第九十八話 オリジンドール・グレイシア
「特別任務?」
「うん。君には、戯神の大型オリジンドール……たしか、オリジンドール・アウローラだったか。
それと戦って貰おうと思っている」
――力を失った私が、あのアウローラと? 正直な所で言えば、今の私では一分と持たないだろう。足止めに徹すれば……いや、それでも一分が二分になる程度だろうな。
スティルナは、そんな事を私に求めているのだろうか? サフィリアやリノンを失った責任を私にそういった形で取らせようというのなら、私の生命を掛けて遂行する覚悟はあるが、スティルナはそういった尻尾切りのような事を強いるような人間では無い。
「既に知っているとは思いますが、私は今、起源紋を失っていて……」
「ん? あぁ、ごめん! そうだよね。言葉が足りなかったな。アリア、君には生身で戦って欲しい訳じゃないんだ」
「? というと……?」
私が意味がわからずに首を傾げると、視界の端で教授が立ち上がるのが見えた。
「顧問。これをご覧下さい」
「! これは――」
教授が渡してきた端末には、アウローラによく似たオリジンドールが映っていた。
形状は、外部装甲がアウローラよりも刺々しさがあり、それは鋭い氷を思わせる。カラーリングもアウローラが金灰色といった感じであったが、この機体は少し紫がかった空色……ゼニスブルーを基調としており、美しい氷騎士の様に見える。
「オリジンドール・グレイシア。それは、君専用の機体だよ。機体ベースは、以前リノンが撃破し鹵獲した皇国の大型オリジンドール。確か、アルナイルといったかな? あれを基に、私と教授で設計を行ったんだ。ホントは、私が使おうと思って作ったんだけど、同時進行で開発していたこのパワードスーツ『エインヘリヤル』が先に完成に達したのもあって、それが無くても私も戦えるようになったしね」
なるほど、本来ならば両脚を失ったスティルナがこれを駆り出撃する事を想定していた訳か。
「コレの特徴は、操者の異能にアクセスして、オリジンドールの身でその力を使える事にあるのです。最高純度の異能力増幅伝達物質『アナキティス』を機体内部へ神経の様に張り巡らせ、能力循環を行い! それにより操者の異能を強大な規模で発生させる事ができ、かつぅぅぅ!! 『エインヘリヤル』開発で培った脳波制御操作システムを採用している為、操者の肉体の延長とすら言えるべき速度での操縦が可能ぉぉぉなのです!」
「は――はぁ」
なんだか凄い勢いで教授が話しだしたので、少し引いてしまったが、要は異能を増幅し、この巨体に見合った規模での異能の発動が容易だという事だろう。操作も簡単に言えば、身体を動かす感覚で扱えるといったところか。
「それだけじゃないよアリア。このグレイシアは短時間ならば、飛行も可能なんだ」
この言葉には、この場に集った一同が驚愕した。テラリスではともかく、このアーレスでは、空を飛ぶ機構を持った物は飛行艇位しか無い。それも製造や維持に莫大な費用が掛かる為、アーレス全土においても片手で数える程度しか存在しないらしい。
そのうちの一機を、傭兵団である紅の黎明が所持しているというのもまた、とんでもない話なのだが。
「団長殿に取られてしまいましたが、そのフライトモジュールは、機体各所に搭載されたコンデンサに異能力を予め蓄積させておき、異能力を変換して浮力、推進力を得るという画期的なもので、搭乗者の異能力の消耗を考慮した結果そのような形となった訳ですが、蓄積させる異能力というのはなんの異能でも、蓄積させる者が何人でも構わないという互換性もあり、尚且つ、想定飛行可能時間は最大四十二時間と、かなりの継続戦闘が可能という素晴らしい代物!! ……まぁ、高速飛行モードでは八時間程度ですが。
そして、更にこのグレイシア最大の特徴が――」
説明を脳に入れながらも、よく噛まずに喋り続けられるものだと半ば呆れつつも関心していると、スティルナが教授を静止する。
「教授、一回ストップだよ。教授の高説は、後でアリアにしっかり聞いて貰うとして、アリアにはこのグレイシアで戯神のオリジンドールを倒さずとも、足止めして欲しいんだ。その間、我々でリノンを救出後……可能なら全員で戯神を攻撃し、倒す」
スティルナは腰に佩いた太刀の柄に手を這わせると、強く握り締める。
「作戦開始は明後日八時から行動を開始する。
四大起源捜索部隊は、飛空艇でライエまで赴き、大陸横断鉄道で先ずはザルカヴァーへ、その後オルディネル山を目指してもらう。
リノン救出部隊は飛空艇でライエを経由した後、マリナリアス渓谷に向かい、我々は戯神のアジトを襲撃する。
以降の段取りは各自行動や事象に合わせて対応するように。本日中に武装メンテナンスを終了させ、携行食糧や備品の準備も終わらせておく事。
まぁ……こんなところかな。なにか質問なんかある人がいれば今のうちに言ってね」
スティルナが全員を見回すと、ベルメティオの腕が挙がった。
「ベルメティオ殿。どうぞ」
「失礼。作戦に直接関係する事では無いので、この場で話そうか迷ったところなのですが、イーリス。お前に聞きたい事がある」
「なんですか父上?」
ベルメティオは口元の髭を一撫ですると、イーリスに問い掛けた。
「お前に『焔』……いや『炎』の異能は、継承されていないか?」
「? ――いえ、私は異能は未だ持ち得て居ませんが……」
「――!!! そうか! まさか……!!」
イーリスの答えに、激しく反応したのはスティルナとシオンだった。
ベルメティオは、一つ頷くと口を開く。
「やはり……。他のフォルネージュの者にも発現した者は居ない……。そもそも『炎』は、当代のフォルネージュの者で一番力のある者に発現してきた。今代で発現するとすれば、イーリスしかいないとは思っていたのだが。となれば――」
――まさか。
「サフィリアは、
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