第百二十ニ話 ムーレリア内紛
「戯神ローズルによって、創造された機械仕掛けの神とも言われた存在『グラマトン』。
私と違い、レイディウムにとっては創造主とさえ言えるその存在を、レイディウムは突然、滅ぼしました。
それは、なんの前触れもなく、本当に突然の事でした」
「グラマトンの推す『隷属』と、レイディウムの推す『戦争』が相容れなかったから?」
「それも、理由の一つでしょうが、レイディウム……レイは、完全にグラマトンにより創造された存在です。強大な力を持つ事を想定されていた為、無意識下に
グラマトンの
「自分達の勝手で生み出された事への憎悪……か」
子は親を選べない……というやつか。
同じように、親も子を選べない。等と言う者もいるが、それは方便だと、私は思う。
親には、子供を幸せにする責任があるはずだ。望んで作った子供が、親にとっての
――レイディウムの場合、グラマトンによって抑制されていた不都合な思考や感情が一気に噴出したのだ。
いわば、それまでの人生において、抑圧されていたストレスが、爆発した。
グラマトンがレイディウムにとって、どのような印象の存在であったのかは知るべくもないが、親の様な存在であれ、破壊したのだ。
相当な憎しみを抱くような出来事が、それまでにあったのだろう。
「それ以降、レイは人間的な生の感情を手に入れた反面、少なくない虚無感を抱えるようになっていました。
自分の存在理由が、グラマトンにとっての創造主である、戯神をグラマトンの代わりに殺す。というだけのものだったと、知ってしまったから」
「好奇心は猫を殺す。じゃあないけど、そのセーフティを解こうとしなければ、懊悩する事も無かったのかもしれないね」
私の返事に、レイアは首を横に振る。
「ですが、そうしていなければ、レイは人形のままでした。
強い感情を持つからこそ、人は人なのです。私はあの日、グラマトンをレイが滅ぼした日こそ、レイが本当の意味で生まれた日なのだと思っています」
「自己の確立をしてこそ、人たるもの。って事かな」
レイアは小さく首肯し、続けて口を開く。
「グラマトンは、それでも自らのバックアップを大量に持っており、ムーレリア中の各所に潜んでいました。
しかし、レイディウムは破壊したグラマトンの痕跡から、それら全てのバックアップを見つけ出し、グラマトンという存在を完全に消滅させました。
その際、私はアリアンロード達を伴い、レイの目的を問いただしましたが、彼はその時、『戯神を滅ぼし、自らがテラリスの指導者となる』と宣言しました」
「まるで、簒奪者だね」
とはいえ、当時のムーレリアの代表は戯神であった事を考えれば、その流れを汲み、戯神よりも強力な力を持つレイディウムが代表になったとしても不思議では無い。
人では無い彼を、民衆が認めれば、だろうけど。
「レイがムーレリアや、ひいてはテラリスを導く事自体は、私は寧ろ良い事と考えました。レイは人格者であり、痛みを知る者でもあり、尚且つ人間とはかけ離れた叡智を持っている。
レイが新しい社会構造を作るとなれば、それはきっと多くの民を救うはずだと思いました」
「でも、背面世界への考え方は、選択肢が減ったとも言えるのかもね」
「そうですね。レイは、この世界の創造主である背面世界の者達を、基本的に滅ぼす相手とみなしていました。
それ故、レイが考えていたシナリオを実行させる訳にはいきませんでした」
――グラマトンをレイディウムが滅ぼした時、戯神は何を考えていたのだろうか。
私の知る戯神であれば、狡猾な手口や策謀を張り巡らせ、レイディウムを殺すなりする筈だ。
しかし、レイアの話を聞く限りでは、戯神も人格者とは言えないが、ある程度の良識はあったのだろう。
今の戯神の目的は、レイアの魂の同位体であると勘違いしている私に、豊穣の起源紋だと思い込んでいる生命の起源紋を植え付け、その状態の私を支配した上で、アリアとイドラ以外の残り二人の四大起源の力を奪い、豊穣の起源紋を完全なものとし、自らの力とする事。
そして、その力でレイディウムを倒す……だったか。
その後、戯神はテラリスを導き、背面世界の住人達と対話をするのだろうか? ……いや、とても、そうとは思えない。
やはり、戯神にも、このアーレスに辿り着いてから今までの間、人が変わるような出来事があったのだろう。
「リノン?」
「あ、ごめん……ちょっと、考えてた。それで、レイア達がレイディウムを止める役割になった。のかな?」
思考にふける私を、レイアが呼び戻す。
「そうですね。子細は省きますが、当時は戦闘能力においては、圧倒的に私の方がレイよりも上でした。
レイの手練手管を豊穣の力で圧殺し、叡智の起源紋を損傷させた上で、アリアンロード達、
この一連の起源者同士の戦闘行為は、ムーレリア内紛とも呼ばれましたが、ムーレリア大陸の七割を一夜にして崩壊させてしまう程の戦闘になりました。
その戦闘の結果として、予め眷属体を生み出していたものの、アリアンロード達の本体もテラリスにて、今もレイと共に封印されている状態です」
「うーん……でも、そんな力があったなら、レイアがレイディウムを封印するなり、完全に滅ぼすなりしたほうが良かったんじゃないの?」
私の問に、レイアは眼を細め微笑む。
「……レイ自身は、決して悪では無いのです。それに、私にとっては唯一の姉弟の様なもの。
滅ぼす事は、とても私にはできませんでした。
それに仮に、封印したとしても、封印強度で言えば、私が施すのもアリアンロード等が施すのも、それ程差異はありませんし、どれほど強力な封印を行ったとしても、レイは必ず、やがて確実にそれを解くのが分かっていました」
「無限に進化し続ける……ってやつか」
「はい。それに……その時、私はテラリスでレイと本気で戦う訳にはいきませんでした。
それは、このアーレスに入植する為に、惑星の環境を改変するという大規模な力の行使をしなければならなかったからです」
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