第14話 6回模擬試験受けたんですけど、どれも80点しか取れなくて…最後は同じ問題をもう一回やることになって、何とか合格できたんです

 我は修モは92点で通過し、1階の窓口で申請書類で明日の修了検定の申請の準備を行った。

 最初に取った写真が必要と聞き、鞄に入れた写真の一枚を渡した。


 ※紛失すると880円で写真を撮り直しになります! うっかり無くさないようしましょう(1敗)



 沢畠は2階に戻っていった。これは、合格点90点に届かなかったのだろう。我は17時に食堂が開くまで彼を待っていたが、何度も窓口を往復しているだけで、終わる気配はなかった。



 寮まで送る送迎バスに乗り、そのまま就寝した。92点では2問落とすと88点で不合格である。

 初回は1700円の修了検定の費用が免除されるが、一度落ちるとそれ以降は毎回1700円がかかる。

 修了検定は火曜日、木曜日、日曜日の3度しかない。一度失敗するごとに、卒業が2日遅くなるということだ。寮の宿泊費も実費が増えると聞く。このプレッシャーは重い。

 我は合格ラインに達しているとはいえ、油断していると不合格になる可能性がある。


 この織江という人の子の器を使っているとはいえ、天使であるウリエルが人の子らに劣るなどありえない。合格せねば示しがつかないのだ。


 我は寮に戻り、睡魔に襲われるまで、満点様でスマホぽちぽちした。








 翌日、11月16日。8時50分に見知らぬ肥満男と沢畠と我の3人が教室で座っていた。


 前田「はい、それでは今日は修了検定となります。まずは検定車で運転をして、合否を決めます。合格者は、11時頃から学科試験を行います。学科試験の合格ラインは90点です」





 前田「本日は3人なので、最初の高瀬さんは私が運転してコース案内します」


 前田「二番の織江さんは、高瀬さんの運転時に後部座席に乗ってコース確認して、三番の沢畠さんは織江さんの運転を見ます。最後、沢畠さんの運転は織江さんが見て下さい」


 沢畠「わかりました」


「承知した」


 前田「では前田さんは私の後についてきてください。お二人は9時半ごろに待合室で待機していてください」



 沢畠「ああー。緊張しますね」


「今日、検定受けられたのなら、昨日は90点以上取れたのだな」


 沢畠「それが…。6回模擬試験受けたんですけど、どれも80点しか取れなくて…」


 沢畠「最後は80点しか取れなかった問題をもう一回やることになって、何とか96点で合格できたんです」


「人間界でいう、温情、というやつか」


 沢畠「ここまで不合格が続くと申請許可できないそうなんですが、合宿免許で遅らせられないことを話したら、内緒で同じ問題でやらせてくれたんです」


 沢畠「普通に90点以上取れれば自信持てたんですけど、やればやるほど取れなくて自信なくなってしまって」


 沢畠「だから心配であまり眠れなくて。今日朝4時に起きて、ずっと問題をといてました」


「やるではないか」


 沢畠「そうでもしねぇと不安が消えなくて。今日合格できねぇと配達する予定のお客さんに謝らないといけねぇんです」


「我も不合格なしで最短で合格しなければならぬ。この身と名誉のためにな」


 沢畠「お互い、がんばりましょう!」


「ああ、そうだな!」


 不思議と、胸が熱くなるような感情が湧き出た。天界では喜怒哀楽という概念はない。天界の天使だったときに、下界の人の恨み悲しみという負の感情は、ただの失敗要素であり人間の欠陥遺伝子だと考えていた。


 この織江という器に転移したことで、我の考えかたが少しずつ変化しているように感じた。



 9時20分に、クルマが停留している待合室で沢畠と我が待機している。


 前田「はい、では織江さんは後部座席に乗ってください。高瀬さんは運転席に乗りましょう」


 高瀬「よろしくお願いします」




 合宿免許卒業まで、あと8日

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