第4話 数年前に63歳の男性の方が来ていました
中川「おつかれっす」
最初に会ったギラギラした装飾をした若者と老けた男が食堂で待っていた。
沢畠「織江さん、一緒に食べませんか?」
「ああ。体の栄養分が不足しそうでな」
テーブルが並んでおり、中央には小皿に様々な調理品が並んでいる。
婆「あなたたち、この食堂初めてかい?」
沢畠「はい。食事したいのですが…」
コロナという流行病の影響で、ここ数年はヒト同士が触れないように、ソーシャルディスタンスと防疫をしているそうだ。
揮発性のある液体を両手につけて、さらにビニール袋を着用して小皿を取っていく。
セルフサービスというもので、各自で好きな分だけ取って食べるようだ。
手前で三人が向き合って座る。奥には数人の男女が食事をしていた。
沢畠「いただきます」 スッ
両手を合わせて言葉を発した。奥の婆たちは、こちらを見てニッコリしている。
中川「…。 いただきます」
男たちは食べ始めた。我もチキュウニホンに転移した身であり、掟(ルール)には従うように慣れてきた。
「いただきます」
見よう見まねで肉の塊を口に運んでかみしめる。
「どんどん食べてね! ごはんと味噌汁のおかわり、いくらでもあるから!」
「…。 これが食事というものか」
天界では、下界の人の子の供え物の一部が概念として天使たちに配給されれる。それは人まねをしても消化吸収できるものではなく、ただ概念として取り込むだけであった。
執行者として亡霊の罪を認知するとき、食事をするという行為を見るだけであった。
えもいえぬ充足感。動くと累積する疲労感が回復する感触があった。
水という流体を見まねで補給すると、渇きが癒えた。飛行や貫通ができない不自由はあるが、生物特有の満足感が少しわかった気がした。
沢畠「中川さんは、どうしてこの教習所を選んだのですか?」
中川「俺ぁ、5年前にここで免許取ったのでね。知ってる教官、何人もいたよ」
沢畠「へえ。どおりで、場所や名前を覚えてるわけだ」
中川「前の時よりも、随分きびしくなった感じっス。沢畠さんはなんでここを?」
沢畠「50歳になもなると、年齢制限で受け差てくれる所が少なくなってね。このあたりじゃ数か所しかなかったんだ」
沢畠「あの、ここの教習所で卒業した最年長の方ってどれくらいなんですか?」
調理場の婆たちに聞いた。
婆「そうだねぇ…数年前に63歳の男性の方が来ていましたね。60代だと、他に数人ほど」
中川&沢畠「63!?」
「そのような年寄りにこの車が扱えるのか?」
沢畠「ほとんどは、老いを自覚して運転しなくなるか、返納しますね」
「人間というものは、不思議なものだ」
沢畠「では寮にいくバスが来るので、行きましょうか。ごちそうさまでした」
外に出ると暗く、バスとやらに乗り込んで2人についていった。
合宿免許卒業まで、あと14日
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