定の実技試験は1番が高瀬、2番が我ウリエル織江、3番が沢畠である。
待合室に寄せてあった車には「検定中」という黄色いコーン状の置物が車体の上に乗っていた。
前田「はい、では発進してください」
1番の高瀬が運転席で運転し、2番の我が後部座席でシートベルトをしてみている。
前田「外周に出たあと、直線で35キロ以上出してください」
前田「カーブ後に1番右折してください」
前田「次、1番右折でクランク入ってください」
教官は、進むルートだけ指示をする。一時停止や信号、寄せなどの車の操作については一切、話をしない。あくまでも、進行の指示だけである。
今まで無線や教官で教わってきた、合図と停止、確認を冷静に思い出してやるだけである。
今日の朝、林教官はこっそりアドバイスをしてくれた。それは、目視確認は少し大げさに、早めにやることだ、と。
運転ルートは無線ルートに何か所か一時停止や坂道発進が追加されているが、特別に難しいことはない。1番高瀬のミスなく一巡した後、我の番がきた。
前田「では、織江さん。発進してください」
「お願いします。 …なっ!?」
我が誰かにこのような人の子に物乞いを言うことは一度もなかった。だが、この体に転生し、友人ができ、寮で生活し、教官と接する中で、自然と無意識にこの言葉が発せられた。
それは驚きであり、怖さでもあった。我が絶対にしないであろう言葉や感情が、自然とこの器から侵食してくるように覆いこむ。
まるで、我が我でなくなっていくかのように…。
数秒の間にここまでの思考が働き、すぐに運転手としての意識に戻った。右に指示器を出して、レバーをDにして、サイドブレーキを下げた。
後は言われるがまま、指示通りのコースを回り、難なく2番の停止位置に止めた。いつもなら時短のために速度を出していたが、今回は慎重な側で回るようにして、若干誇張して左右に首を振るようにした。
最後に3番、共に入校した11月10日組の沢畠である。
沢畠「よろしくおねがいします」
前田「では準備できたら発進してください」
沢畠は無線で一緒に回っていた。S字も坂道発進も、ミスなく回っているので問題はないだろう。
我は後部座席で、青い空を眺めながら、自分がミスした学科問題を思い出していた。
ガタン!! ドン!
「!?」
合宿免許卒業まで、あと8日
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