第百十一話 銀嶺一刀流
金色に彩られたこの空間。レイアによれば私の内在的な精神世界のようなものらしいが、此処でレイアと出会ってから体感的には、もはや私は、何日が経ったのかすら分からない程の時間が経過しているかのように感じている。
だが、空腹や疲労を感じる事も無く、私はレイアに剣をぶつけ続けている。否、正確に言えばレイアに剣をぶつける事は出来てなどいない。私が振るう剣はそのことごとくがいなされ、受け流され、あるいは弾かれ、躱され続け、これまで一太刀も当てる事がかなっていない。
父様――かつて『銀氷の剣聖』とまで言われた私の父、スティルナ・フォルネージュから、アリアと共に修行に旅立つ際に受け継いだ、私の愛刀……
蛍華嵐雪の持つ力は、使用者の異能の増幅と、解号によって相手の用いる異能へと干渉する事。
仮に父様であれば、相手が何らかの概念の異能を用いたとしても、相手の異能による攻撃自体を氷刹の異能で凍らせる事ができていたのだろう。
このような力に気付きもせず、ただの硬い刀として扱っていた事を考えれば、自らの恥ずべき無知としか言えない。
「
精神を集中し、白銀の輝きを持つほどに収斂させた命気を、脚と頭部に強く集中させる。
太刀を真横に寝せて構え、私はレイアに目掛けて疾走する。
レイアは私の接近に対し、自らの前方、その足元を横薙ぎに鋭く一閃する。
ここに大地があれば、地を割るかのような斬撃、それがこの後どのような効果を及ぼすかは、これまでの長い戦いで理解していた。
私がレイアを間合いに捉えると、先程のレイアの斬撃痕から金色の輝きが放出される。水覇における、高速の斬撃の後に衝撃波を発生させる攻の太刀一の型、
私は強烈な踏み込みと同時に捻りを利かせ、レイアの側面に向け、弧を描きながらレイアの金色の輝きを躱し、踏み込んで行く。
――歩法、
レイアの左側面へと回り込み、肩口を狙い刺突を放つ。
レイアはこちらを振り返る事も無く、身体をその場で廻しながら沈みこむと、回転の威力を乗せた一閃を私の鋒に向けて一閃し、私の太刀は大きく弾かれる――が、私は踵へと重心を移し、レイアに太刀を弾かれた勢いを使い、先程レイアがやったのと同じように沈み込みながら回転し、レイアが振り抜いた剣を狙い、真上へと飛び上がる様に切り上げる。
――攻の太刀三の型、
「――!!」
飛び上がる際に、レイアの撃力と回転の遠心力を両方利用して、錐揉みしながら技を放った為に、レイアの剣に与えた衝撃は相当な威力になった。
しかし、レイアは驚愕に目を見開いたものの、剣を手放すまでには到らない。
上空の私に向け、長剣を腰溜めに構えると剣に金色の輝きを纏わせ大きく一閃する。
「
レイアの放った閃光は、まるでオーロラの様に輝きながら私を滅ぼさんと迫る。
「
白銀の粒子を散らし、高密度に収斂した命気が蛍華嵐雪へと集約される。
「
解号と同時に、太刀から命斬一刀によって収斂された白銀の命気が一層輝きを増す。
――我流、
レイアの放った金色の奔流に、私の放った白銀の奔流が激しく激突する。
以前にも、レイアの技と私の波濤がぶつかり合ったことがあったが、そのときは一瞬にして競り負けた。
だが――今度は、私だけじゃない。蛍華嵐雪の力も借りている。
「おおおおおおおおあああああっっっっッッ!!!!」
「――ッ!」
これまでより更に、蛍華嵐雪へと命気を送り込み、波濤の出力を上げる。
徐々に、私の波濤がレイアの技を押し始め、やがて私の波濤がレイアの金色の奔流を呑み込み、レイアを白銀の輝きが包み込んだ。
轟音と共に、白銀の粒子が荒々しく飛び散り、レイアのいた場所を破壊の奔流が襲う……が、
「
「――なっ!?」
「
レイアは私の波濤の直撃を避け、一瞬にして私の上空に現れると、長剣の鋒をこちらに腕をしぼり、構えるとそこから、黄金の針とも言えるような閃光を幾筋も放ち、それらはまるで豪雨の様に私に叩きつけられる。
「くっ!
行雲流水の一種で、収斂した命気を全身に薄く纏う防御術を大急ぎで展開し、逃げ場の無い空中で金色の嵐をその身に受ける。
蛍華嵐雪により、命気の出力が向上している為、全身を連続で殴られる様な痛みこそあるものの、なんとか耐えられる様だと、考えていれば、頭上のレイアが、金色の翼を背中から展開させた。
「え……?」
「行きますよ」
長剣の鋒をこちらに向け、レイアは金色の流星となって私へと突撃してくる。
とてもでは無いが、あんなものを受けたら銀光套衣を纏っていようが、この肉体は消し飛ぶだろう。
――レイアは、本気だ。
「さぁ、貴方の、リノン・フォルネージュの力を! 私に見せてみなさい!!」
高速で迫るレイアに、私は一か八かの賭けに出る。
「行雲流水・命斬一刀」
白銀の命気を纏わせた蛍華嵐雪を、納刀する。
地面に向けて落下しながらも、迫るレイアに向け、身体を捻り居合の構えを取る。
これから放つのは、水覇一刀流攻の太刀二の型、
「行雲流水・命気収斂……ッ!」
一度の攻撃で、行雲流水を重ねて使う。本来であれば、ただでさえ燃費の悪い私の力はすぐに枯渇するだろう。
だが、今は愛刀の助けもあって、それをなんとかこなせるだけの力が、私にはある。
命気収斂によって、さらに強く命気を纏うのは、右腕と左手の親指。
そして、命斬一刀が纏うのは蛍華嵐雪の鋒三寸と呼ばれる僅かな範囲。
私は、捻った上体の関節を次々に連動させ速度を生み出していき、太刀を引き抜く力へと変換する。愛刀の鯉口が切られた瞬間、白銀の命気を纏った親指で鍔元を弾く。
雷よりも、尚疾く閃いた白銀の一閃が金色の流星を迎え撃つ。
――水覇一刀流攻の太刀……いや、
「
――これは、私の、リノン・フォルネージュの剣だ……!!
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