第百七話 リノン救出作戦 2 side stillna
「白銀の乙女白銀のののの乙女オトオトオト乙女乙女乙女白銀白銀の乙女乙女」
「〜〜〜〜〜!!」
間合いを詰めた状態でも、このノイズが鳴り止む事はない。抑揚のない口調で全員があれこれと喋り続けるものだから、気づけば私の肌は粟立っていた。
だが、呪詛の様にリノンへの愛……と、言いたくは無いが、それを囁きながらも、男達の動きは滑らかで洗練されたものだった。
文字通り
その流れるような動きは機敏かつしなやかで、一切の無駄が無く鍛え上げられた肉体の持ち主であると言うことを如実に物語っている。
(コイツ……もしかしたら、ひとりひとりがユマと同等クラスの力量があるかもしれないな)
だが技量に関しては、ユマも相当なものだ。剣技に関しては二年前の時点ではリノンを遥かに上回っていた。最近も伸び悩む事なく成長している。
皆伝の儀を経るまでにこそ至っては居ないが、将来的には全盛期の私の領域に踏み込んで来てもおかしくは無い逸材だ。
ユマと背中合わせになり、全体を見据えるが、男達の動きに隙は少ない。無いわけではないのだが、簡単にそこに飛び込むのも危険な事だ。
――だが、攻めあぐねていても仕方が無い。こういう時、やる事はシンプルだ。
「ユマ! 屈め!」
「ッ!」
私の発声に、瞬時にユマは体勢を低くした。前方への警戒は怠らず太刀を横に寝せつつも、爪先に捻りを利かせ、次の状況に対応できる歩法を繰り出せる体勢だ。
弟子の対応力を誇らしげに感じながら、私は左の太刀を逆手に持ち、その場で回転しながら自らの異能、『氷刹』を太刀から延ばすように異能の力を展開する。
――攻の太刀一の型、
本来は全身の関節を柔軟に撓らせ、一気に振り抜くことで斬撃の先端速度を加速させ、空気の壁を破壊して衝撃波を発生させる技だが、それを上半身の捻転だけで、繰り出しそのまま二刀でもって円周状に薙ぎ払う。
『氷刹』の異能で太刀に氷の刃を纏わせ、間合いを伸ばしたことにより、斬撃範囲も拡大させ、鋼糸使い達を一気に切り払う。次いで発した衝撃波が、砲撃にも似た轟音と共に発生し、周囲に破壊の波が拡がった。
「やりましたか!?」
「――いや、あまりにも……」
あまりにも手応えが無さ過ぎる。鋼糸で迎撃する訳でも、回避行動を取るわけでもなく……連中は一切の抵抗無く、
血煙が舞い、私が吹き飛ばした男達が、上半身と下半身に別離を告げた状態で散乱していた。
――あれ程に異様な存在感を放っておいて、これで終わるとは到底思えないな……。
「ユマ、警戒した方がいい。何かは分からないが嫌な予感がする」
ユマは無言で頷くと、再び私に背を預け正眼に構える。
静寂が私達の居る空間を支配したのは、やはりというべきか僅か数秒だった。
「激しハゲ激しい、愛ジョジョジョ情ヒョヒョウヒョウ表現だななな」
半ば予想していた事が現実のものとなる。
「アアア愛アアアアアア愛愛愛は、よりそより寄り添うもの」
連中は全員が腹の所で真っ二つに両断されていたのだが、切断面から真っ赤な糸が無数に伸び、別れた身体を繋ぐと、収縮し切断面を繋いだ。
やがて何事もなかったかの様に、狂信者達はゆらりと次々に立ち上がった。
――仕掛けてくるか?
私が剣気を強め、連中を見回したところで、奴等の中の一人が、今までの壊れた機械の様な口調ではなく、突然滑らかに話し出した。
「愛とは、寄り添うもの」
「「「「愛とは、寄り添うもの」」」」
「――!?」
奴等は一斉に声を出すと、隣にいるもの同士二人一組になり、密着しはじめた。
「愛とは、与えるもの」
「「「「愛とは、与えるもの」」」」
次の瞬間、男達の身体から大量の鋼糸が飛び出し、二人一組となっていた男達を繭のように包んだ。
「愛とは、育むもの」
「「「「愛とは、育むもの」」」」
繭の中から声が起こると、繭が一気に収縮する。
「し、師匠……なんですかこれ……?」
「私にわかるわけ無いだろ……。一つ言えることは、油断はするなって事位だよ」
ユマは動揺を隠せないようだが、それは私も同じだ。正直、人間を相手に戦っている気がしない。
「愛とは、繋ぎ合うもの」
「「「「愛とは、繋ぎ合うもの」」」」
一メテル程に収縮した十五の鋼の繭は、今度は一か所に固まりだした。やがてそれらが纏まりだし一つの大きな球体となった。
「――なにか、聞こえませんか?」
「……脈動している?」
ユマに言われ耳をすませば、巨大な鋼の繭は内部から心臓の鼓動のような音が鳴り出した。
――これは流石に、この先の展開は私にも想像ができる。
「チッ……融合し、変体するという事か……!!」
変態が変体などとは、冗談にもならない。
私は両の太刀を鞘に収め、繭に向けて一足に跳ぶ、太刀の間合いに入ると同時に、指弾の要領で鍔元を弾き神速の一閃を放つ。
――攻の太刀二の型、
私の放った一閃は、繭に対し完璧に刃筋を立てて打ち込まれ――硬質な手応えを残し、火花を上げて弾かれた。
「――なっ!?」
「師匠が……断ち切れないなんて……」
弾かれた太刀を戻しながら、左手で右腰の太刀を抜き、二刀で連撃を打ち込むが、それらも繭を切り裂く事はできなかった。
「そう慌てるな銀嶺。……新郎にもお色直しは必要なのでな」
繭の中から、先程までの虚ろな声とは変わって、覇気のある男の声が聞こえてきた。
「――くっ!!」
繭から大量の鋼糸が私に向けて、一斉に振るわれる。それらを切り払い、受け流しながら私はユマの傍らまで後退した。
やがて繭を形作っていた大量の鋼糸が中心に向かって集束していき……中から、白銀のタキシードを着た男が現れ口をひらいた。
「ようこそ花嫁。オレの胸の中へ」
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