第3話 おじゃましまーす

「あの左の奥の車にしましょうか。初心者マークを貼ったら、助手席に座ってください」


 ここは娼館か?

 教官の男はどれも老いた者が多いが、女はやけに若い。顔に皺のある女職員は、調理場だけであった。


 


 「我はウリエル。名を何という?」


 本田「本田です。胸のストラップに名前が書いてあるので、困った時はよんでください」


 「下界というのも、決して悪だけではないのだな」


 本田「? 発進と停止をやりますね。車内の調整はこのように…」



 教本に書かれた通りの事を、説明し、我はただ座って聞くだけであった。



 本田「では出発しますね」


 グォン! ブロロロロロ…




 本田「内周を回ると1番手前に障害物があります。手前で指示器を右に出して、車線をまたいで避けます」



 カッチ、カッチ、カッチ、スイー



 本田「おじゃましまーす」


 本田「抜けた後は、戻るために指示器を左に出して。ゆっくり戻します」





 本田「おじゃましましたー」


 本田「はい! こんな感じで戻ります。この後、織江さんにも運転してもらうので、同じようにやってみてください」



「造作もない」 oO(結婚しよう)


 一通りの運転が終わったあと、我が運転席に乗って運転することになった。







 本田「では障害物を避けてください」


 




 カッチ、カッチ、カッチ、スイー


「お、おじゃましまぁす」



 本田「あっ…。声まではマネしなくて良いですよ」


「同じようにしろと言ったではないか」


 本田「ふふふっ。織江さんって面白いですね」


「天界に喜怒哀楽の感情はない。与えられた職務を全うするだけだ」


 本田「このカーブの後で7番が見えるので、そこを左折してください」


「承知した」




「ふぅ」


 本田「停車も問題なしですね。はい、教習手帳をお返しします。お疲れさまでした」


「教官は、この職務についてどれくらいになる?」


 本田「えっと。5年位ですね」


「若いな」


 本田「えっ…そうですか? はい、初心者マークです。終わった後は、忘れないように回収してください」


 「心得た」


 片方の初心者マークを受け取ったあと、我は後方の初心者マークを取り外して重ね、教習手帳と合わせて鞄に戻した。




 「次は検温と夕食、か」


 合宿免許卒業まで、あと14日

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